童顔で可愛いルックスと、明るく物怖じしないキャラクター。男を振り回す天性のあざとさから、寄ってくる男はよりどりみどり。

ただし、それも交際前までー。

付き合う前はモテるのに、交際期間は最長3ヶ月。恋愛が全く続かない女。31歳の絵麻も、そんなうちの一人だ。

なぜなら彼女は、いわゆる「恋愛依存症」の女。重すぎて、いつも男に逃げられてしまう彼女が、幸せを掴む方法とは?

◆これまでのあらすじ

2019年春。二階堂 空(あお)と偶然レセプションパーティーで再会した絵麻。つい見栄をはって、彼氏がいると言ってしまったが…



『気をつけて帰ってくださいね。家着いたら教えてください』

帰り道、空から早速LINEが届いた。

最初はつい、彼氏がいるふりをしてしまったが、正直に話して誤解を解いたら、連絡先を交換する流れになったのだ。

こんな風に誰かに心配されるのは久しぶりで、素直に嬉しくなった。

『ありがとう。もうすぐ着くよ』

そう返信して、たまプラーザ駅で降りる。最寄りのあざみ野じゃなく、たまプラに降りたくなることが時々あるのだが、そういう時は決まって一人で考え事をしながら歩きたい時だ。

付き合う前までは、とにかく男性にモテてきた。みんな簡単に私に夢中になる。

それだけは自慢だったけれど、もはやその自信さえ今は無くしていた。

思い返せば、潤平との関係を終わらせたかったのは、誰でもなく私自身だったと思う。

彼の本性を知った時は悲しさももちろんあったが、途中からアドレナリンが出て戦闘モードになり、面白くなってしまったのも確か。

ーあれ。好きになるって、どんな感じなんだっけ...

急に涙がこぼれ、手で拭う。

空も、彼女がいるような感じだった。そのことを確かめたわけではないが、聞いて落ちこむくらいなら知らない方がいいと、柄にもなく臆病になってしまう。

その時、私の心を読んだかのようにスマホが鳴った。

「連絡ないから、どうしたのかなって。もしかして、まだ家着いてないですか?」

「うん...駅から歩いてるよ」

「えー!危ないよ。変な人いない?怖いだろうから、家着くまで話してましょうか」

「うん、ありがとう」

そうして、私たちは電話で会話し続けた。

穏やかな風を感じながら空の声を聴いていると、うまく言葉にできないけれどとにかく心地が良い。家に着いても中へ入るのが惜しくて、なかなか電話を切れなかった。

「明日もし空いてたら、ごはん行きません?話してたら会いたくなっちゃいました」

そう誘われたら、行くと即答する以外の返事は見当たらない。

ーこんな人が彼氏だったらいいのに。

いつの間にか、そんな欲求さえ芽生えてしまっていた。


恋愛に臆病になっていた矢先、空からデートに誘われる絵麻だが…。

「絵麻さん!昨日の今日で会ってくれてありがとうございます」
「ううん。こちらこそ誘ってくれてありがとう」

最初に会った時とは違って、今日はネイビーのセットアップで現れた空は、違う人みたいにかっこよかった。大学生みたいだと思って恋愛対象から外したのを後悔するくらいに。

選んでくれたお店は恵比寿にある和食屋さんで、何度か来たことがあるという。

「さすが、社長さんだね。いいお店知ってるなぁ」

「そんなことないです!それに、ここに女性を連れて来たことはないですよ。誰かと来たことあるところに、違う女性を連れてくるのって失礼かなって思ってるんで」

空はおそらく、恋愛経験が豊富で女心をよくわかっている。きっと、中学生くらいから彼女が途切れずいたタイプだ。

「空くんはさ、どんな女性が好きなの?タイプとかってある?」



お酒も進み、会話が弾んできたところで、一歩踏み込んでみる。

「うーん。正直、見た目がそれなりに可愛い人がいいですね。あとは、変わっている人が好きかな。…絵麻さんもだいぶ変わってるし」

「え、やっぱり?」

「気づいてなかったんですか?絵麻さんみたいな人は、普通の男じゃ無理ですね。重くて逃げられちゃうんでしょ?前にも言ったけど、僕みたいなのじゃないとダメだって」

−それって、自分にしとけってこと...?

期待しそうになり、慌てて何と切り返そうか言葉を探す。だが、つい一番気になっていたことを聞いてしまった。

「空君はさ、今彼女いるの?」

「え!いませんよ。いたら誘ってませんって。絵麻さんと一緒で人を好きになると他が見えなくなるし、女性と真面目に向き合ったら、同時進行って絶対無理です。僕、器用じゃないし」

「そうなんだ。てっきりいるのかと...」

潤平の時のような一目惚れに近いものはない。でも確実に、空に惹かれていくのが自分でもわかる。

「僕の態度とか見てたら、絵麻さんのこと好きなのバレバレだと思ってたんですけど...案外鈍感なんですね。そんな綺麗な顔してるんだから、もっとツンケンしてても許されるのに、しないところも個人的にツボですが」

そう笑顔で言ったあと、日本酒を注いでくれる仕草は、以前は感じなかった色気が漂っている。

「じゃあもっとツンケンしちゃおうかなぁ。でもね、私もう31なの。あと半年もしたら32歳。今度付き合う人は結婚前提じゃないと、って思ってるの」

いつか突き放された時に傷つかないよう、軽い男なら逃げたくなるような重いワードをあえて出した。

深入りする気がないならこれ以上踏み込まないで、という意味を込めて。


他の男性と圧倒的に違う!その理由とは…

「うんうん。絵麻さんはそういう普通の子だと言えないことも、言ってくると思った。僕も結婚願望あるし、もう別れるために付き合う彼女はいらないですよ」

その返答に、なんて言ったらよいのかわからず、困ってしまう。

食事を終えて化粧室に立った私は、ぼんやりと鏡を見つめていた。

ー別れるために付き合う彼女は、もういらない…。

メイクを直しながら、空が言ってくれたことを頭の中で反芻する。席に戻ると、いつのまにかお会計を終えてくれていた空が「そろそろ行こうか」と言って、笑顔を見せた。



「まだ時間大丈夫ですか?もう一軒、行きつけの店があるのでそこの常連さんたちに会わせたいんですけど、来てくれます?」

連れて行かれた場所は、こじんまりとした立ち飲み屋だった。自家製のレモンサワーが美味しいと評判らしい。お店に着くと、すでに常連さんたちでいっぱいだった。

「お!二階堂君。どうしたの女の子連れて来ちゃって。彼女?」

「いえ、まだ彼女ではないんです。でも、美人さんだからって狙わないでくださいね」

"まだ"という言葉に反応してしまう。ということは、これから付き合う可能性があるということだろうから。

「お酒強そうな顔してるね〜。店長!そこの美男美女にレモンサワー。俺からのおごり」



常連さんがごちそうしてくれたレモンサワーは、オーガニックの国産レモンを使っていて、酸味と苦味、それに炭酸の強さが絶妙だった。

それを一口飲んだあとで、空の横顔をそっと見つめる。こんな風に自分のテリトリーにすぐ連れてってくれることが、なんだか特別感があり嬉しかった。

「絵麻さん、もう23時半だけど大丈夫?」
「あ...ほんとだ。もうこんな時間」

楽しくて、時間があっという間にすぎていた。正直まだ一緒にいたい。だけど、こういう時は帰った方がいいというのもわかっている。

「今、何考えてるか当ててあげましょうか。まだ居たいけど、軽い女だと思われたくないし、電車で帰るのもめんどくさいなぁ...どう?当たってる?」

「何それ。空君てさ、どうしてそんなに人の心が読めるの?」

図星なのが恥ずかしくて、照れ隠しに笑いながら言ってみた。

「どうしてって、絵麻さんがわかりやすいから。表情とか、言葉を選んで話そうとする時の間とか」

私より、空の方がよっぽど変な人だ。そう思ったけれど、言葉にはしなかった。無言でグラスに手を伸ばすと、それをひょいと持ち上げられる。

「僕は、まだ一緒に居てほしいです」

「え...でも」

中途半端な関係は、もう嫌だった。傷つくのも、不安になるのも、疑うのも。空に惹かれていくほど、その気持ちはどんどん膨らんでいく。

だけど、空が発したのは予想外の言葉だった。

「絵麻さんさえよければ、付き合ってください。不安にさせたくないから先に言っちゃいます」

ーそうか。こういうことか。

好きな人を、絶対に不安にさせない人。私がずっと求めていたのは、こんな恋愛だったのかもしれない。


▶NEXT:5月16日 土曜更新予定
空との交際が順調にスタートしたが、なんととんでもない光景を目撃してしまい…!?