運命の相手と出会いたい。誰もが思っていることではないだろうか。

では、運命の相手はどこにいるのだろう。

まだ出会っていないだけ、どこかにいるのだ。

そう思い続けてきた曽根進太郎、29歳。恋愛経験はゼロに近い。

彼の人生をかけた、“運命の相手”探し。紆余曲折を経て、ついに「彼女」にたどり着いた。

会社の同僚・杏と交際することになった進太郎。彼が胸の内を打ち明ける。



「朝ごはん出来たよ」

テーブルに朝食を並べた進太郎は、洗面台で顔を洗っている杏に声をかけた。

付き合い始めてからというもの、杏は進太郎のマンションに頻繁に来るようになった。

お互いの家が近いこともあり、半同棲状態だ。

「今行くー」

10分前にノソノソ起きて来た彼女の声は、まだ眠そうだ。

今日のメインは、オムレツと、カリカリに焼いたベーコン。付け合わせは、軽く炒めたマッシュルームとグリルしたトマト。昨日買っておいた高級食パンのトースト付きだ。

−あとは、掃除機をかけて洗濯機を回して…。

進太郎の頭の中は、この後の家事のことでいっぱいだ。休日は、家事をまとめてやらなくてはいけないから大忙しなのだ。

杏も、最近は「私も頑張る!」と意気込んでいるが、彼女に任せると、靴下が片方失踪したり、アイロンが不要なはずのものまでシワシワになるので、こっそりフォローしている。

−彼女には、色々と助けられてるしな。

誰かと過ごす日々がこんなにも幸せに満ちたものだったなんて。それを教えてくれたのは杏だ。

進太郎が幸せを噛み締めていると、洗顔を終えた杏がリビングに入って来た。

「いっただきまーす」

オムレツを一口食べた杏は、目を大きく開けて進太郎の方を向く。

「進太郎、天才!お店出せるよ」

その言葉に、進太郎は「ずっと笑顔でいてほしいから、頑張るよ」と、心の中で思った。


杏と順調に交際を進める進太郎。過去を振り返る時、彼が恥じていることとは…?

自分の理想


杏と交際をスタートさせてから、進太郎に2つの変化があった。どちらも、彼女と付き合っていなかったら気づいていなかっただろう。

第一に、人を、思い込みやイメージで判断することがいかに愚かなことか、ということだ。

杏が良い例だ。

会社の杏といえば、整理整頓されたデスクに座り、いつも計画的に、チャキチャキと仕事を進めている。

そんな姿から、家は綺麗に片付いており、家事も手際良く進めていくものだとばかり思っていた。

だが、しかし。実際の彼女は、脱いだ洋服はそのまま放置してあるし、ジャージ姿のままゴロゴロしている。

洗濯も、「やばい、着る服がなくなった」という段になって慌ててする始末。しかも、洗濯機を回したことを忘れてしまうらしく、干し忘れることも。

会社での姿とは、まるで別人なのだ。

最初こそギャップに驚かされたが、次第に、本来の彼女は面倒くさがりで、仕事の時だけ、モードが違うことが分かってきた。

−イメージと実際の姿って違うもんだな。

杏の姿から学んだ進太郎は、過去の自分を苦々しく思った。

婚活を始めた時に出会った女性。名前は、確かリサ。

濃いメイクにビビッドな色の服。大げさにジェスチャーしながら話すその姿から、“気が強い女”と判断し、彼女の実物像に迫ろうとはしなかった。

だが、今思い返してみれば、彼女は進太郎に積極的に質問を投げかけてくれていた。

どんなことにも「進太郎さんはどう?」と、聞き返した。決して、自分の話だけをベラベラしていたわけではないのだ。

また、失恋を味わった優美子にも、自分は同じことを繰り返した。彼女のルックスや雰囲気から、勝手に“腰掛けOL”認定したが、実際には家業を継ぐ予定の、次期社長だった。

今となっては、イメージや思い込みに踊らされていた自分を情けなく思っている。



もう1つは、自分が、いかに感情表現や自己表現が苦手か、ということだ。

この点、杏はお見事で、自分の感性や考え方を伝えるのがとても上手い。

彼女の家で料理した時もそうだが、思わずこちらも口元が緩んでしまうほど大げさに喜ぶし、相手のことを褒めちぎる。

「表現しないと、伝わらないよ」

これは杏に口酸っぱく言われていることだ。彼女と付き合い始めたことで、進太郎は少しずつ、自分の考えや気持ちを伝える努力をするようになった。

かつては、伝える努力もせずに、相手に察してほしい、分かってほしいと、思っていた。他人任せで無責任な自分を変えるきっかけとなったのだ。


婚活を通して、進太郎が得たものとは…?そして、杏との行く末は?

見つめ直すチャンス


杏と出会ったことは、確かに大きい。だが、振り返ってみると、婚活は自分を見つめ直すチャンスだったのだと感じている。

婚活当初の自分だったら、家事が苦手、面倒くさがり、気の強い性格の(つまり杏のような)女性は、結婚相手に相応しくないと、即、お断りしたことだろう。

妻になる女性は、家事も完璧にこなして、家庭を守ってくれる、そして夫を立ててくれる、三歩下がって歩くような女性こそ、理想だと思っていたから。

だが、その一般的に言われる“妻の理想像”は、本当に自分の理想像なのだろうか。

答えは、“ノー”だろう。

今となっては、家事が出来ないことなどどうでもよくなるくらい、杏のことが好きだ。それは、彼女が、自分が本当に求めているものを持っていたからにほかならない。

ナヨっとしていて頼りない性格の自分には、上手く転がしてくれる、リードしてくれる女性が合っていたのだ。

人間、十人十色だ。だから、理想の相手だって、十人十色なはずなのだ。

婚活を通して、自分の価値観や考え方が浮き彫りになった、そんな気がする。

まずは自分を知ること、見つめ直すこと。その大切さを学んだ。



「今度、行きたいレストランがあるの」

朝食を食べ終えてコーヒーを飲んでいると、杏が話し始めた。

付き合いたての頃は、男の自分がリードしなくちゃとか、デートプランを考えなくちゃとか思っていたのだが、今は杏に任せている。

−自分が決める方がうまくいく。だから、手を出さないで!

そう言って、レストランや旅行の予約は、すべて彼女がしている。

“男の自分がやるべき”と、思い込んでいた進太郎だったが、おしゃれなことに疎く、センスもないので、そう言ってもらえるのはありがたい。

プレゼントも、「これが欲しい」と、杏が指定してくるのでラクだ。

先日、男友達から、彼女がバッグが欲しいと言うのでプレゼントしたら、「私がそのブランド、1つも持ってないの、知ってるでしょ?好きじゃないからだよ」とキレられるという、なんとも理不尽な話を聞いたばかり。

自分自身が“察してちゃん”の進太郎にとっては、察してちゃんの彼女とは上手くいかなかっただろうと思う。

杏は、それこそ自分が敬遠していたはずの“気が強い女”なのだが、自分にはそっちの方が合っているんだと、進太郎は思い知った。



そして迎えた休日。

2人は、杏が予約したレストランを訪れるため、銀座に来ていた。

一時は人気もなく、ガランとしていた銀座だが、賑わいが戻り始めている。

そんな会話をしながら久しぶりの銀ブラを楽しんでいると、杏がとあるジュエリー店の前で足を止めた。

「もし買うなら、これにしてね」

「え?」

突然の出来事に、進太郎は慌てる。最近、プレゼントの話をした覚えはないが、うっかり忘れていたのだろうか。

「えっと…。何の話だっけ?」

頭をひねりながら聞き返すと、「もう!」と、杏が顔をしかめた。

「プロポーズするなら、これにしてってこと」

そこまで言われてハッとなった。まさか、婚約指輪まで指定してくるとは思わなかった。

−杏らしいな。

そして進太郎は、お店の中を指差しながら、こう告げた。

「指輪のサイズ、測っていく?」

Fin.

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