美は、お金をかければかけるほど育つ。

美容皮膚科に、ネイルサロン。それからサプリメント…。いくらあったって足りないの。

誰もがうっとりするような、手入れの行き届いた美貌。

ーそれさえあれば、魔法みたいに全てが上手くいくんだから。

そう信じて美に人生を捧げてきた27歳OL・ユリカの物語。

◆これまでのあらすじ

ユリカは、彼氏の祐太からサプライズ旅行をプレゼントされる。「今から金沢に行こう」と言う祐太だったが、「いつものスキンケアができないなんて不安すぎる」と旅行を断ってしまう。

その日から祐太と連絡が取れなくなり…?

▶前回:「お泊りはできない…」女が、彼氏にプレゼントされたサプライズ旅行を拒否したワケ



「…もう。なんで出ないわけ?」

祐太がいるはずのビルを見上げながら、3度目の電話をかける。わざわざ渋谷までタクシーを飛ばして祐太の会社まで来たものの、連絡がつかない。

ガラス張りのオフィス。そこに映る自分の姿を見て、ユリカは思わずため息をつく。

―今日も私は、誰よりも綺麗なのになあ。

とその時、見慣れた姿が視界を横切った。…祐太だ。

財布を片手に持って、いかにも仕事ができそうな女の人と談笑しながら歩いていく。ユリカは、「待って!」と反射的に声をかけた。

「あれ、祐太さんの彼女?」

ユリカの姿に気付くと、女性は祐太に親しげにほほえみ「じゃあ」と軽く会釈をして、颯爽と去っていった。しかし祐太はユリカと目も合わせず、裏路地へと足早に歩いていく。

「ちょっと待ってよ、祐太!私ピンヒールなの」

祐太の後を必死で追いかけるユリカがイライラしながら叫ぶと、祐太は振り返って眉を潜める。

「いやいや、突然職場まで来るなって」

「突然ってなによ。電話に出なかったのは祐太でしょう?」

「…それは、悪かったよ。連絡取る気が起きなくて」

祐太は不機嫌な表情のまま腕時計を確認する仕草を見せた。

「さっき横にいた女の人…」

「え?」

「…あの人より、私のほうがずっと綺麗よ」


ユリカが放った言葉に、祐太は…

「なあ、ユリカ。ユリカの今後のために言うけどな…」

祐太がようやく話し始めようとした時、渋谷の街を覆っていた雲が途切れ、日差しが降り注いだ。

―うわ!日傘、デスクに置いてきちゃった…。

「ねえ、こんなところで長話するの?」

ノースリーブから伸びた細く白い腕をさすりながら、ユリカは祐太を見上げる。

祐太は困り果てた顔で、「じゃあ、カフェ入ろ」と言った。



「なに飲む?」

会社の近くだからなのか、祐太はソワソワと店内を見渡してから席につく。2人分のコーヒーを注文すると、祐太は腕まくりをしてから、ポツポツと話し始めた。

「音信不通になってたのは、ごめん。どう伝えたらいいのか、もしくは伝えなくてもいいのか、考えてた」

祐太はユリカをまっすぐに見つめ、丁寧に言葉を紡ぐ。ユリカは真意が汲み取れず、首をかしげた。

「最初、ユリカの部屋に泊まりにいったとき。洗面台とかバスルームにたくさんの化粧水が何種類も置いてあってさ、ああ、この子努力家だなって思ったんだよ」

「…うん。化粧水だけじゃなくて美容液もいろいろ使ってるわ」

「そう…。それで、やっぱこんだけ綺麗な子はいろいろ頑張ってるんだなって思った。だけど」

白いエプロンをつけた店員がやって来て、アイスコーヒー2杯をテーブルに静かに置いた。

「だけどな」

祐太は続ける。

「もう、ユリカとは付き合いきれない。これが俺の結論」

「…なんでなの?」

ユリカは、予想できていたような、しかし納得のいかないような複雑な思いだった。

「わかるでしょ?」

祐太は、眉間にシワを寄せてユリカを見る。

「例えばだよ。俺が泊まりにきても、ユリカはいつも1時間以上風呂から出てこないし、やっと出てきたと思ったら、また1時間近くパックとかマッサージとかするよな?声かけても、空返事で」

ユリカは、黙り込んでコーヒーを一口飲んだ。

「俺はその間1人でテレビ見たりしてるわけで。なんか、俺がいる意味ってあるのかなって思ってたんだ」

そう言って祐太は、ひどく悲しげな顔をした。

「俺の部屋に来たときもそんな感じだし。それで23時頃には、『9時間睡眠しないと肌が』って、なにもしないですぐ寝ちゃうし」

「でも…」

ユリカが口を開こうとすると、祐太は手のひらをユリカに見せて苦しそうに制止した。

「そんな時に、この前の誕生日のことがあったんだよ。あれで俺、冷静になったんだ」

「…冷静?」

「そう。ユリカと一緒にいても、幸せな将来が見えない」

キッパリと告げた祐太の言葉に、ユリカは軽く頬を膨らませた。

「…よくよく考えたら、泊まりに来るときに化粧水を何種類も持ってきたり、自分のドライヤー持参したり。そういうのってちょっと変だよ」

「だって、祐太の家のドライヤーは普通のどこにでもあるやつだし…」

「違和感があったのに、綺麗な子だから良いかなって思ってた俺も悪かった。今日で、会うの最後にしよう。ユリカの大切な美容グッズは、明日にでも家に送るよ」

そう言った祐太は、どこかすっきりとした表情をしていた。その一方で、ユリカは強烈な違和感を覚える。

「待って祐太…。なんかおかしいと思う、それ」


祐太の意見に納得できない…。ユリカの猛反論

「おかしいって、何が?」

祐太は、ひどく乾いた笑顔でユリカを覗き込んだ。その笑顔にひるむことなく、ユリカは不思議そうに首をかしげて言う。

「祐太はさ、綺麗でいて欲しいって言いつつ、でも努力はするなって言いたいわけ?」



固まっている祐太に、ユリカはたたみかける。

「『ユリカ、綺麗だね』っていつも嬉しそうだったじゃない。だから私は祐太を喜ばせたくて、徹底的に手を抜かなかったのに」

「…」

「じゃあ私がもし祐太に対して、もっともっと稼いで欲しいけど、そんなに仕事頑張らないでって言ったら?」

「えっ?」

「祐太の言ってることって、それと一緒でしょ?綺麗でいて欲しいって言うのに、私の半身浴とか長風呂はダメなの?」

祐太はうつむいたまま、「いや…。でも、何事にも加減があるだろ。一緒にいる時くらいさ」と言った。

「…加減?加減なんかしたらね、今みたいに綺麗じゃいられないの。美容は、そんな生半可なモノじゃないわ」

沈黙が2人を包む。

それを破ったのは、祐太だった。

「ユリカ」

財布と、もう一方の手に伝票を持ちながら祐太は立ち上がる。

「…なに?」

「俺たち、食事友達くらいにしておけばよかったな」

祐太はそう言って力なく笑う。そしてユリカに頭を下げ、カフェを出て行った。

ユリカは追いかける気も起きず、遠ざかっていくその後ろ姿をぼうっと見ていた。



その晩、ユリカは祐太に電話をかけた。

やはり返答はなかった。そして翌日、言っていた通りに祐太の部屋に置いていた化粧水やドライヤーが郵送で戻ってきた。

段ボールを開封し棚にしまっていると、LINEの通知が鳴っていることに気付く。

―もしかして、祐太かな?

その期待はあっさりと外れたが、大学時代の親友・智美からのメッセージだった。

【遅くなっちゃった!ユリカ誕生日おめでとう(^^)】

ユリカはすぐにLINEを立ち上げ、【ありがとう!近々会えない?】と返信する。

―ナイスタイミング!この心のモヤモヤ、女同士なら絶対わかってもらえる!

ユリカは、早く智美に愚痴を聞いてもらいたいと思いながら、いつものように2リットルのミネラルウォーターを抱えてバスルームに向かった。


▶前回:「お泊りはできない…」女が、彼氏にプレゼントされたサプライズ旅行を拒否したワケ

▶vol.1:「お金をかけるほど安心できる」美容代は月25万円。“美しさ”に執着する女の生態

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親友の智美がユリカに放った一言とは?