ここはとあるオンライン飲み会会場。いつもと変わらない4人が集まっている。

男たちが管を巻きながら話すのは、過去の女への後悔であり、未練であり、慚愧である。

くだらない傷の舐め合いだと言うなかれ。彼らには必要なプロセスなのだ。

100の反省を集めた時には、運命の相手に出会えるかもしれない。今日も今日とて、酒を片手に語らいが始まる。

◆これまでのあらすじ

理想のプロポーズを語り合った男4人。話はいつしか「男が考える、男女の違い」という話題に逸れていったようで…?

風間 隼人:自らが立ち上げたウェブメディアの社長。
林原  静:彼女もち。外資系メーカー勤務。
火宮 諒太:外資系戦略コンサル勤務。
山元 泰自:唯一の既婚者。日系通信大手の研究職。



ー男と女は、違う生き物だ。

隼人はそう思っている。自分の経験から考えてもそうだし、古くから伝わる書物を読んでもそうだろう。

アダムとイヴ。イザナギとイザナミ。

古くから伝わる宗教・神話には必ずと言っていいほど、どこからともなく現れる“男女”がいる。きっと、神話を作るくらいに人間の知能が発達した頃には、その概念は当然のようにあったのだろう。

では、その差はどこで生まれるのだろうか。

そんな疑問を解決するため、大学時代には男女差を研究する論文を読み漁ったこともある。

遺伝子や脳の発達スピード、ホルモンなど理由は色々考えられるらしいが、そういう難しいことは、結局のところよく分からない。

だが最近、男女の差は“ロマン”ではないだろうかと、思っている。

意味や実用性は皆無だし、正直に言って非合理的。でも格好いいから憧れてしまう。

日曜の朝の番組でヒーローがカッコよく決めるポーズを真似してしまうのは、それで強くなれるからではない。

単純に、カッコいいからだ。

だが、それを分かっていない女が多すぎる。過去に付き合った女を思い返してみてもそうだ。


「ロマンを理解してくれない女」って、どういうこと?

ダメだった女〜隼人の場合〜


「男の安っぽいヒロイズムをよく表した作品だと思うわ」

大好きな映画を見終わった後、当時の恋人がそんなことを口走ったとき、隼人は一瞬、何かを聞き間違ったのかと思った。

地球に衝突しそうな小惑星から人類を救うために、炭鉱で働く男たちが立ち上がる、かの有名な映画。隼人はこの映画が大好きで、数え切れないほど観ている。

「いくら娘と内緒で付き合っていたからって、ショットガンで追い回すのってどうかと思うんだけど。それに、採掘場で撃っちゃダメでしょ」

絶句している隼人にお構い無しで、彼女は批評を続ける。

「石油採掘に従事していた人たちをいきなり宇宙飛行士にするのもナンセンス。宇宙飛行士の人たちに採掘の技術を教える方が現実的じゃない?」

彼女が何を言っているのか、隼人にはまったく分からなかった。

「総評としては、安っぽいコメディよね」

その言葉で、ようやく自分の大好きな映画が酷評されていることに気づいたのだった。





「ってさぁ、ひどくね?なーんにも分かってないんだよ!」

先日、泰自が“理想とは、ロマン”という発言をしていたが、それを聞いた隼人は、まさにその通りだと思った。

「まぁ確かに、男女で好き嫌いが分かれる映画だな」

諒太が同意した。彼の周りでも同じような評価だったようだ。

「娘の恋人に代わって死地に向かうくだりとか、しびれるのにな」

静はうんうん、と大きくうなずいていたが、一方の泰自は「映画について意見が合わなかった、それだけ?」と厳しく追及する。

すると隼人は首を振って否定し、持論を展開し始めた。

「ロマンってのは、カッコよくありたいっていう男の根本的な部分なわけ。それを否定するんだったら、男に“男らしさ”を求めるのは間違ってると思うんだ」

熱く語る隼人に対して、静と諒太が共にうなずきながら反応する。

「女性が求める男らしさって、女性に車道側を歩かせないとか?食事は必ず奢るとか?」

「そうそう!」

すると、泰自が諭すように言った。

「それはさ、男だけじゃないんじゃない?女性だって、家事は女性がするものとか、そういう昔ながらの“女らしさ”に苦しめられてると思うけどね」

泰自の言葉に、隼人は思わず言い返す。

「俺が言いたいのは、お互いに“らしさ”を押し付けちゃダメだろってこと」

その場がシンと、静かになった。

「で、その女とはその後どうなったの?」

茶々を入れるように諒太が質問してきた。

「喧嘩になった。頭にきたから『そんなこと言ったら、お前が好きなキャリーとかミランダだって、安っぽいコメディだろ』って言ってやった。そしたら、『何も分かってない。あれは、私の人生のバイブルだ』ってさ」

「あんな煌びやかな生活に憧れてる方が理解出来ない」と、隼人がブツブツ文句を言う。

「やっぱり、分かり合えないもんだな…。俺、あのNYの話は、全然分からん」

質問したことを後悔したのか、諒太は苦々しい表情で隼人を慰めた。

「“らしさ”を押し付けてくるっていえば」

静がポツリと話し始めた。

「“男はバカな女が好き”って思ってる女の人、いまだに多いよな」


男は、バカな女が好きなわけじゃない。

ダメだった女〜静の場合〜


「男って、やっぱり頭の悪い女が好きなのね」

そう言い放ったのは、静が大学時代に所属していたサークルの女性だった。

「はぁ?」

さすがに我慢ならず、静も声を荒げてしまった。

事件が起きたのは、2日前。1週間後に迫る学園祭で配る予定だったビラの印刷が間に合わないことが発覚し、メンバーはその対応に追われていた。

印刷を担当していたのは、サークル1“天然”な女子。どことなく抜けている、フワフワとした雰囲気の子だった。

皆で協力してフォローしようと思っていたところ、先ほどの女性が猛然と近寄ってきて冒頭の言葉をぶつけてきたのだ。

「仕事も出来やしない、あんなフワフワした子に任せたのが間違いだった。私が担当だったらこんなミスすることもなかったわよ!?」

何が気にくわないのか、彼女はヒステリックに文句を言い続けた。「ああいう女は、男に取り入ることしか脳がない」など、聞くに耐えなかった。

そんな彼女の様子を見かねた静は、語気を強めてこう言ったのだ。

「彼女が好かれているのは、皆に優しいからだ。はっきり言って、君みたいな攻撃的なタイプはやりにくい」

すると彼女は一瞬にして涙目になり、その場を立ち去った。





「ウチの大学は、気が強いやつ多かったもんなぁ」

隼人がうなずいた。

「気が強いのはいいんだけど。“フワフワした女 = 頭が悪い = 男ウケがいい”とか、“男は頭の悪い女が好き”っていう決めつけは良くないよな」

「確かにね。頭の悪い女が好きなんじゃなくて、攻撃的な女がイヤなだけだもん。やたら議論ふっかけてきたり、何でも論破しようとするのも、単純に疲れるし」

静と隼人が盛り上がっているところに、泰自が異を唱えた。

「でもさ、ちょっとかわいそうじゃない?攻撃的な人ほど、本当は臆病だったりするでしょ。心の鎧をどうやって脱いだらいいのか分からないんだよ」

皆、泰自の言葉に驚く。さっきから彼だけ大人な回答を繰り返している。これが既婚者の余裕なのだろうか。

「まあ、その視点はなかったな。そう考えると、彼女はかわいそうだったのか」

静は少し考え込むようなポーズを取った。たしかに、吠えることでしか自分を守れないということであれば、多少の虚勢はむしろ可愛いものと言えるのかもしれない。

静がそんな結論に至ったとき、次に話し始めたのは諒太であった。

「自分に、上から来る女ってだけならまだいいよ。俺なんてもっとひどかったぞ」

果たして、彼の言う“もっとひどい”とはどんな女だったのだろうか。


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隼人と静の話を受けて、諒太が無理だと思った女を暴露する。そして泰自が経験した女の行動に、一同が戦慄した理由とは…?