美は、お金をかければかけるほど育つ。

美容皮膚科に、ネイルサロン。それからサプリメント…。いくらあったって足りないの。

誰もがうっとりするような、手入れの行き届いた美貌。

ーそれさえあれば、魔法みたいに全てが上手くいくんだから。

そう信じて美に人生を捧げてきた27歳OL・ユリカの物語。

◆これまでのあらすじ

ユリカの職場に後輩社員2名が異動してきた。ナチュラルな美貌を持つ麗と、ユリカに「給料泥棒」だと言い放ったやり手の淳也。突然、空気感が変わってしまった職場で、ユリカは…?

▶前回:「職場に、自分よりも若くて美しい女が異動してきた…」嫉妬に狂う女が、取った行動



「ユリカさんって、仕事する気ないですよね?もはや麗より頼りないくらい…。給料泥棒って感じです」

1週間前に淳也から言われた言葉。目が覚めた途端にそれを思い出し、ユリカは鬱々とした気分になる。

―何よ。別に出世したいワケじゃないし、それで十分でしょ。

ユリカは心の中でぶつぶつと愚痴りながら、ベッドを出て寝室のカーテンを開ける。

そして朝日が差し込むドレッサーの前で、新しく購入した頭皮マッサージャーをあてがう。

すると頭周りの筋肉がほぐれ、艶やかな肌に自然な赤みがさした。今朝はいつも以上に肌の調子がいい。

それにしても、とユリカはため息をついた。

新しい彼氏が、なかなか見つからないのだ。ユリカにとってOLの給料だけでは、必要な美容代は全然足りない。

目元用美容液とフェイスパックを今すぐ買い足したい。新しい美顔器も気になるし、もう真夏になるから日焼け止めサプリも必要だ…と考えて、ユリカは肩を落とした。

―自分の給料じゃ、もうキツいわ。これじゃあクリニックに通えなくなる日も近い…。

ユリカはいつもより丁寧にメイクをして、シャネルのリップを強めに塗ると、引き出しの中を漁り始めた。


ユリカが企んでいたこととは…?

―あ、あったわ。良かった。

取り出したのは、スマホ用の自撮りライト。それをカメラの上に取り付けると、角度を変えて30枚のセルフィーを撮影した。

彼氏を手に入れるには、自分から男に連絡をとるしかない。そのための武器として、もっと魅力的なLINEアイコンに変更しようと思いついたのだ。

―よし、どれも綺麗ね。これならいけそう。

ユリカは妖しく微笑みながら、その中で最も美しい画像を選び、アイコンに設定した。

そして朝の通勤電車の中。

ユリカはLINEのトーク履歴を1年前までさかのぼり、食事会で出会った男や大学時代の友人など、思い当たる人すべてにメッセージを送った。

来週からクリニックに行けないかもしれない。その危機感がユリカをひどく焦らせていたのだ。

しかし、お昼を過ぎても誰からも返事はない。

―彼らからの連絡が来ないってことは、来週からクリニックに通えなくなっちゃうかも…。

その焦りでユリカは、普段から集中できない仕事が、今日は余計に手につかない。

「ユリカさん。この件の見積もり、お願いしていいですか?」

淳也は、もはや先輩社員のようにユリカに仕事をふってくる。

「はぁ〜い」

5分に一度のペースでLINEを確認しながら、それどころじゃないのにと思いつつも、ユリカは見積もりを作成したのだった。



その夜のこと。

ユリカが日課の長風呂をしていると、横に置いてあるスマートフォンが鳴った。さっき連絡した男たちの誰かかな?とウキウキ確認すると、画面には「林 淳也」と表示されている。

―え、淳也くん?もしかして私のこと、誘いたくなったのかな?

そう思いながら電話に出ると、予想に反して真剣な様子の声が耳に届いた。

「あ、ユリカさん。今日得意先に出してもらった見積もり、ミスだらけだったみたいなんですけど」

淳也の冷たい声。ユリカはふくらはぎを片手でマッサージしながら、話の続きを待つ。

「僕が事前にもらって最終確認した方が良かったんですかね?ユリカさんの方がだいぶ先輩だから、大丈夫だと思ってたんですが」

確かに、今日はいつも以上に仕事に集中していなかったと、ユリカは軽く後悔する。

「ごめんなさい淳也くん。私の方で明日、訂正して再送します」

「いや。もう再提出しました。今日中に直してと言われたので」

「…ああ。それはありがとう」

ユリカがホッとしていると、淳也は「でも…」と口を開いた。

「ユリカさんから送った書類にミスがあったのに、先方はユリカさんではなく僕に電話してきたんですよ。ちょっとまずくないですか?」

「…え、何が?」

「何がって…。得意先との関係値とか、信頼はないんですか?ユリカさんはもう何年も担当してるんですよね?」

それを聞いてユリカは、バスルームで1人首をかしげた。


淳也の言葉に、ユリカは…

「関係値って言われてもね。まあ担当は長かったけど…。そんなもんなんじゃない?だって私、女だし」

「…は?」

淳也の、低い声が耳に響いたが、ユリカは構わず続けた。

「みんな結局、私を女としてしか見てないもの。関係値とか信頼とか、そういうステージにいないのよ」

「そう。…ユリカさんって死ぬほどダサいですね」

「えっ?」

沈黙が2人の間に流れる。

―ダサいなんて、男の人に言われたことないわ!

ユリカが目を見開いて固まっていると、淳也のため息が聞こえた。ユリカはスマホを握り締めながら、我慢できずに淳也を質問攻めにする。

「私のこと、本当にダサいって思ってる?何が?どこが?」

「…生き方が、です。だって保奈美さんとか麗は女性だけど、ビジネスの世界でしっかり一人前として頼られていますよ」

「生き方?」

ユリカは自分の生き方について、突発的に考えた。

美容に生きると決めた大学時代。そこから意志を貫いて、ユリカの今がある。1に美容、2に美容。積み重ねてきたからこその完璧な美貌。

―こんな私の、どこがダサいの?

ユリカは思う。女に生まれたのに、美容を蔑ろにして仕事ばかりに逃げている女の方が、ダサいではないか。「私は美容どころではないの」なんて言って、怠惰な日々を送っている女たち。



「ねえ淳也くん。淳也くんは私と麗、どっちが綺麗だと思う?」

絞り出したユリカの問いに、淳也は「は?」と小さい声で笑った。そしてしばらく経ってから、ゆっくりとした口調で答えた。

「なんでそういう話になるんでしょうか。…まあ答えるなら、写真だったらユリカさんの方が綺麗です、とだけ言っておきます」

「写真だったら…」

「はい。実際のユリカさんの印象は、綺麗っていうより、綺麗なせいで甘やかされてここまできちゃった“かわいそうな大人”って感じです」

淳也の容赦ない言葉に、ユリカは目を閉じた。

先日、親友の智美に言われた「ユリカの20代はかわいそう」という言葉がリフレインする。

「…今回は、迷惑かけました。失礼します」

そう言って、ユリカは半ば一方的に淳也との電話を切った。

トーク履歴を確認すると、今朝手当たり次第に送ったLINEの返信がチラホラと返ってきている。しかし彼らは、会話をはぐらかすばかり。その後もメッセージは続かなかった。

―私の年齢がいけないの…?かわいそうな大人だから?

もう、美容に妥協するべきタイミングなのだろうか。いや、それならもう仕事を辞めてしまった方がマシだ。そうすると美容代が…。

そんな発想がループして、ユリカはバスルームの中で1人、頭を抱えた。


▶前回:「職場に、自分よりも若くて美しい女が異動してきた…」嫉妬に狂う女が、取った行動

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“自分より美人な後輩”である麗が、ユリカの目を覚ます?