毎日すっぴんと部屋着で過ごし、久しぶりにタイトスカートを履いたら、なんだかきつい…?

リモートワークと自粛生活で美容への努力を怠り「女としてヤバい…」と、嘆いていた損保OL・美和。

だが、そんな彼女にまさかのモテ期が到来している。

その理由は、一体…!?



―え、ええ!?

自宅の脱衣所で、恐る恐る体重計に乗った美和は、思わず叫んでしまった。表示された数字から目を逸らしたくて、急いで体重計から飛び降りる。

自粛生活前より、3.5キロも太っていたのだ。驚いたが、心当たりはある。いや、心当たりしかない。

家に引きこもっていた期間、毎日の楽しみは、おやつのアイスやチョコレートだった。たいした運動もしていないのに、食べる量は増えていたのだから当然だ。

さすがにまずい。今からダイエットしなくては大変なことになる。

―だけど…。

洗面台の鏡に映った自分を眺めながら、美和は「私、ぽっちゃりしてるくらいがモテるのかしら」とも思う。

だって、ここ最近の自分は、驚くほどモテているのだ。

大井 美和、28歳。大手損保会社でエリア総合職として働いているが、ルックスや能力すべてにおいて、いわゆる“普通”だと自認している。

可もなく不可もなく。最近、ちょっとぽっちゃり。そんな自分がモテているのだから、驚きだ。これまでとは違う何かを感じていた。

―明日も会えるかな。

美和はふっくらとした頬を両手で包み込みながら、リモートワークを機に急接近した、彼のことを思い浮かべていた。


自粛生活が始まった頃からモテだした美和。憧れの人からまさかの…?

リモートワークで始まる恋?


「暑い…」

プラットフォームに降り立った美和は、すぐに階段へ向かった。少しでもこの熱気に晒される時間を減らさなければ、と乗り換え先の路線へと急ぐ。

ちょうど電車が来たので滑り込んだが、今年は窓が開いているので、冷房の効きが悪い。

「人、すごい増えたな…」

電車の中を見て、美和は思わずつぶやく。緊急事態宣言が明ける前も不定期に出勤はしていたが、ここまでの人出ではなかった。

これを機に、全面的に自宅勤務に切り替える企業もあるというが、そうではない企業もかなり多いようだ。

気温も高ければ、湿度も高い。その上、マスクもしなければいけないのが辛い。出勤するだけでも化粧が落ちるので、出勤したらまずすることは、メイク直しだ。

だが、しかし。みんな同じことを考えているので、朝の始業時間帯は特に混んでいる。

それを避けようと、美和は緊急事態宣言前よりもかなり早く出勤するようになっていた。

今のところ、“時差出勤”などの制度は美和の部署にはないので、特に早く帰れるわけでもないから、メリットはあまりない。

―まぁでも、悪いことばかりでもないんだけど。

自分のデスクに戻る途中、エレベーターから降りてくる人影に美和は目を向けた。

「おはようございます。大井さん、今日も早いですね」

そう声を掛けてきたのは美和の憧れの人、青木 善斗(よしと)だった。



「青木さんこそ。ほとんど一番乗りじゃないですか」

「皆、なぜか朝遅く来るんですよね。絶対早いほうがいいと思うんですけど」

善斗が所属する部署、アクチュアリーと呼ばれる人たちは緊急事態宣言前から時差出勤が認められている。善斗は、早く来ることを選択している珍しい人間のようだ。

―まぁ、そのおかげでこうしておしゃべりできるわけだし。

美和にとっては好都合であった。

「そういえば、結局あんまり使いませんでしたね。パソコン、せっかく設定したのに」

善斗が、美和に話しかける。

「そうですね。でも、学生時代から使っていた古いやつで、そろそろ買い替えなくちゃと思ってたし、ちょうどよかったです」

美和の会社では、リモートワークに必要なパソコンは自分で用意する必要があった。

会社が用意してくれるものとばかり思っていた美和は最初こそ不満を抱いたが、それが思わぬ好機につながったのだ。

機器関連に弱い美和は、善斗にどんなパソコンを買ったら良いか、設定の仕方などで相談していたのだが…。

「ウチでやりましょうか?」

まさか彼が、こんなことを言って家に上げてくれるなんて。


憧れの人の部屋に上がった美和。彼の部屋で起こったこととは…?

モテ期到来…?


「どこもやってないな…。ウチでやりましょうか」

その言葉を聞いたとき、美和の心臓がドクンと音を立てた。

善斗が勧めてくれたパソコンを買ったは良いが、メールやオフィスなどを設定するための場所がなかったのだ。

普段なら電源が利用できるカフェなどで済ませることができたかもしれないが、そういった場所は当時、軒並み営業を自粛していた。

「遠くないので、もしよかったら、なんですけど…」

「いえ、行きます!」

意気込んで返事をしたのには、ちょっとだけ下心もあった。憧れの人の部屋に招き入れてもらえるのならば、淡い期待を持つのも致し方ないだろう。

―結局、何もなかったけど。

美和が期待していたあんなことやそんなことはなかったが、収穫はあった。

それは彼の部屋の全容や、眼鏡を外してリラックスした姿だ。初めて見る眼鏡を外した顔に、美和はドキドキした。

その姿は「会社でもコンタクトにしたらいいのに」と思うくらい格好良かったのだ。

しかしそれ以上に、コンタクトにした姿を自分だけが知っていると思うと、美和としては独り占めしたい気もするのだった。

それから2人は、ちょこちょこ連絡を取るようになり、会社でも雑談する機会が格段に増えている。

―このままうまくいけば…。

美和は、そう願わずにはいられなかった。



―はあ。青木さん、今日も素敵だったなぁ。

善斗とエレベーターホールで雑談した後、自分のデスクに戻ってからも、彼の部屋での出来事を反芻したい気持ちに駆られたが、グッと我慢した。

そんなことをしている暇はない。すぐに仕事に取り掛からなければならないのだ。

一時停滞していた経済が動き始めたことによって、美和の会社が属する業界も再び忙しくなり始めている。

美和自身もしばらくは仕事に追われる日々が続きそうだった。善斗とのあれこれを考える時間は楽しいが、それだけというわけにもいかない。

だが、忙しいのは美和だけではない。

仕事を始めてから30分もすると、まだ始業には時間があるにもかかわらず半分くらいの机は埋まってくる。

「おはよう、大井。早速で悪いんだけど、先週のアレどうなった?」

同期の赤石 篤哉が、アイスコーヒーを片手に慌ただしく美和のところまでくると、そう聞いてきた。

「送っといた。あとは部長の承認待ち」

「さすが!ありがとう。いつも助かるよ。良かったらそれ飲んで」

プリンターが出力した紙束を抱え、オフィスを出ていこうとする彼が指差したのは、いつの間にか美和の机に置かれていたアイスコーヒーだった。

なんだか自分の仕事が認められたようで、悪くない気分だ。そういえば、篤哉も最近やたらと積極的に話しかけてくる気がする。



―よし、そろそろ帰ろうかな。

ようやく業務がひと段落してきた。日が長くなってきたので時間の感覚が狂いそうになるが、終業時間はとっくに過ぎていた。

美和が帰り支度をしていた、その時である。

『明後日、あいてる?』

篤哉からのそんなメッセージが届いたのは。


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憧れの人との甘い将来を思い描く美和の元に届いた同期の連絡。そこで美和が直面した衝撃とは