都会に生きるOLの収入源は、ひとつじゃない。

昼間にweb編集者として働く水島結花は、副収入を得るための“夜の顔”を持っている。

―だけど、もう1つの姿は誰にも見せられない。

しかし彼女のヒミツは、ある日の出来事をきっかけに暴かれていく…。

◆これまでのあらすじ

大手出版社のデジタル部門で働く結花は、周囲に内緒でネットアイドルをしている。しかし、ある日のライブ配信中に不可解なコメントが届き、アイドル活動をすることが怖くなり始めていた。

一方で、仕事を介して新聞社勤務のイケメン・柳井と出会い、浮かれていた結花だったが…?

▶前回:「こんな姿、誰にも見せられない…」女がスマホの中に隠していた、とある秘密



―ここに来るといつも「私は華やかな仕事をしてるんだ」という気持ちになれる。

結花は最近、新たにアパレルブランドの連載を担当することになった。今日は港区の広告代理店で、その企画の打ち合わせだ。

エレベーターでデジタル局のフロアまで上がると、ある男性に声を掛けられた。

「あれ水島ちゃん、なんか良いことでもあった?」

彼の名は石坂大樹。デジタル局で女性向けwebメディアを担当している。結花の2つ年上で、頼りになる業界の先輩だ。

「まあ、色々」と言って濁したが、実は最近、仕事を通じて出会った柳井と、LINEのやり取りをする仲になっていたのだ。そのせいで結花は、ほんの少しだけ舞い上がっていた。

緩む頬を隠しつつ、石坂と共に会議室へ向かう。さっそく彼との打ち合わせがスタートした。

「来季のテーマは“エシカル”。今後はより、環境を大切にというメッセージを発信したいんだ」

「だったら、ナチュラル系っぽいモデルの方が企画に合いそうですね」

結花は用意していたキャスティングリストを広げる。石坂はリストを眺めると、半分ふざけた調子でこう言った。

「なら一般人のインフルエンサーみたいな感じで、水島ちゃんが出てみれば?人前に出るのが好きそうだし」


その言葉に、結花は…?

「何言ってるんですか?やめてくださいよ」

こんな感じで石坂との打ち合わせの時は、いつも彼のペースに巻き込まれる。今日も軽く笑って受け流したが、結花は少しだけ今の言葉が気になった。

―なんで石坂さんは、私のことを「人前に出るのが好きそう」と思ったんだろう?

結局、その日に決めた企画はブランド側にも無事OKをもらい、いよいよ連載スタートに向けて動き出した。

しかし、初回の撮影まであと10日に迫った、ある日の朝。

「おい、水島!ちょっとこっち来てくれ」

出社するといきなり、上司の三浦が大声で結花を呼んできた。

―急になんだろう?しかも奥の会議室に呼ばれるなんて。嫌な予感しかしない。



「明日発売の週刊誌に、今回の連載に出演するモデルがスクープされる。有名男性アーティストと不倫スキャンダルとのことだ」

「え…?」

悪い知らせだとは予想していたが、ここまで来ると想定外だ。突然すぎて、結花は返す言葉が見つからない。

「で、さっき事務所から連絡があった。そのモデルが当面、芸能活動を自粛したいと言っているらしい。つまり、この連載も降板することになる」

そうは言っても、初回の撮影まではあと10日しかない。一体どうしろと言うのだろう。

「撮影までに代わりのモデルを探してくれ。さすがに連載はキャンセルできないだろ」

「えっ!?そんな…」

結花は混乱した頭で、フラフラとデスクに戻った。するとその瞬間、スマホがけたたましい音を立てて鳴る。画面を見ると、石坂から着信がきていた。

「はい、もしもし」

「今回のモデルの件なんだけど、本人のInstagramはもう見た?このブランドの服を着た投稿が、早くも誹謗中傷のコメントで炎上してる」

結花は慌ててInstagramアカウントを開き、問題の投稿を見る。するとコメント欄には「人間として最低」「嫌いになりました」といった、モデルを批判する言葉が並べられていた。

―たった1週間前の投稿には、彼女のファンからの誉め言葉で埋め尽くされているのに…。

「これは、ひどいですね…」

そのとき結花はふと、こんなことを思った。

―もしいつか、私がアイドル活動で何かを失敗したら、自分のアカウントもこんな風になっちゃうのかな。

そんなことを想像しただけで、怖くて身震いがする。ぼんやり考え込んでいると、電話口で石坂が声を張り上げていることに気付いた。

「おい、聞いてるか?とにかく撮影まで時間がないから、今からでも出てくれるモデルを手分けして探そう。今、新しいリストを送ったから」

メールを見ると、新たなモデル達のデータをまとめたエクセルが送られてきている。

「明日の夜までに絶対決めよう。じゃあ、また連絡するから」

石坂はそう早口に告げると、一方的に電話を切られてしまった。

「どうしよう…」

結花は絶望的な気持ちで押し潰されそうだったが、こればかりは仕方ない。結花はそのリストの連絡先へ、片っ端から電話をかけていった。


仕事でもプライベートでもトラブル続きの結花に、さらなる試練が…

翌日の18時。

「もうダメだ」と半分諦めかけていた頃、スマホの着信音が鳴った。とあるモデル事務所からだ。結花はドキドキしながら電話に出る。

「今回の連載、ぜひうちのモデルで受けさせてください」

―よかった、やっとOK出た…!

「はい、ぜひよろしくお願いします!」

電話を切った後、結花はホッとして全身の力が抜けていくのが分かった。





その夜は、“お疲れさま会”と称して石坂と飲みに行くことになった。2人が集合したのは、普段から使い慣れている銀座のビアバー『暁タップス』だ。

結花と石坂は、数か月に1度くらいの頻度で、こうして飲みに出かけている。話題はだいたい仕事やプライベートの近況報告といったところ。

程良い賑やかさの中、酔いが回ってくると、お互いにこの1件への愚痴が溢れ出した。

石坂は、濃い琥珀色のクラフトビールが入ったグラスを傾けながら話す。

「いや〜、人ってホント見かけによらないよな。今回のモデルだって”ナチュラル系”で推してて、悪いことなんて何もしなさそうな人に見えるのに。俺、人を見る目が無いのかなって思っちゃったよ」

「分かります。人って何隠してるか分かんないな〜ってつくづく思いました。でも、秘密って絶対バレますよね」

そう言った瞬間、石坂はじっと結花のことを見つめてきた。なんだか少し様子がおかしい気がする。ただ酔っているだけではなさそうだ。

「…何ですか?どうかしました?」

「水島ちゃんも、何か周りに秘密にしていることがあるの?」

一瞬何のことを言っているのか分からなかったが、すぐに結花は石坂の質問の意図を察した。石坂は、きっと結花のネットアイドル活動のことを言っているのだ。

「いやいや、私は何も隠してることなんてないですよ!急に何なんですか〜」

咄嗟にそう明るく笑い飛ばしたが、結花は内心かなり動揺していた。

―もしかして、この人は私のライブ配信を見てるってこと…?

何となく気まずい空気になり、結花は気分を変えようと思った。しかし、追加の注文をしようと店員を探していると、石坂はまた口を開く。

「水島ちゃんも、Instagramとか気を付けた方が良いよ。知らない人から変なコメントとか来たら嫌でしょ?いつ誰に見られてるかなんて、分からないんだから」

―え、どういう意味?

この人、クロだ。結花はそう確信した。今、目の前にいる石坂は、普段のノリの良い先輩ではなく、何か裏のある顔をしている。

「いや、今のは特に意味はないよ。変な誤解させちゃったらごめん」

結花が戸惑った表情をしていると、石坂はそう付け足す。

―もしかして、あのコメントの主は石坂さん?

でも、そうだとしたら、一体何のためにそんなことをするのだろうか。結花には理解できなかった。

「何か、疲れてるからすごい酔ってきちゃった。今日はこの辺で終わりにしておきませんか?」

もはや、この場に石坂と2人でいることが怖くなってきた。今日はもう帰りたい。

急いで会計の準備をしようとするが、酔いと動揺が混ざって、結花の頭の中はどんどん混乱していくのだった…。


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結花が初めて知ることになる、衝撃の事実とは…?