「好きになった相手は、高嶺の花だった」。

もしもあなたが、手の届かないような存在の相手を好きになってしまったら、どうしますか?

石崎健人(27)が恋に落ちたのも、自分には釣り合わないと諦めていたような“高嶺の花”。

それまで身の丈にあった、分相応な人生を送ってきたはずの男が、憧れの女性を手に入れ、結婚まで漕ぎ着けた方法とは…?

◆これまでのあらすじ

試験を無事にパスした健人。花奈にあらためて自分の思いを伝えようと思っていたが、なんと花奈の方から突然プロポーズされたのだった。

▶前回:全然“カッコよくない男”なのに、美女がどうしても結婚したいと思った本当の理由



−痛い。ってことは、やっぱり現実なんだな。

花奈にプロポーズを受けた翌週、健人は夢見心地で出社していた。

プロポーズを受けたことはもちろん、その後2人で休日をずっと一緒に過ごしたことで、健人の心は幸福感に満ち溢れていたのだ。

だが、まだ信じられない気持ちもあり、時折頰をつねって確認する。その度、痛みを感じて現実を実感するのだった。

オフィスに到着してエレベーターに乗り込むと、突然、同期の1人に肩を叩かれた。

「石崎、お前も隅に置けねぇなぁ。やるときはやるんだな」

「え、なんのこと?」

突然の同期の言葉に、困惑する。

「しらばっくれんなよ。神谷といい仲なんだって?」

なぜそれを、と口に出しかけたが、すんでのところで口を閉じた。

フロアに到着すると、視界の端に別のエレベーターで上がってきた花奈の姿が見えたのだ。

彼女はどうやら、既に事態を把握しているらしい。同期に絡まれている健人を見ると、口に指を当てて“ややこしくなるから”と廊下の陰にさっと隠れた。

−なんか今の、凄い恋人っぽいぞ…。

馴れ馴れしく肩を組んであれこれ聞き出そうとする同期を適当にあしらいながら、健人はそんな呑気なことを考えた。


ついに花奈との関係が社内に知れ渡ってしまった。その原因は思わぬところに…

心配だったから


「はぁ〜。やっちゃったなぁ」

同期の絵里子とランチを食べながら、花奈は頭を抱えた。

会社には、噂好きの人間が沢山いるもので、健人と花奈が付き合っているというニュースがすぐに広まってしまった。

意外なカップルだったようで、花奈も、各方面から話を振られたり、面倒なことになっているのだ。

「はたから見てる分には、面白いけどね」

絵里子が、ケラケラ笑いながら言う。

「やめてよ。他人事だからって」

花奈は、思わずキッと睨む。しかし絵里子は、そんな花奈の苦労などどこ吹く風といった様子だ。

なぜ2人の関係が明るみに出てしまったのか。

「医務室に走ったのには、自分が一番驚いたけど…」

先週健人が倒れてしまった日、同僚からそのことを聞いた花奈は、居ても立っても居られなくなり、医務室に押し掛けたのだ。

絵里子がからかうように笑う。

「でもそれで合点がいったんだよね。この前、やたら石崎のことを尋ねてきたのは、そういうことだったんだなって」

花奈が苦笑いすると、「でもまさか、花奈が健人にベタ惚れなんてね」と付け加えた。

「それはちょっと違うんだけど…」

花奈が納得いかないのは、“花奈が健人にベタ惚れ”という噂が立っていることだ。ことの経緯を知らず、医務室に真っ青な顔で駆けつけたことだけを見ればそう思われても仕方がないだろう。

だからこそ、“やってしまった”。

「石崎なんて簡単に落とせたでしょ? あ、そうでもない? 意外と女に興味なくて苦労したとか?」

絵里子が突っ込んだ質問をしてくる。だが、今更否定するわけにもいかなかった。

−まぁ、今は私が惚れてるから、間違ってないのがまた悔しいけど。

肯定も否定もせずに首を傾げている花奈に、絵里子がふと呟いた。

「でも花奈は、狭間さんが好きなんだと思ってた」



それも噂が急激に広まった原因の1つだろう。

周囲には、花奈と龍一が“実は付き合っているんじゃないか”と思っていた人間は多かったようだ。だからこそ、健人にベタ惚れというニュースは衝撃だったらしい。

正直に告白すれば、花奈も龍一と付き合えたらいいなと思っていた時期はあった。

少なくとも、健人と付き合いだした時は龍一への気持ちもそれなりにあったと思う。

格好良くて、仕事が出来て、女性の扱いも抜群に上手い。一般的に見れば、龍一の方が“モテる”タイプだろう。

そんな男性と付き合えたら、何だか自分の価値も上がる気がするし、幸せだと思っていた。

だが、健人と過ごす時間が増えるにつれ、その気持ちは薄れていった。

だから、龍一が誘ってくれたレストランには、結局行かなかったのだ。

−じゃあ、また都合つくときに。

予約を取るのも大変だっただろうに、あっさりと退くあたり、龍一は本当にモテるのだろう。

しかし、今の花奈の心の中に龍一はいない。

「かっこいい人がかっこいいなんて、当たり前でつまらないじゃない?」

花奈は、先週健人にも伝えた自分なりの結論を口にしたが、絵里子は“全く理解できない”と言わんばかりに肩をすくめただけだった。


しかし、龍一を超えるさらなる強敵が…。

待ち受けるラスボス


「…こういうところのルール、よく知らないんだけど」

席につくなり、健人は身を乗り出して花奈に囁いた。今日は、健人の合格のお祝いで、高級レストランに来ているのだ。

「大丈夫よ。私に合わせて」

そんな健人に、花奈は自信たっぷりに笑いかけた。

恐る恐るメニューを開く健人の姿が、むしろ微笑ましい。自分がエスコートされるのもいいが、変に背伸びしない健人の素直さが愛おしかった。

「値段が書いてなくて怖いんだけど…」

「気にしないでって言ってるでしょ。今日はお祝いなんだから」

健人はしばらくワインのメニューと格闘していたが、やがて諦めたように顔を上げた。

「悪いんだけど、メニュー見てもよくわからないから任せてもいい?」

「うん。健人のそういう素直なところ、好きだよ」

その時の顔が助けを求める子犬のようで、なんとも言えない彼への感情が自分の中に湧き上がってくるのを感じる。

「こういうところって“一見さんお断り”なんじゃないの?」

「ちょっとね。ツテがあるから」

ふぅん、と健人はしげしげと食器やカトラリーを眺めている。そんな彼に、花奈は話しかけた。

「ところで突然なんだけど、来週…」

「うん」

「私の両親と会ってくれない?」

「えっ!?」

健人はさきほどまでの緊張が嘘のように、素っ頓狂な声を上げた。



「ええ、もう? 早くない?」

呆然としている健人を見つめ、花奈はこう言った。

「今、たまたまお父さまが日本にいるの。普段、仕事で海外にいることが多いから…。これもタイミングだなって思って、あなたのことをちゃんと紹介したいの」

そして悪戯っぽく微笑んで、健人の顔を覗きこむ。

「それともなに? 実は私と結婚する気はないとか?」

「そんなこと言ってないよ。急だったから驚いただけで」

オロオロする健人に、花奈は「じゃあ決まりね」と言ってにっこり微笑んだ。

「わかったよ。まぁ、それ自体はいいんだけど。でも、“かっこよくない男”をご両親のところに連れて行っていいのかな」

先週の花奈の失言のことを言っているのだろう。あくまで冗談めかした口調だが、本当は少し気にしているのかもしれない。

「悪かったって言ってるじゃない」

バツが悪い思いをしながら、花奈は慌てて彼をなだめる。

−最初は存在すら知らなかったなんて、絶対言えないなぁ…。これは墓場まで持っていく話ね。

自分にそっと言い聞かせると、すかさず話題を戻した。

「とにかく、来週のことよ。ちゃんと作戦を練らないと。お父さまは平気だろうけど、お母さまが厄介だわ。

色々うるさい人だから。服も場合によっては買わないといけないから、見せてもらってもいい?」

「え、今から家に来るの?」

両親への挨拶。これが健人にとってだけではなく、花奈にとっても修羅場になってしまうとは、まだ2人は知る由もなかった。


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ついに花奈の親たちと対面する健人。両親が放った、信じられない言葉とは