ステータス目当ての美人女子大生と身体目当てのエリートサラリーマン

空虚なデートの翌日、目を覚ましたら、待ち受けていたまさかの展開

◆これまでのあらすじ

アブサンを飲んで身体が入れ替わってしまった女子大生・麗奈と商社マン・凌。上場企業社長・峯村とのデート後、鞄の中にはなぜか100万円が…?!オジサンとの怪しい関係を疑われ、史上最悪の修羅場が二人を襲う…

▶前回:「マジありえねぇ」男がドン引きした美女の知られざる秘密



麗奈:どうしよう勘違いされてる…凌に嫌われちゃうのかな


ピーンポーン♪♪♪

「なんで峯村さんが麗奈のマンションに来るんだよ…どういうことだよ…やっぱそういう関係なのかよ、まじありえねぇ」

「違う!!違うの…」

ピーンポーン♪♪♪

二人で言い合っている間にもインターフォンが鳴り響く。

しかし、峯村さんは合鍵を持っていないからマンションには入れないはずだ。シカトし続ければ諦めて帰るだろう。適当に「寝てましたごめんなさい」とメールを入れれば丸く収まるはず……。

しばらくすると、インターホンの音が止んだので諦めて帰ったものだと思い一安心していたのだが。

ガチャ…

「え!?」

突然、ドアが開いた音がした。

セキュリティーを通過して峯村さんが上がってきていたのだ。

凌はすごい剣幕で帰ってきたから、内鍵を閉め忘れていたのだろう。

—でもなんで?合鍵持ってないはずなのに…

今まで峯村さんがマンションに訪れてきたことなど一度もなかった。「合鍵は君が持っていなさい」と言われ、安心して住んでいたのに。

「おーい。麗奈?いるか?」

靴を脱いで玄関を上がり、ドスドスと廊下を歩く音が聞こえる。

「どうしよう…どうしよう…」
「ど、どうする、カーテンの裏に隠れるか…?」

ガチャ…

リビングのドアの隙間から峯村さんの顔がこちらを覗いている。

「誰だ…その男」


麗奈の部屋に押しかけてきた峯村が放った驚きのセリフとは!?

「み、峯村さん、マンションまで来ちゃってどうしたんですか…?」

「どうしたって、惚けないでくれよ。君が“秘密のサイン”を出してくれたんじゃないか。やっとその気になったんだろう?」

「秘密のサイン?えっと…ごめんなさい、何のことでしょうか。彼は兄でして…」

“私の姿をした凌”が動揺しつつも適当に取り繕う。しかし、峯村さんの目はごまかせない。

「大人をからかうのはやめなさい。一体どういうことだね、人のマンションに男を連れ込むなんて。恩を仇で返すというのかい?」

「いやいや峯村さんとデートした後に男を連れ込むはずないじゃないですか。私そこまでバカじゃないですよ?本当に兄なんです。昨日一緒にライブに行ってそのまま泊まったんだよね、お兄ちゃん?」

凌は必死に攻防し、私にパスを投げた。このままシラを切ることも可能なのかもしれない。

—でも…もういい。私にとって大切なものは何かわかったから。

“凌の姿をした私”は意を決して口を開いた。

「いや…、僕は麗奈の彼氏です。勝手に上がり込んで申し訳ないです。麗奈をストーカーから救ってくれたことは感謝しています。

でも、今日はその…これで最後にしてもらいたくて。麗奈は貴方の期待には応えられないそうなので。だから、もうここは出て行きます。今までお世話になりました。突然申し訳ありません」

やっと自分の口で言えた。いや、正確には凌の口を借りて自分の気持ちを伝えたのだが。心臓が激しく鼓動し冷や汗が止まらない。

唖然とした顔でこちらを見つめる峯村さんと、凌の冷たい視線が突き刺さる。

私は机の上に散乱した100万円を峯村さんに差し出して一礼し、凌の手を引いて部屋の外へ飛び出した。

無言で…とにかく全速力で…涙で視界がぼやけても構わず…できるだけ遠くへ走って逃げた。



ハァ…ハァ…

アラサーの商社マンの身体というのはやけに重い。体力が持たず息切れしてしまう。

無我夢中で走り続け、気付けば飯倉の交差点を越え永井坂まで来ていた。

涙と汗でぐちゃぐちゃになった私と青白い顔をして呆然と立っている凌を、東京タワーの温かい光が照らす。

「ごめん…ほんとにごめん…。全部話すから…」

泣きながら必死に謝る私を見て、凌は何も言わずに私をぎゅっと抱きしめた。手が少し震えているような気がする。

—こんなに温かくて安心できるハグって今まであっただろうか…

私を抱きしめる男たちは皆下心を持ち、それから先を期待して私に触れてきた。

思えば、キラキラ輝くトロフィーや戦利品のように扱われてばかりで、人の温かさみたいなものを久しぶりに感じたような気がした。

小さい頃に親に抱きしめられたことを思い出すような、大きな愛に包まれているような、そんな安心感を覚え、さっきとは違う種類の涙が頬を伝う。


ついにアブサンバーへ…元の身体に戻れるのか…?!

「どうすんだよ、焦りすぎて手ぶらで出て来ちゃったんだけど〜」

動揺していることを悟られないようにするためか、凌は明るく振る舞い私を笑わせた。

—いつだって前向きで、私を笑わせようとしてくる凌が、好きだ

気だるい夏の日の夜、生温い空気が私たちを優しく包み込む。

「はぁ、いよいよ明日で連休最後なんだな。なんだかんだ楽しかったけど…そろそろ自分の身体に戻りたいよな」

「ねぇ…またあのアブサンバー行ってみない?」

私たちの初デートの場所、思い出の場所、全てが始まった場所、強面のマスターがいる怪しいアブサンバー。

あの時と同じように、バーカウンターの左端に座った。マスターはウインクをすると、無言でアブサンをセッティングし始めた。



「まじ、ビビらせんなよな。“僕は麗奈の彼氏です”はウケたなぁ〜。しっかり話聞かせてもらうよ?」

重くならないように、ところどころでチャチャを入れてくれる凌の優しさのおかげで、気付けばいつものように笑いあっていた。

ストーカー被害に悩んでいたことを相談したら峯村さんがマンションを借りてくれたことなど、事の経緯を全て正直に話し終わると「なぁ〜んだ、そんなことだったんだ」と凌はあっけらかんと言った。

「僕が全ての男の下心から君を守るよ。ストーカーが怖いんだったら僕と一緒に住もう。あ、これは下心じゃないよ、純粋な気持ち!」

照れ隠しで笑ったが、凌の飾り気のない真っ直ぐな気持ちが嬉しかった。

「身体が入れ替わるなんてありえないって思ってたけど、これは私にとって必要な経験だったのかも」

「うん、そうだな、僕たちに足りないことを学ばせる為に、神様が悪戯したのかもな」

「だって初デートの時の凌やばかったもん、ずっと自慢話ばかりで、それが終わったと思えばさくっと酔わせて持ち帰ろうとしたでしょ」

「いやいや、麗奈も相当やばかったよ?つまんなそうな態度がんがん出てたし高飛車な女だったよ」

たった1週間前の話なのに、大昔のことのように思える。私たちは確かに変わったのだ。身体が入れ替わったおかげで、心まで入れ替えることができたのだ。

「かんぱ〜い!」

妖艶なオーラを放つ、綺麗な緑色の液体を一気に飲み干した。あの時と同じように、喉が灼けるように熱くなった。

「私ね……。やっぱいいわ」
「なんだよ」

凌に伝えたいことがあったけれど、それは元の身体に戻れてからにしよう。とびきりのオシャレをして可愛い可愛い私に戻ってから自分の口で伝えたい。

フラフラとおぼつかない足取りを支え合うように、肩を組んで鼻歌を歌いながら凌のマンションへ向かった。

身体が入れ替わった朝ぶりの凌のマンション。渋谷駅から徒歩10分くらいの何の変哲も無いワンルームマンション。

あの日はアラサーの商社マンがワンルームマンションに住んでいるなんて引いてしまったけれど、今はこの狭い部屋で凌とケラケラと笑いあえるなら悪くないと思う。

凌となら、どんな場所でも、どんな状況でも、楽しく生きていける気がするから。

「身体が、元に戻りますように…」

そう願いながら二人で、狭い、狭いシングルベッドに入った。


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アブサンバーに行きシングルベッドで眠る2人。凌と麗奈は元の姿に戻れるのか…?!