都会に生きるOLの収入源は、ひとつじゃない。

昼間にweb編集者として働く水島結花は、副収入を得るための“夜の顔”を持っている。

―だけど、もう1つの姿は誰にも見せられない。

しかし彼女のヒミツは、ある日の出来事をきっかけに暴かれていく…。

◆これまでのあらすじ

大手出版社のデジタル部門で働く結花。一見、普通のOLに見える彼女には1つだけ秘密があった。それは、周囲に内緒でネットアイドル活動をしているということ。

ある日、連載企画でのトラブルをきっかけに、広告代理店勤務の石坂から思わぬ一言を言われてしまい…?

▶前回:「この人、ただ酔ってるワケじゃない…?」2人きりで食事に行った女が、不審に思った男の言動



「あれ、ここかな?」

結花はGoogleマップを頼りに、日比谷公園近くのイタリアンレストラン『ラサーナ有楽町』に辿り着いた。店内に入り、辺りをぐるりと見渡す。

―あっ、いた!

結花の視線の先にいるのは、新聞社の柳井だ。

実は先日の初回打ち合わせ以来、柳井とは仕事で何度か顔を合わせており、少しずつ距離が縮まってきていた。

最近ではLINEのやりとりをするようになり、その流れで「今度、ランチにでも行こう」という誘いを受けたのだ。

「すみません、お待たせしました…!」

「いえ、僕もついさっき着いたばかりなので」

結花は席に着くと、羽織っていたカーディガンを脱ぐ。今日のためにお気に入りのラルフローレンのワンピースを着てきたのだ。

一方の柳井は、紺色のパンツの上にフレッドペリーの涼しげなシャツをさらりと着ているだけ。

こんなにシンプルな服装なのに、生まれ持ったスタイルと整った顔立ちのおかげで、とても似合っている。

―もしかして、周りからは“美男美女カップル”に見えてたりして!

そんな浮かれた妄想をしていると、結花のことをジッと見つめていた柳井が口を開いた。

「あの、水島さんって…」


柳井の口から飛び出した、思いがけない言葉とは…?

「水島さんって、ファッション誌の担当をされてるだけあって、いつもオシャレですよね。なんだか読者モデルとかしていても、おかしくないくらい。誌面に載る方には、興味ないんですか?」

その言葉に結花は、ビクリと肩を震わせる。…自分にはそこまで“人前に出ることが好きそうな雰囲気”が出ているのだろうか。

「え、そんなことないですよ〜!私はただの編集者ですから…」

結花は引きつる頬をごまかすように、ムリヤリ口角をあげて柳井にほほえんで見せた。

あの日の石坂の言葉といい、最近は結花にとってビクビクしてしまうような質問を投げかけられることが多い。

―やっぱり、周りの人にバレるのも時間の問題だな…。

「え、水島さん。今の質問、気に障りましたか…?すみません、無神経なこと言って」

結花が考え込んでいると、先ほどの質問に気を悪くしたのだと勘違いした柳井が、慌てて謝ってきた。

その姿に優しい人柄であることを感じられて、結花は彼になら悩みを吐露しても良いかもしれない…という気分になってくる。

「柳井さんは、例えば知り合いの人がこっそり読者モデルをしていたりとか、そういうのって気になります?」

「…えっ、どういうことですか?」

結花はウソがバレないように、あえて柳井の目をジッと見つめて言う。

「私の友達が、周囲に内緒でメディアに出演したりしてるんですけど、そろそろ周りにバレそうで悩んでいるみたいなんです。柳井さんだったら、そんな時どうしますか?」

柳井は一瞬考える様子を見せると、穏やかな表情で口を開いた。

「僕だったら、悪いことをしていなければ隠さないで話すかなあ」

柳井の答えは結花にとっては意外なものだったが、その言葉を聞いて、なんだか心のモヤモヤが晴れていくような気がした。

―そっか。別に悪いことはしてないし、思い切って打ち明けてみるのもアリかも…?

なぜか納得したような表情でうなずく結花を、柳井は不思議そうな目で見つめていた。





その翌日。

「ケンタさん、エールありがとうございます〜!嬉しい♡」

結花は今日もスマホの前で、会ったこともないファン達に笑顔で手を振っていた。

カメラの前で他愛もない雑談を披露し、気まぐれで届いたコメントやギフトに反応する。特別感を演出するために、コメントを読み上げる時には、名前を呼んであげることも忘れない。

これまでの結花は、笑顔で配信するフリをしながらも、心の奥では「今日の配信で、いくら稼げるかな」といったことしか考えていなかった。

しかし、不可解なコメントが届いてからというもの、結花は知り合いからと思しきコメントが投稿されていないかチェックすることで、頭がいっぱいになっている。

今日もコメント欄を監視していたが、あれから怪しげなコメントは一度も届いていない。

―誰かに見られてるんじゃないかって気になって、最近は全然配信に集中できてないな。

結花は今日も1時間半の配信を終えると、LINEのアイコンをタップした。


悩む結花は、ある人物に助けを求める…

「あ、もしもし涼香?今、ちょっといい?」

電話の相手は、同僚の藤井涼香だ。

結花は、ネットアイドル活動がバレるのではないかとヒヤヒヤし続けるくらいなら、まずは身近な同僚に打ち明けてみようと思ったのだ。

「うん、今なら大丈夫だけど…。仕事でなんかあった?」

「実はね、今まで誰にも言ってなかったんだけど。私、最近副業を始めたんだよね。それで…」

ネットアイドルをしていることを告白しようと決心した結花だったが、いざとなると言葉に詰まってしまう。

「あ…。それ、ライブ配信してるって話だよね?実は、やってることは前から知ってたんだよね」

そんな結花の心の内を悟ったのか、涼香が気まずそうに言った。

―えっ?どうして涼香が知ってるの?

涼香の言葉に、結花の心はざわつく。しかし、それを感じさせないように、明るい声で言い放った。

「そうなの?知ってたなら言ってくれれば良かったのに。涼香のことは信用してるから、別に気を使わなくても大丈夫だよ」

「ごめん。気を使ってた訳じゃないんだけど…」

急に言葉を濁す涼香に、結花は何かイヤな予感がした。



「っていうか、ライブ配信のこと知ってるのは、私だけじゃないんだよね。会社とか取引先の人でも、知ってる人は結構多いかも…」

思ってもみなかった涼香の答えを聞き、結花の心臓は急に音を立てて鳴り始めた。

「えっ、どういうこと?何でそんなにいろんな人が知ってるの?」

結花が慌ててそう聞くと、涼香は言いにくそうに口を開く。

「元々は、代理店の石坂さんから聞いたんだけど…」

涼香の話によると、事のなりゆきはこうだ。

広告代理店の社内に、結花やその他のネットアイドルの配信をよくウォッチしている社員がいるらしい。

その社員がある日偶然、結花と石坂が話している所を見かけたようだ。

「面白いものを見つけた」と思ったその社員が、石坂に結花のライブ配信の映像を見せた。そして石坂が、結花の勤める出版社の関係者に、ネットアイドル活動の話を広めたというのだ。

やはり石坂は、結花のネットアイドル活動のことをすべて知っていて、あんなことを言ってきたのだ。

―しかも、私には何も言わないのに、裏で会社の人にベラベラ喋るなんてありえない…!

結花は、石坂への怒りを今にも爆発させそうになる。

「私たちも石坂さんも、別に結花のこと陰でどうこう言ってた訳じゃないんだけど…。ほら、副業って個人の自由でしょ?だからそっとしておこうと思って」

必死でフォローしようとする涼香を見て、結花は少し我に返った。

「そうなんだ…。まあ、今まで誰にも言ってなかったけど、別に私も隠したいと思ってる訳じゃないし」

その言葉が、今の結花が言える精一杯の強がりだった。

―自分だけの“秘密”だと思っていたことが、本当は皆に知られていたなんて…。

ネットに顔を出している以上、いつか誰かに知られる日が来るとは予想していたはずだ。

しかし、今までの自分のネットアイドルとしての姿を思い返すと、穴があったら入りたいくらい恥ずかしかった。

結花は電話を切ると、ライブ配信アプリを立ち上げ、これまでのアーカイブ動画を再生する。

画面に映る“スマホの中の私”は、呑気にこちらを見て手を振っていた…。


▶前回:「秘密は必ずバレる」そう言う彼女が陥った危機的状況とは…?

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少しずつ崩れ始めていく、結花の日常。