スパイシーデイズ。

それは、自分を見失うほどの恋に苦しんだ日や、
仕事のミスが悔しくて涙を流した夜、
もう来ないとわかっているはずなのに返事を待つ、あの瞬間。

ほろ苦いように感じるけれど、
スパイスのように人生の味つけをしてくれる。

前回は女友達との付き合い方に悩むアラサー女子を紹介した。

今回紹介する彼女が過ごすのは、どんなスパイシーデイズ...?

▶前回:28歳女の友情にヒビが入った、女子会での何気ない一言とは?



「あ〜私、結婚できんのかなぁ」

裕佳梨は何気なくインスタを立ち上げる。

インスタのストーリーには、新婚夫婦たちの仲睦まじい姿が挙げられていた。

日曜14時、高田馬場にある『伊良コーラ総本店』でテイクアウトしたクラフトコーラを片手に、男友達・淳太と公園のベンチに座っていた。

セミの鳴き声がけたたましく響く中、2人で久しぶりの青空を仰ぐように見上げていた。

ストーリーを見せながら、不安そうに訴えかける裕佳梨に、淳太は「できるでしょ」とあっさりと返す。

「他人事だなぁ。今、持ち駒がないんだよ!やばいの!」

深刻な悩みを適当に流された気がして苛立ち、横に座る淳太に睨みをきかせる。

「なんでよ、男友達多いじゃん。大学の友達とかに連絡してみなよ」

裕佳梨の睨みに怯んだのか、今度は真剣そうな表情をしながら淳太は返事をした。

「大学の男友達は大体結婚してるし、今更恋愛対象になんてならない」

「会社は?広告代理店とかいい男多そうじゃん」

はぁ、と大きくため息をつくと、裕佳梨は肩を落とす。

「会社の同期はいいやつだけど、結婚したくない。女遊びしてる奴ばっかりだよ」

「それは良くないな...新しい出会いとか、ないの?」

「ない!だってこんなご時世だから食事会もないし」

「アプリは?」

「社内とか得意先に見つかりそうだから、やりたくない」

「じゃあ、結婚相談所」

「お金払ってまで出会いたくない」


身長と学歴と年収は...淳太を唖然とさせた裕佳梨の理想の男性像

出した案があっという間に潰されたことに淳太は思わず「わがままだな...」とボソッと呟いていたが、裕佳梨はその一言を聞き流すと、思い出したかのように「あっ」と声をあげた。

「ねぇ、誰か紹介して!」



−総合商社に勤める淳太なら、きっとイケメンでハイスペな男友達が沢山いるはず。

目を輝かせながら、淳太の方を振り向くと、困ったような表情を浮かべていた。

「どんな人がいいの?」

「身長は173cm以上。本当は175cm以上がいいけど、そんなことも言ってられなさそうだからね。あ、でも学歴は早慶以上じゃないと嫌。自分より頭悪い人とか絶対に無理。あと、年収も私と同じくらい稼いでないとやだなぁ」

ひとしきり条件をあげて満足したように横を振り向くと、勢いよく話す様子に圧倒されたのか、淳太は口をポカンと開けていた。

「なによ」と不満そうに言うと、淳太は「あ、いや」と我に返ったように話を続けた。

「その条件だと、結構な人がアウトじゃない?」

薄々気づいていたことを突きつけられるも、それでも現実を認めたくなかった裕佳梨は「うーん」と唸った。

「じゃあさ、ご飯とか行ったら割り勘?」

「そこは彼氏に払って欲しい。女の子の方が化粧品とか服とか総合的にお金かかるし」

「えぇ...」と引き気味に声を漏らす淳太に苛立ちを覚え、再び大きなため息をついた。

「あんたはいいよね。理想高くても女の子にわがまま言っても、イケメンだから仕方ないよね、で許されるし」

裕佳梨の嫌味に「いや、別にそんなことないんだけど...」とボソッと応じる淳太だったが、何よりも自分の恋人探しをしたかったので気にせず話を続けた。

「で、誰かいるでしょ、誰でもいいよ。私の持ち駒増やせれば、なんでもいい」

「さっきから人のこと駒って...」

「なんでよ、駒じゃん。所詮は、駒を揃えてその中から一番いいものを選ぶだけ」

そうあっさりと言い放つと、淳太は耐えかねたように声をあげた。


「俺、お前の結婚相談所じゃねーんだけど」淳太の怒りが爆発する・・・!

「あのさ、さっきから俺のこと、なんだと思ってるの?俺、お前の結婚相談所じゃねーんだけど」

それまで普通に会話をしていたはずの淳太が激しい剣幕を見せていることに驚く。「いや...だって...」と吃ったが、淳太は遮るように続ける。

「そもそも、不平不満ばっかりなのに、要求が多すぎない?身長とか年収とか、挙句割り勘は嫌だとか。自分はどうなの?相手の男の人に何か提供できるの?」

慌てて取り繕おうとする裕佳梨よりも先に、淳太は口を開いた。

「お前、昔の方がいい女だったよ」

そう言うと、淳太はベンチから立ち上がり、こちらを振り向いた。



「俺、アラサーにもなって人のこと持ち駒とか呼ぶ女、絶対に彼女にしたくないわ。じゃ」

立ち去る後ろ姿を見ながら、呆然とした。

セミの鳴き声が、より一層強く聞こえる。

淳太が立ち去った後、しばらくぼんやりと目の前の遊具を見つめていたが、ふと我に返り、手元のクラフトコーラをごくりと飲んだ。

カルダモンやナツメグのスパイシーな味が、鼻から抜けるのを感じた。

急に目が覚めたような気がして、裕佳梨は急いで携帯をカバンから出し、LINEを開く。

−裕佳梨:ごめん。

送った途端に既読がつき、返事が届いた。

−淳太:はい

−裕佳梨:周りが結婚したり同棲してるのに焦っちゃって、あんな風なこと言っちゃって。

淳太からの返事に何とか反省を見せようと文章を打っては消して、小分けにして送信をしていると、淳太から遮るように返事が届く。

−淳太:相手に求める条件とか持ち駒とか傲慢なこと言って欲しくなかったよ。もっとさ、気楽に生きようぜ。昔の裕佳梨は、好きなように生きてたし、俺はその姿が好きだったよ。

淳太からの返事を見て、打ちかけていた文章を削除した。

ここ最近、自分が自分じゃないような、そんな気持ち悪さを感じていたが、淳太の言葉で、目の前の靄が薄くなったように感じた。

−裕佳梨:そうだね。前の方がもっと好きなことにまっすぐだったし、努力してたと思う

そう送ったあと、自分に言い聞かせるように続けてLINEを送った。

−裕佳梨:急がなくていっか。結婚。

−淳太:うん。裕佳梨が35過ぎても結婚してなかったらさ、仲良い未婚の友達集めて、シェアハウスでも借りて住もうぜ。食事は曜日分担制で用意してさ。

その返事に思わず吹き出し、すぐに「うん」と返事を返した。

−淳太:さ、焼肉でも食べる?

−裕佳梨:いつ?

−淳太:今から

−裕佳梨:最高!!

そう打つと、裕佳梨はピョンとベンチから立ち上がり、思いっきり深呼吸をした。


▶前回:アラサーになっても八方美人じゃやってけない。未婚女子が見切りをつけた相手とは

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