2020年のプレ花嫁達は、この状況下で不安を抱えながら準備に励んでいる。

「この気持ち相談できる友達が欲しい」

そんな想いが通じ、運命的に出会った2人の花嫁、紗理奈とアヤ。

……ところが、「あの子が羨ましい」 互いの距離が近づけば近づくほど、比べ合うのが女の定め。

結婚式準備を通じて変化していく女の友情の行く末は……?

◆これまでのあらすじ

2020年の秋婚に向けて準備を進める紗理奈とアヤ。紗理奈は、夫が共通の友人・千穂とこっそり会っていたことを、LINEを盗み見たことで知ってしまう。彼を問い詰めようか悩んだまま、朝を迎えてしまったが…

▶前回:夜中のベッドルームで夫の携帯ロックを外す女。彼女が見た驚きのLINE履歴とは



「今日、俺午後から在宅だから夕飯作っとくよ」
「う、うん…ありがとう」

月曜の朝。

神楽坂の自宅で繰り広げられている光景はいつも通りだった。

心地よい朝日が差し込むダイニングテーブル。紗里奈が用意した朝食のクロワッサンとスクランブルエッグ、サラダを美味しそうに食べる夫。

昨夜、夫・陽介の怪しいLINEを見てしまい、ほぼ一睡もできなかった紗理奈も平静を装い、いつも通り家を出た。

しかし…。

オフィスについてからPCに向かって仕事をしていても、ふとした瞬間に頭の中に浮かぶのは陽介と千穂のことばかりだった。

トイレに立ったり飲み物を買いに行ったり…気分を紛らわせようと試みるも、やはり集中できない。

ー直球勝負で問い詰める?それともまずは遠回しに探りを入れる?

良くないと思いつつも、そんなことばかり考えてしまう。

ーはぁ、こんな中途半端な気持ちのままじゃよくないね。陽介も早く家に帰るって言ってたし、ちゃんと話そうかな…。

結局、紗里奈は、定時で上がることにした。

いつもより空いている17時台の東西線。普段だったら定時帰りなんて嬉しくて仕方ないはずなのに、今日は憂鬱な気分で電車に揺られるのだった。



「昨日の夜会ってた地元の友達って、千穂のことでしょ?」

夕食後、いつものようにビール片手に野球中継を見始めた陽介に爆弾を投下すると、陽介はリモコンを持つ手をピタリと静止させた。

「な…なんのこと?」


とうとう夫を問い詰め始める紗理奈。修羅場を迎えるが、事の真相は…?

「嘘付くなんて最低ね」

すっとぼけようとしている陽介に抑えていた怒りが爆発する。我慢できなくなった紗里奈は、陽介の目の前にトーク画面のスクリーンショットを突きつけた。

「っていうか、携帯見たのかよ!」

話題を逸らされそうだったので、負けじと言い返す。

「『千穂は幼馴染みだけど連絡先はもう分からない』って前は言ってたのに…」

「いや、それはホントに知らなかった…先月くらいにFacebookの友達申請とDMが来て、やり取りするようになってたけど」

「千穂と会うなら、そう言えばいいのに。それとも何かやましいことでもあるわけ?」

そう言うと、慌てたように彼は首を横に振った。

テレビから流れる音声にも苛々してしまい、彼の手からリモコンを奪うと強制的に電源を切る。目に涙を溜め、思い切り陽介を睨みつけると、観念したように陽介は口を開いた。



「紗里奈に秘密でサプライズをしたいから協力して欲しいって言われてたんだ…」

「…え?」

「千穂、余興でバイオリン弾くだろ?そのことで」

聞けば、余興で弾く曲を紗里奈が好きな曲か、陽介との思い出の曲にしたいから案が欲しいと相談されていたらしい。

―それこそSNSでやりとりすれば終わる話じゃん。絶対陽介を呼び出すための口実でしょ。

そんなわかりやすい策略にまんまと嵌った陽介にも、友人の夫にこっそり連絡してくる千穂にもムカついた。昨晩千穂が載せた匂わせ投稿だってきっと“あえて”だと、悲しいことに同じ女だから分かってしまう。

そういえば千穂は、昔同じサークルや学科女子の彼氏を奪ったとか噂が立っていたことを思い出す。大学時代に聞いたくだらないゴシップを今更思い出すなんて、虚しい以外の何ものでもない。

―千穂は目立つ反面、敵も多かったから妬み半分のガセだと思ってたけど、あれは意外とリアルだったのかも…。

「ホントに何もないよ、何ならFacebookのチャットも見せるから」

話を聞く限り、陽介の話に嘘は無さそうだったし、千穂が“サプライズの相談がしたいから会いたい”と言ってきた証拠のチャットも見せてもらった。

完全に信じるとは言えなかったが、とりあえずその場では今後一切千穂と会わないことを条件にその話題を終わらせた。


結局夫を信用すると決意した紗理奈だったが、アヤと一緒にいるときに衝撃の出来事が起こってしまう…



「そっか、大変だったんだね…」

その週の土曜日夜、『and people ginza』で紗理奈は、事の顛末をアヤに報告していた

「でも、まだ陽介にはムカついてるから、冷戦状態なんだけどね…」

ふとアヤを見ると、いつもより沈んでいるように見える。

「アヤちゃん、今日元気ない…?」

「実は…私もさっき夫と喧嘩して出てきたの」

そして、アヤは、ずっと1人で結婚式の準備をしてきてことを初めて告白してきた。

「今日もオンライン打ち合わせを仕事でドタキャンされて、とうとうブチギレちゃった!」

アヤ達は現状を考えて30人から15人にまで参列者を減らす超少人数プランに急遽変更したらしい。

「色々変更も生じるし大事な打ち合わせだったのに。そもそも諒太郎って最初の打ち合わせとタキシードの試着しか参加してないのよ、ムカつかない?」

「いや、それは怒っていい案件だよ…」

結婚式準備は夫婦で行うものだと当たり前のように思っていた。しかしアヤの夫はアヤの考えを否定もしないが協力する気もないらしい。

―華やかな生活を送ってるアヤちゃんのことだから、なんの不自由もなく準備が進んでると思ってたけど…実は色々悩んでたのかな。

アヤのキラキラしたインスタ投稿や普段の会話、結婚式準備の様子からは想像できない苦労が確かに垣間見えた。例え、最高峰のドレスや靴を身につけることができたとしても、一緒に式を挙げるパートナーが無関心だったら紗里奈は絶対に我慢できないと思う。

「なんか話すと少しスッキリするね、聞いてくれてありがと」

ひとしきり話し終わった後、さっぱりした表情になり微笑んだアヤだったが…その直後、彼女は一瞬顔を歪めてお腹を押さえた。

そして、慌てて椅子の上に置いていたバレンティノのミニバッグを掴み席を立った。

「ちょっと、お手洗いに行ってくるね」



―遅いけど大丈夫かなぁ。

15分ほど経ってようやくテーブルに戻ってきた彼女の表情は、薄暗い照明でも分かるくらい真っ青になっていて、紗里奈の方が慌ててしまう。

「ど、どうしたの?やっぱり帰った方が良いんじゃ…」

「鮮血が出てて、マズいことになっちゃった。今から電話して病院行かないとだから帰るね…本当ごめん」

妊娠についてまだあまり詳しくない紗里奈でも、妊娠中の鮮血はヤバイということくらい何となく分かる。

慌てて会計を済ましタクシー乗り場までアヤに付き添い、病院へ向かう彼女を祈るような気持ちで見送った。


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妊娠初期のトラブルに見舞われたアヤと、紆余曲折ありながら陽介と和解した紗里奈。2人が下す決断とは?