2020年のプレ花嫁達は、この状況下で不安を抱えながら準備に励んでいる。

「この気持ち相談できる友達が欲しい」

そんな想いが通じ、運命的に出会った2人の花嫁、紗理奈とアヤ。

……ところが、「あの子が羨ましい」 互いの距離が近づけば近づくほど、比べ合うのが女の定め。

結婚式準備を通じて変化していく女の友情の行く末は……?

◆これまでのあらすじ
夫の浮気疑惑が解消し、ようやく夫婦で話し合う時間を手に入れた紗里奈と、妊娠中ハプニングに見舞われて病院へ駆け込むアヤ。2人の運命は?

▶前回:「どうして彼女と…?」女の匂わせ投稿で発覚!?“あの夜”夫の帰りが遅かったワケ



結婚式まであと2ヶ月


「あの…赤ちゃんは」

祈るような思いで先生の顔を見つめるアヤ。目の前に座り、カルテを打ち込む女医の反応が気になってしまう。

「妊娠12週。心拍は確認できます…ただ」

その言葉にひとまず安堵の溜息をつく。

しかし、「ただ」の次にくる言葉が良いものとは思えない。緊張した面持ちで、次の言葉を待つアヤに先生は淡々と続けた。

「切迫流産ですね。このまま暫く入院するか、自宅で安静にして頂く必要があります」

「…にゅ、入院…」

「自宅安静でも大丈夫ですよ。その代わり、基本横になって動かないように。仕事もお休みしてくださいね」

頭がクラっとして思わず額を押さえる。咄嗟に頭に浮かんだのは、やり残している仕事と家事のこと、そして迫りくる結婚式のことだ。

特に、仕事に関しては在宅の頻度こそ増えたものの、仕事量は倍増している。

「もう富岡さん1人の身体じゃないんですから。お気持ちは分かりますが、無理は禁物です」

心の中を見透かされたかのような言葉に驚いて顔を上げると、厳しい表情をした先生と目が合い思わず俯いてしまった。

「安静にしていないと本当に流産してしまう危険があるので、自宅安静を選択する場合は、これからお伝えする注意事項を守ってください」

失意のまま診察室を後にすると、携帯がLINEの通知を知らせて鳴った。


落ち込むアヤに夫が告げた意外な一言とは…?

「諒太郎…来てくれたんだ」

ロビーには、スーツ姿の諒太郎がそわそわした様子で椅子に座っていた。

昼間に捨て台詞を吐いた手前、気まずさも感じたが、諒太郎の顔を見て安心する気持ちのほうが大きかった。

『病院に行く』と一言そっけないLINEを送ってから1時間しか経っていない。仕事人間なのに、タスクを放り出して抜けてきてくれたと思うと胸が熱くなった。

「切迫流産って言われたよ。とにかく動いちゃダメみたいだから、仕事も暫く休まないといけないかもしれない」

帰りのタクシーの中。窓の外はすっかり暗くなっている。 緑が多く静かな雰囲気の乃木坂から、風景はあっという間にキラキラ光る六本木のビル群に切り替わった。



「……ごめん」

暫くの沈黙の後、絞り出すように諒太郎が小さく口を動かした。

「何で諒太郎が謝るの?」

驚いて隣のシートに座る夫の顔を見ると、彼は肩を落として俯いている。

「俺、家のことも式の準備も一緒にやるよとか言いつつ、結局アヤに任せきりで…さっきだって結婚式の打ち合わせ押し付けちゃったし」

「…終わったことだし、もう良いよ」

普段はクールな夫がこんなに凹んだ声を出すのも珍しい。

「家事も、アヤみたいに上手に出来ないかもしれないけど頑張るから…」

そう宣言する諒太郎の顔をまじまじと見つめてしまった。

「キャンセル料とか言ってる場合じゃないし、式も状況によっては更に人を減らすとかキャンセルも視野に入れよう」

「…そうだよね。思い切ってキャンセルもありだよね。…でも、やっぱり両親には直接ウェディングドレス姿を見せたいんだよね…ずっと楽しみにしてくれてたし」

「そうだな」

まずは母子の体調が最優先。その上でリスクをなるべく排除し、今の状況に合った方法を探って行こうと話し合って決めた。

―今までは、延期して『ただ苦労が無駄になった』って思ってたけど。

2人でぶつかったり、話し合ったり、無駄じゃないことも沢山あるのかもしれないと感じる。

今までは自分が少し我慢すれば良いと思っていたが、夫婦なのだから一緒に歩んでいくべきだと気付かされた。


一方紗里奈は夫と話し合う時間を作ることに成功して…

紗里奈:「結婚式を何のために挙げるのか、なんて前だったら絶対考えなかった」


アヤが病院に駆け込んだ翌日、赤ちゃんは無事だったとお礼のLINEが届いた。

自宅安静を余儀なくされたアヤは、暫く会社も休むらしい。上司に伝えたら『富岡が持ってる仕事、こんな状況で誰が引き取るんだよ…俺?』と電話口で嫌味を言われたらしく落ち込んでいた。

「紗里奈、そろそろ夕飯の支度出来るよ」

アヤとのLINEに夢中になっていると、キッチンから陽介が紗里奈を呼ぶ声が聞こえてきた。



「うわぁ、美味しそう!」

千穂とのことで冷戦状態が続いていたはずなのに、思わず弾むような声が出てしまう。

陽介お手製のエビフライとポテトサラダ、ミネストローネにガーリックトースト。陽介は、喧嘩した時や何か話たいことがある時は、たいてい手料理を振る舞ってくれる。

胃袋を掴まれていると悔しく思うこともあるが、自然と心も緩んでしまうから不思議だ。

「あのさ、ウェディングドレスのことだけど…」

「いただきます」と一緒に食べ始めてすぐに、陽介が紗理奈の顔色を伺うように話を切り出した。

「好きなの着ていいよ。あのドレス、紗理奈に似合ってたし一生に一度だもんな」

フォークを持ったまま動作を止めて陽介の顔をまじまじと見てしまう。

「えっ、いいの…?」

思いがけない彼の言葉に、目を見開きながら歓喜の声が出る。

「うん!」

陽介は優しく微笑みながら頷いている。

「ありがとう♡陽介も家計のこととか、色々考えてくれてたのに私我儘ばっかりでゴメンね……」

そう言って頭を下げる。その瞬間、ずっと心の奥にあったモヤモヤした気持ちが消えていくのを感じる。

「俺も紗里奈の気持ちとか考えてあげられなくてゴメン……」

恥ずかしそうに頭を掻いた後…陽介も紗里奈にならって頭を下げた。その様子が何だか可笑しくて2人で顔を見合わせて笑ってしまう。

「それでさ…紗里奈が結婚式で譲れないポイントを教えてほしいんだ」

陽介の言葉を聞いて、『結婚式をするにあたって、お互いの譲れないポイントを決めておいたほうが良いよ』という以前アヤがくれたアドバイスを思い出した。

「私は料理かな。あのホテルって、食事が美味しいことで有名でしょ?やっぱり来てくれる人には喜んでほしいし」

料理のランクは妥協したくないというのが、今の紗里奈の意見だった。その理由は前みたいな見栄ではない。この状況下で来てくれる人達には、最大限のおもてなしをしたいと思うからである。

「予算予算って嫌がられるかもだけど…俺はやっぱり初期見積もりからの超過は100万以内に収めたいな。あとは、参列者に感謝の気持ちが伝わる式にしたい」

美味しい夕食を味わいながら意見を交わすのは、意外と楽しい。

ちゃんと話せば、陽介が何でもかんでもケチっていた訳ではないことも分かった。話し合いの結果、料理とドレスで結構足が出る分、写真のカット数は減らしてDVDのオプションとかもナシにしようと決めた。

「あとさ、招待客のことで相談があるの…千穂のことだけど」

千穂という言葉を聞いて陽介はピクリと眉を動かす。

あの一件があってから、紗理奈なりに色々考えた結論を、陽介に話してみることにした。


▶前回:「どうして彼女と…?」女の匂わせ投稿で発覚!?“あの夜”夫の帰りが遅かったワケ

▶Next:10月6日 火曜更新予定
自宅安静になったアヤ。暫く夫に家の事を任せ、仕事も休むことになったが…?一方紗里奈達も、決心を固め…?