「恋愛では、男が女をリードするべきだ」。そんな考えを抱く人は、男女問わず多いだろう。

外資系コンサルティング会社勤務のエリート男・望月透もまさにそうだ。これまでの交際で常にリードする側だったはずの彼。

ところが恋に落ちたのは、6歳上の女だった。

年齢も経験値も上回る女との意外な出会いは、彼を少しずつ変えていく。新たな自分に戸惑いながら、波乱万丈な恋の行方はいかに…?

◆これまでのあらすじ

カフェでよく見かける女性・朱音に、恋をした透。ついに食事に誘うが…?

▶前回:「彼女、自分よりも経験が豊富かも…」デートに誘った男が困惑した、女の発言とは



「話が急すぎてついていけないんだけど」

透の話に、友人の大也が目をパチパチさせた。

『T.Y.ハーバー』のテラス席には、爽やかな風が吹いている。

今日は、大学時代からの友達・大也と飲んでいるのだ。彼もこの近くに住んでいるので、こうしてたまに会って食事をする。

だが彼は、透が話した朱音との一部始終に驚いているようだった。

「じゃあもう一回、最初から話すと…」

おずおずと話し始めると、大也は「そういう意味じゃねえよ」と遮った。

どっちなんだよ、と思いながら透は、目の前に座るうっすら無精髭を生やしたままの男をじっと見る。

すると大也が、呆れたように笑って続けた。

「なんでお前が不満そうなんだよ。

俺も見かけたことのある綺麗な女の人といつの間にか知り合いになってて?食事に誘って? で、年上で経験値も高そうだから、どんなお店に連れて行けば良いか困惑してるって? 何からツッコめばいいのやら…」

そこまで一気に喋り、大也はワインの入ったグラスを煽った。

彼のペースにのまれた透は、何を話したら良いか分からず、一緒になってグラスを口に運ぶ。

「このワイン、美味しいな」

そう呟くと、大也は意地悪くこう言った。

「そんなつまらない会話しか出来ないような男には、無理かもな」


ためらう透。すると大也は意外な行動に出て…。

好奇心


驚いたことに、大也は朱音のことを知っていた。

正確にいえば、特徴が一致するというだけなのだが、目撃する場所があのカフェということだったのでほぼ間違いないだろう。

「まぁ、よく考えたらお前は昔からそういうやつだったわ」

「そういう、って?」

相変わらず、会話の主導権は大也だ。透は、反射的に聞き返すことしか出来ない。

「見知らぬ女の子に平気で声かけるところ」

「平気ではないけど」

透は反論するが、彼がそう言うのも無理はないかもしれない。

隣で飲んでいる女性に声をかけて一緒に飲んだりすることも多いし、これまで遊びの恋愛も多かった。旧友・大也は、それを知っているのだ。

だが、今回は違う。朱音へのアプローチはかなり慎重に進める必要があるのだ。

「でも、すごいわ。よくあの女性に声かけたよな」

大也は拍手する素振りをして、感心するように言った。



「で、なんだっけ…。ああ、意外と年上だったんだっけ?」

大也は酔っているのか、ぶっきらぼうな物言いをする。あんな綺麗な人なんだからそんなこと気にするなよ、とでも言いたげだ。

「35」

透が数字だけ告げると、大也は「…全然見えないな。意外といってるんだな」と呟いて、ワイングラスを置いた。

「そうらしい」

彼の反応に、やはり自分の目はおかしくなかった、と透は少しだけ安心した。

「名前、なんて言ったっけ? 」

「日高朱音」

すると、大也はごそごそとタブレットを取り出し、何やら検索し始めた。

「お、見つけた。この人?」

そんな軽い言葉とともに、透に画面を向ける。そこに表示されていたのは、SNSのプロフィールページだった。

「おい、やめろよ。趣味悪いぞ」

手で払うが、ちらりと見えたその画面には、彼女の顔写真が映っていた。間違いなく朱音のページだ。

実は透も、ちょっとした好奇心から、彼女のページを探してみようかと思っていた。

だが、知らない方が良い情報が載っているかも分からない。見ない方がよかったと後悔するかもしれないと思うと、怖くて出来なかったのだ。

そんな透の葛藤をよそに、大也は楽しそうにページをスクロールする。

全く調子の良いやつだと呆れたが、本音を言えば、興味はあった。

「おー。ほんとに6歳上なんだ…って、おい」

大也は画面に目を落としたまま、透を手招きする。

覗き見しているようで気が引けるが、ここまで言われたら当然気になってしまう。おそるおそる大也が持つ画面を覗き込んだ透は、予想外のものを発見した。


「過去にこんなことが…」。気になる朱音の秘密とは…?

彼女の秘密


大也と透の視線の先には、女性数人で集まっている食事会の様子が収められた写真があり、その中に朱音がいた。

だが、問題はそこではない。

“出戻り同士よろしく!笑”

朱音の友人からのものと思われるコメントに、そうあったのだ。そして朱音も、“仲間になるとはね、よろしく!笑”と、書いていた。

さらにスクロールしていくと、数年前、花嫁姿の彼女の写真が映し出された。

「…どういうことだ?」

声に出すつもりはなかったのに、いつの間にか心の声が口を衝いて出ていた。

自分で思うよりも酔っているのか、自分で思うよりもこのことにショックを受けているのか。はたまたその両方か。自分ではよくわからなかった。

「どういうことも何も、彼女は結婚したことがあってその旦那とは今は別れてるってことだろ」

当事者ではないからなのか、大也は平然とスクロールを続ける。

「写真見る限り、相当良い生活してるんじゃん、これ」

透は、そうだろうなと思う気持ちと、聞かなきゃ良かったと思う気持ちで、耳を塞ぎたくなった。



「ふぅ…」

透は、家に着くなり深く息を吐いた。

久しぶりに旧友と会ったせいか、飲みすぎたかもしれない。ソファに寝転びながら、ぼんやりと大也の言葉を思い出していた。

“彼女、相当良い生活してるんじゃん”

やっぱりそうだよな。うすうす気づいてはいたことだが、SNSとは何とも残酷だ。

隈なく見たわけではないが、大也の画面をちらりと見た時、なかなかの高級店が映っていた。

それに結婚歴があることもわかった。当時の写真を消していないということは逆に、過去のこととして吹っ切れているのかもしれないが、やはり見なければよかった。

「とりあえず、水でも飲もう…」

残暑の熱気と酒で、喉がカラカラだった。

食器棚の扉を開けたところで不意に、何かのイベントでもらったワインのボトルが目に入る。そして、ふと考えた。

–ワインとか、詳しいのかもな。

SNSに映っていた朱音の写真を思い出す。

東京で良い生活を送る、経験豊富な美女。もしかしたらワインの知識も人並み以上かもしれない。

透も飲むのは好きだが、特にワインに造詣が深いわけではない。付け焼刃の知識がバレるのは恥ずかしいが、完全にリードしてもらうのも躊躇われる。

「俺は、一体何を考えているんだ…」

ふと我に返って、一気に水を飲み干す。

今大事なのは、彼女といかに楽しい時間を過ごすか、だ。

事実、カフェで彼女と話す時間はとても楽しく、時間が経つのもつい忘れてしまうほどに惹かれているのだ。

デートは来週だ。

「よし!」

透は、ともかく朱音を喜ばせることに徹しようと心に決めた。


▶前回:「彼女、自分よりも経験が豊富かも…」デートに誘った男が困惑した、女の発言とは

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ついに迎えた透と朱音の初デート。デート後の女子会で彼女が話したのは…?