愛しすぎるが故に、相手の全てを独占したい。

最初はほんの少しのつもりだったのに、気付いた頃には過剰になっていく“束縛”。

―行動も、人間関係の自由もすべて奪い、心をも縛りつけてしまいたい。

そんな男に翻弄され、深い闇へと堕ちていった女は…?

◆前回までのあらすじ

亮から“男除けのための指輪”を手渡される詩乃。彼の束縛に違和感を感じながらも、過去の恋愛のトラウマから、束縛を一種の“愛情表現”だと思い込み始めていた…。

▶前回:「左手の薬指につけていて欲しい」付き合ってすぐの彼女に男が告げた、衝撃の要求とは



「ちょっと詩乃…。それなに?」

それは『クレープ ノカオイ トウキョウ』でランチをしていたときのこと。職場の同僚・城之崎 茜が、詩乃の左手薬指を見て、訝しむように尋ねてきたのだ。

詩乃は左手を顔の前にかざすと、ふふんと微笑みながらこう言った。

「あ、これ?つけてって言われたんだ。男除けなんだって♡」

昨日指輪を渡されたときの素敵なレストランと、いかにもカップルらしい甘い雰囲気のことを思い出して、思わず声が弾んでしまう。

「なんだって♡じゃないよ。そんな男、ほんとにヤバいから。イケメンでお金持ちで、魅力的なのは分かるけどさ…。もっと穏やかでいい男、紹介してあげるよ?」

詩乃のことをバカにするでもなく、ただ茜は本当に心配をしてくれているのだということが伝わってくる。

「じゃあ今度、私の彼氏も入れて4人で食事行こう。とっても素敵な人だから」

「うん、でも…」

「でもじゃないよ!ちゃんと現実見た方がいいよ。その彼氏には、私とご飯に行くって言えばいいんだから」

茜の雰囲気に圧倒されて、詩乃は渋々うなずいた。

「あ、それから。その指輪はちゃんと外すんだよ?」


亮に隠れて行った食事会で、詩乃は…?

「指輪は外してくること!」

食事会当日の定時直前、茜から社内チャットでそう送られてきた。

「分かってるよ〜」と返事を打つ左手の薬指には、ちゃっかり指輪がはめられている。

―でもやっぱり、亮に申し訳ないなあ。今日なんてスケジュールにも嘘のこと書いちゃったし…。

食事会の時間が近づいてくるにつれ、ちゃんと断ればよかったと後悔の気持ちが押し寄せてくる。

そして、その数時間後。

「あはは、詩乃ちゃんって見た目大人しい感じなのに喋ると面白くていいね」

『エス スパイラル』で開かれている食事会は、詩乃が想像していたよりもはるかに楽しく進んでいた。

それに、茜が連れてきたユウキという男の子が、とても素敵な男性だったのだ。つかみどころのない亮とは正反対で、裏表を感じないさっぱりとした性格をしている。

亮が言うような「可愛い」といった曖昧な褒め言葉ではなく、詩乃のいいところを具体的に言葉で伝えてくれるので、素直に喜んでしまう。

「詩乃ちゃん、彼氏いるんだよね。茜から聞いてるよ。でも、ちょっと問題アリなんでしょう?ムリに奪おうとはしないけど、ちょっとでも変だなって思ったらすぐ連絡しておいで」

決して“イケメン”ではない彼だが、ユウキの優しい言葉に、詩乃はドキリとする。

「ほらほら、LINE交換しときなよ」

茜に後押しされ、連絡先を交換するためにバッグからスマホを取り出そうとしたとき、指輪を入れているボックスが視界に入った。

詩乃の中で、また罪悪感が募る。

「大丈夫。異性の友達がいることは不思議なことじゃないし、言わなきゃ絶対バレないんだから」

詩乃の気持ちにブレーキがかかる直前に、茜がさらに後押ししてきた。

―LINEも見られるんだけどね。まあ、いいか。亮と会うときはちゃんとトーク履歴消しておけばいいんだし。

詩乃は頭の中でそう考える。亮のことを考えると心がチクリとするが、茜の厚意も無下にはできなかった。



その後も食事会は茜を中心に盛り上がり、ユウキとは“イイ感じ”のまま解散した。

詩乃は自宅に向かうタクシーの中で、ユウキとのLINEに夢中になっている。彼は「詩乃を気に入っている」ということをLINE上でもストレートに伝えてくれるのが、新鮮で嬉しい。

―亮みたいに心配してくれるのも愛情を感じられるけど、こんな風にまっすぐ好意を伝えてくれるのもいいな。

詩乃はそんなことまで考えるようになっていた。

するとタクシーが詩乃の自宅近くまで来たとき、突然電話が鳴りだしたのだ。


かかってきた電話の相手とは…?

「運転手さんすみません、自由が丘に向かってもらえますか?」

電話を切ってすぐに、詩乃はそう言った。

亮から「会いたい」と言われたのだ。

詩乃はタクシーで亮の部屋に向かう途中、慌てて指輪をはめた。そして、返信しかけていたユウキとのLINEを“非表示”にして痕跡を消す。

―なんでこのタイミングなんだろ。もしかして、食事会に行ってたことがバレてる…!?

詩乃はそんなはずがあるわけないと思いながらも、ゾッとしてしまった。



「夜遅いのに来てくれてありがとう」

詩乃の心配とは裏腹に、亮は優しく出迎えてくれた。

「指輪もとっても可愛いね。似合ってるよ」

そう言って髪を撫でてくれる。

これまで“彼氏に嘘をつく”なんてしたことがなかった。そのせいか、亮に優しくされればされるほど、詩乃の中で罪悪感がどんどん大きくなっていく。

「詩乃、どうしたの?何かイヤなことでもあった?」

亮の前で不自然に黙り込む様子をおかしく思ったのか、ついにそう尋ねられてしまった。

「あのね…。亮、ごめんなさい」

「何かあったんだね?ゆっくりでいいから話してごらん」

亮は心配そうに言うと詩乃をソファに座らせ、背中をさすってくれた。その手が驚くほど優しくて、詩乃はポツリポツリと今日の出来事を正直に話してしまう。

「亮がいるのに食事会へ行ったの。そんなことしてごめんなさい」

一気に話すと、少し落ち着いた。そして冷静になった瞬間「ヤバい」と恐怖で体が震え始めた。

女友達と遊ぶことさえ嫌がる亮が、こんな話を聞いて怒らないわけがない。詩乃が怒鳴られるのを覚悟した瞬間、亮がフゥとため息をついた。

そして詩乃を力いっぱい抱きしめる。

「詩乃、辛かったね…。頑張って告白してくれてありがとう。俺、正直者の詩乃ちゃんが好きだよ」

そう優しく言いながら背中をトントンと一定のリズムで叩いてくれる。

今回の場合はまだ浮気には当てはまらないのだけど、浮気した側が告白してラクになろうとすることは、恋愛においてのタブーだ。

そんなことは、恋愛経験の少ない詩乃でも理解していた。

それをおかしてしまったにも関わらず、亮は優しく寛容に許してくれたのだ。ユウキに少し心が揺らぎかけていた詩乃だったが、完全に亮へと気持ちが傾いた瞬間だった。

「…ほんとに、ごめんね?」

「大丈夫だよ。次からはもうしないでね」

どこまでも優しい亮の言葉に、詩乃はコクリとうなずく。

「あ、でもね。詩乃ちゃんも悪いことしたのに、なんのお咎めもナシだとモヤモヤしちゃうだろうから…」

そう言って詩乃のスマホのロックを解除すると、LINEの友達リストを開いた。

「何してるの?」

「ん?詩乃の友達リストから男を全部ブロックしてるんだよ?」

真剣な顔つきで淡々とブロックしていく亮に、詩乃は何も声をかけることができなかった。


▶前回:「左手の薬指につけていて欲しい」付き合ってすぐの彼女に男が告げた、衝撃の要求とは

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男性の交友関係を遮断されてしまった詩乃。そんなとき、亮を街で見かけて…?