「この女、なんかムカつく」って思われるほど、羨望される存在になりたい…

結局、自己PRの上手い「あざと可愛い女」がいいところを持っていくのが世の常

真面目に生きてるだけじゃ、誰かの引き立て役にしかなれない

そんな自分を卒業し『人生の主人公』になるべく動き出した女・夏帆(26)がいた…

◆これまでのあらすじ
片思いの相手・淳太(31)と友達が付き合ったことを知りショックを受ける夏帆。しかし、2人があまりうまく行っていないということを知り、みんなで食事をした帰りに、淳太の部屋までおしかけた夏帆だったが…?

▶前回:「一緒にいたいの…」付き合う前に男の家に押しかけた女の末路



「家まで行ったの?凄いじゃん」

土曜の昼下がり。隆介と夏帆は、『松之助 ニューヨーク 東京・代官山店』に来ていた。

甘いものに目がない2人は、ああでもないこうでもないと10分以上メニューを吟味したが、結局この店定番のサワークリームアップルパイとサワークリーム&ブラックカラントパンケーキをそれぞれ注文した。

ケーキを食べながら、隆介は夏帆の最近の恋愛事情を聞いてきた。初めて出会った日から、夏帆の恋愛話は“面白エピソード”として彼に消費されている。

夏帆はそれを少し不服に思いつつも、第三者である彼に話すことで頭の中が整理され、不思議と心がスッキリするのも事実だった。

そして、 “淳太の家に押しかけた夜のこと”について切り出すと、隆介は興味津々な様子で話の続きを促してきた。

「で、その後どうなったの?」

「えっとね、実は…」


自分から淳太の家に押しかけた夏帆だったが、その夜何があった…?



時刻はもう24時を回っていた。

―この後、どうしよう…。

「もっと一緒にいたい」と自分から彼の家にまで押しかけて、こんな時間に好きな人と手を握り合っているシチュエーションに、胸が高鳴る一方で、どこか冷静にこの状況を分析している自分がいる。

自分は淳太のことが好きだ。でも、今はまだ彼は悠乃と距離をおいているだけで、別れたとは言っていない。曖昧なまま…。

夏帆は彼の手を強く握ったまま、恐る恐る口を開いた。

「…気付いてるかもしれませんけど、さっき言ってた“好きな人”って淳太さんのことです。一緒に仕事しているときからずっと好きでした」

「……」

「だから、悠乃の代わりは嫌なんです。自分から家に押しかけておいて、何言ってんだって思われるかもしれないけど、やっぱり…」

淳太は、軽く頷いたが口をつぐんだままだった。それが、何よりの答えのように思えた。

「…もう遅いし、私帰りますね」

淳太は何か言いたげな表情だったが、小さく頷き「わかった、タクシー呼ぶね」とだけ言って夏帆に微笑みかけた。そう呟く彼の横顔が、少しだけ寂しそうに見えた。


―引き留めてくれないんだ…。

切なさを感じながらも夏帆は立ち上がり、ゆっくりと玄関に向かう。ドアの前で淳太のほうを振り返り、「またゴハンでも行きましょ〜!」と精一杯の笑顔を作り彼の家を後にした。

エレベーターを降り、目の前に留まっていたタクシーに乗り込む。シートに深くもたれかかり、ホッと一息ついた。

このシチュエーションを自分から作り出したとはいえ、どうするのが正解だったのかはよくわからない。

それでも、ほんの僅かだが関係を進展させられたこと、そして、場の雰囲気に流されてしまわなかったこと。この先を考えると『今日はこれが最善だった、むしろ自分を褒めてあげてもよいくらいだ』と夏帆は結論づけることにした。



「で、その後は?」

隆介は、パンケーキにたっぷりのメープルシロップを浸しながら興味深そうに尋ねてくる。

「実は、彼から食事に誘われたんだけど…」

「ほぉ〜、結局彼女と上手くいかなくなって、手近な女で済ませようとしてるってわけか」

「淳太さんはそんな人じゃないです!!って思ってるけど…。やっぱりそうなのかな」

急に自信なさげに俯く夏帆。その様子を見て、隆介がふっと笑った。


やっと淳太に告白できたものの、意外な自分の気持ちに気付き始める夏帆…

「実は、2人で食事に行く勇気がまだ持てなくて、返事は保留にしてあるの」

「なんで?なんかいい感じなのに、何迷ってるの?」

隆介は、“理解できない”といったような表情で夏帆に問いかける。

「そうかな?次が勝負デートのような気がして…。何か間違えたら永遠に淳太さんの彼女になるチャンスを逃しちゃいそうなのがなんか怖くて」

ここに来てから散々喋り倒していたせいか、まだ半分以上残っているアップルパイを口にする。



「やっぱり、悠乃の代わりなんて絶対に嫌じゃない?しかも私、結局“あざとい”を体得できてないし…。2番手の脇役から脱してない。ちゃんと淳太さんから愛される女になりたくて」

「なんでもいいけどさ、ここ、ついてる」

夏帆は慌てて紙ナプキンで口を拭い、「やだぁ」と照れたように笑った。

「…夏帆ちゃんは、そのまんまでいいと思うよ。脇役なんかじゃないと思うよ」

「え?」

「“あざとい”とか“脇役”ってどういう意味なのかわかんないけど、人の心を掴む女ってことだとすると、今のままでも十分魅力的だと思うよ。どこに連れて行っても楽しそうにしてるし、話も面白いし!」

隆介の言葉に、夏帆は黙り込む。

「だから、さっさと2人で食事に行ってきたら?」

そう言い残し「俺ちょっと外で一服してくるわ」と、隆介は表情ひとつ変えず煙草を吸いに行ってしまった。

「あ、うん」

夏帆はそんな彼の様子に、フフフと小さく笑う。お世辞を言うのは苦手な彼が、自分を“魅力的”だと言ってくれた。それがとても嬉しかったのだ。

ーそのまんまの私、か…。

中途半端な自分から抜け出したくて、ヒロインになりたくてもがいていた数ヶ月間。新しい出会いを探す一方で、魅力的な女性達からテクニックを盗もうとしたこともある。

でも彼女達の魅力の正体は、小手先のテクニックだけではなかった。もっと根本的な、揺るぎない自尊心があるからこそ、その魅力を発揮できることに気付いた。

―私もいい加減、自分に自信を持たなくちゃ…。

おもむろに携帯を取り出し、淳太とのトーク画面を開いた。

『返事遅くなっちゃってごめんなさい。予定確認したら、来週大丈夫でした!お会いできるのを楽しみにしてます』

うさぎのスタンプと共に、メッセージを送信する。夏帆は、携帯の画面をじっと見つめた。

これから先、淳太とどうなるかは分からない。でも、彼が自分に振り向いてくれるかは、あくまでも自分次第だ。

既読が付きすぐに淳太から返信が届く。以前よりもずっと早くなったやりとりに、自然と笑みがこぼれた。

―大丈夫。私は、前進し続けてる。

夏帆は携帯をぎゅっと握りしめる。まだ見ぬ彼との未来に、小さく胸を高鳴らせた。


fin.

▶前回:「一緒にいたいの…」付き合う前に男の家に押しかけた女の末路