女の幸せは、チヤホヤされること?貢がれること?

いいえ。私の幸せは、そんなんじゃない。欲しいものは自分で勝ち取るの。

「若くたって、女だって、成功できるんだから。私にかまわないで」

これは、銀座の一等地でランジェリーショップを経営する、勝気な女社長の物語。

◆これまでのあらすじ

ランジェリーショップを経営する若手女社長・メイコは、自分の手で稼いだお金を使って、ブランド物を買うことを生きがいにしている。

ある日、男からヴァレクストラのバッグをプレゼントされたメイコは、怒りにまかせてつき返してしまうのだった…。

▶前回:「私、男に貢がれたくないので」ハイブランドで身を固める29歳女のこだわり



「ねえ莉子、名刺入れなんてどう?」

長い髪を揺らしながら、メイコは振り返って莉子に笑いかける。

メイコはこの日、自分の店を手伝ってくれている後輩の莉子を連れて、ジバンシイのブティックを訪れていた。

昨日めでたく、新作ランジェリーの追加生産が決まったのだ。メイコはそのご褒美に、新しくロックスタッズのバッグを買うと決めていた。

そしてタイミングよく、来週は莉子の24歳の誕生日。莉子にも何かプレゼントしたいと思い立ち、彼女を連れてブティックにやってきたのだ。

迷いもなく、絶妙なブルーのバッグに心を決めたメイコは、続いて莉子への誕生日プレゼント選びを始めた。

「名刺入れも見ようと思って」

メイコがそう言うと、店員は恭しくお辞儀をし、4つの名刺入れを運んできた。真っ白な手袋をはめた店員が、目の前にツートンカラーの名刺入れを並べていく。

カラフルなそれらを見て、莉子はワッと小さく声をあげた。

「どうしよう、どれも可愛いです…!」

莉子は薄茶色の髪を包むように頭を抱えながら、上目遣いでメイコを見る。

「ふふっ。一番気分が上がるのを選ぶのよ」

メイコがそう言うと、莉子は「でも…」と控え目につぶやいた。


莉子が放った一言とは?

「私まだ24ですし、若いうちは目立たなくて無難な名刺入れを使うべきって、ネットで見ました…」

メイコは微笑みながら首を横に振った。

「あのね、莉子。覚えておいて欲しいの。成功したかったら、自分で自分を大きく飾るのよ。見栄を張ってでもね。そうすれば不思議とそういう世界に居場所ができるんだから」

莉子はメイコの言葉に、溢れるような笑顔でうなずいた。

「じゃあ、これにします」





メイコが莉子と出会ったのは、1年ちょっと前のことだった。

メイコのランジェリーショップに、週1〜2回のペースで足繁く通ってくれていた女子大生がいたのだ。

それが、莉子だった。

目立つような派手さはないが、可憐な雰囲気を携えた女の子。淡いピンクのランジェリーを手に取ってうっとり眺めていた莉子に、メイコは声をかけたのだ。

「お客様。いつも、ありがとうございます」

メイコが近づくと、莉子は背筋を伸ばして大きな目でメイコを見つめ返してきた。

「あの、本庄メイコさん…」

メイコはフルネームで呼ばれたことに少し驚いたが、莉子のキラキラした目を見て、一瞬で理解した。

―私のファンでいてくれてるのかしら?

ちょうどその頃からメイコは、雑誌やWEBニュースで時々特集を組まれるようになっていた。それを見てメイコに憧れ、お店に通ってくれる女の子も出てくるようになっていたのだ。

メイコの勘は当たった。

「メイコさんのこと雑誌で知ってから、本当に憧れで」

やや震える声でそう言った初々しい莉子のことを、メイコは今でも鮮明に覚えている。

それから、メイコと莉子はどんどん仲良くなっていった。

「今日も、来ちゃいました」

閉店間近に来店してくれた時には、メイコの方から食事に誘うこともあった。

そんな関係が続いたある日、食事の場で莉子は言った。

「私も、将来ランジェリーブランドを立ち上げたいんです。メイコさんに負けないくらい、若いうちに成功したくて」

力強いその声。

普段はフワフワとした雰囲気だったが「メイコさんに負けないくらいの」という言葉に、メイコは隠れた強さを莉子の中に見た。

そして、メイコの方から自然に言っていた。

「いいじゃない。勉強がてら、大学卒業したらうちで働く?」

メイコは、年下にものを教えることが好きだったのだ。それに、自分のことを慕ってくれる女の子がそばにいれば、もっと仕事に勢いがつくように感じた。

その誘いに莉子は、こぼれ落ちそうなくらいに目を開いて、ゆっくりとうなずいたのだ。

それ以来メイコは、仕事中は良きパートナーとして、プライベートでは妹のように、莉子を可愛がっている。


そんな“姉御肌”なメイコの帰りを待つ、ある男の存在

「ただいまー」

メイコがマンションのドアを開けると、俊也が見ているのであろうテレビの音が、微かに漏れ聞こえてきた。

「おお、おかえり」

俊也は帰宅したメイコに気付き、見ていた番組を一時停止する。

14歳年上の彼氏・俊也は、輸入家具ブランドを立ち上げ、4年で都内に4店舗、大阪に1店舗を持つまでに成長させた敏腕経営者だ。

常に忙しそうで、家でもずっと仕事をしている。

時刻は夜の9時。

彼がこの時間に家にいる時は、録画しておいたテレビを早回しで見ていることが多い。そのジャンルは報道特集番組からドラマ、バラエティーまで多岐にわたる。

「流行のドラマとかタレントのことは知っておいた方がいいよ。今は疎い人も多いけどね、意外と会話の足しになるから」

同棲したての頃、メイコは俊也からそう教わった。こんな風に彼は、メイコに色々なことを教えてくれたのだ。

知っておいた方がいい情報や押さえておいた方がいい人物。それに、経営者としての具体的なアドバイスまで。

俊也がいるから、メイコは怖がりすぎずにビジネスの道を歩いてこれた。



「夕飯、どっかで食べてきたの?」

「ううん。今日は莉子に名刺入れを買ってあげたの。あの子、来週誕生日だから」

「おお。気に入ったのが見つかったんだ?良かったな」

こんな風に俊也の目尻が下がるのを見ると、メイコはいつもホッとする。

そしてテーブルの上に並んでいる、テイクアウト用の空容器に気付いて、メイコは心の中で俊也を称賛した。

―成功してる男って、女をお手伝いさんみたいにしたがる人ばかりだけど、トシさんは違うわ。

俊也は、メイコに家事を期待することはない。掃除は業者に頼んでいるし、料理は基本的に、こうやってお互いの好きなものを好きな時に食べる。

2人は、お互いのことを干渉しすぎないようにと決めているのだ。それは5年前、付き合う時に俊也が決めたルールでもある。

変に期待をしたり、詮索したりすると、お互いに不満が募る。俊也はそれを“無駄なストレス”だと言っていた。

「恋人とか夫婦とかになると、決まってそういう無駄なストレスに囚われるんだ。そうじゃなくて、お互いいつも気持ちよく一緒にいたい」

俊也のその考えに、メイコは心から賛同した。

―相手に囚われる感情なんて私にはいらないの。仕事のために、少しでも強くいなきゃいけないんだから!

それに俊也は、ことあるごとに、メイコにこう言う。

「メイコは何も気を使わなくていいよ。僕は彼女を、家政婦みたいに扱うような男とは違うし。一緒に、それぞれの夢を追えばいい」

そんな彼と交際して、もう5年が経つ。

「俊也さん、私シャンパン開けるわ。飲む?」

「いいね」

そして俊也は、ジバンシイの紙袋を指差してニッコリ微笑んだ。

「…ああ、そうか。これがあるってことは、何かいいことあったってことだもんな」

「そうなの」

そう言って、ルンルン気分でキッチンまで歩いていくメイコ。心の中は、幸せでいっぱいだった。

仕事も充実しているし、もちろん俊也との関係に不満なんて何もなかったから。

…そう、この時までは。


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メイコは、妹分・莉子の思わぬ本性を知ってしまう…。