女の幸せは、チヤホヤされること?貢がれること?

いいえ。私の幸せは、そんなんじゃない。欲しいものは自分で勝ち取るの。

「若くたって、女だって、成功できるんだから。私にかまわないで」

これは、銀座の一等地でランジェリーショップを経営する、勝気な女社長の物語。

◆これまでのあらすじ

部下の莉子は「将来自分のブランドを持ちたい」という思いを持っており、勉強のためにメイコの店を手伝わせていた。そうして彼女を妹のように可愛がっていたメイコだったが…?

▶前回:たった29歳で成功を収めた若手女社長。彼女の影にいた、14歳年上の男の正体



浦田莉子「メイコさんの話題ばっかりで、うんざりする」


「莉子、今日は誕生日なんだし、早くあがっていいからね」

ランジェリーショップのバックヤードでPC画面を見つめていたメイコが、唐突に莉子へ話しかけてきた。

「ホントですか…!ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えてちょっとだけ早くあがりますね」

そう言うと莉子は、メイコに向かってニッコリ微笑んだ。

今日は自分の誕生日当日。このあとの予定に合わせて、ライトブルーのワンピースでめいっぱいオシャレしてきたのだ。

メイコの粋な計らいに、莉子は緩む頬を抑えきれず、ニコニコしながら店頭へと戻っていった。



数時間後。

莉子は大学時代の友人に囲まれて『銀座 楼蘭』にいた。

行われているのは、莉子の誕生日会。話題の中心はもちろん莉子のはずだったが、彼女たちは突然、興味津々な様子でこう尋ねてきた。

「ねえ。莉子って、本庄メイコの店で働いてるんでしょ?」

莉子がメイコの店で働くようになって、約1年。今や“本庄メイコ”という名前は、トレンドに敏感な女子であれば誰もが知っているほどだ。

「いいなあ。私も本庄メイコと働いてみたい!」
「実際、どんな人なの?」

メイコについての質問ばかりにうんざりした莉子は、目の前の赤ワインをグイッと飲み干したのだった。


メイコは、その頃…?

本庄メイコ「莉子って…。バカな子だったのね」


莉子を早めにあがらせた後、小1時間かけて1人で店じまいをしたメイコは、ようやく帰路についた。

新品のジバンシイのバッグを小脇に抱えるようにして、夜の銀座を歩く。

―この辺りも活気が戻ってきたなあ。少し散歩でもしようかな?

すっかり秋めいた風を体に感じながらGINZA SIXを通り過ぎる。そこから脇道にそれると、何やらひときわ賑わっているエリアがあった。

メイコは何気なく、そちらに顔を向ける。その時、あるものが目に飛び込んできて、メイコは足を止めた。

地面に座りこんでいる女の子の姿。その周りを、数人の女子が心配そうに囲っている。

―ん?あのワンピース。

目についたのは、ライトブルーのワンピース。それは、ついさっきまで一緒にいた莉子が身につけていたものに見えた。

―莉子!?あの子、お酒強くないから…!

メイコは反射的に駆け寄る。しかし、その足はすぐに止まった。

…人違いだったからではない。

酔った口調で宙を睨みながら、莉子がメイコの名前を叫んでいたからだ。

「本庄メイコは…!」

そんな莉子の様子に、彼女の友人とおぼしき人物が「まあまあ」と、ペットボトルの水を差し出している。

それを勢いよく飲むと、いくらかスッキリとした様子で莉子は立ち上がった。

「みんな本庄メイコ、本庄メイコって言うけどさ。あの人、別にそこまでの人じゃないから」

聞いたことのない尖った声色が、メイコの心臓に直接届く。

思わず壁沿いに身を隠したメイコの気配に気付くはずなく、莉子は話を続けた。

「あの人がすごいワケじゃないよ。あの人はね、恋人がすごい人なの。レジェンドなの。結局ね、女の成功なんて、男という後ろ盾があるかどうかなんだから」

莉子の体を支える女の子が、少々うんざりした様子で「分かったからタクシー呼ぼう」と言う。

しかし莉子は構わずに続ける。

「本庄メイコは、それなのに我が物顔でこの街を歩けるんだから。私は、ああなりたくない。だってダサいもん」



メイコは莉子たちから逃げるように、歩き始めた。

「…バカな子」

カツカツとヒールを鳴らして歩く。

和光の時計が暗闇に浮かぶように光っている。

「ほんと、バカな子だわ」

滲んで揺れる世界。メイコは、自分が思いのほか傷付いていることに気付いた。

―だけど莉子に言われると、ちょっときちゃうな…。

ひがまれることには、もうメイコは慣れっこだった。SNSでも、リアルな人間関係でも、定期的にそういう言葉を投げつけられる。

それらは、外野からの言葉だったから耐えられたのだとメイコは思った。

メイコの指先は、冷えてかじかんだようになっている。その細い手をあげると、タクシーが速度を落として歩道に寄ってきた。


帰宅後、取り乱したメイコは…

メイコがフラフラになって帰宅すると、俊也はスピーカーフォンで仕事の話をしながら寿司を食べていた。

その様子に気付いたらしい俊也は「じゃあ、資料送っといて。…はい、よろしく」と言ってから、サッと電話を切る。

普段は「仕事中はお互いを気にしない」と決めている。それなのに俊也は一瞬でメイコの異変を察知して、仕事を切り上げたようだ。

「…メイコ?なんかあった?」



メイコは何と言ったらいいのか分からず、黙り込んでしまう。

「…メイコ、食べる?ほら、いくらあげる」

俊也が心配そうに顔を覗き込んでいるのは分かっていたが、今は何も言う気になれなかった。

すると俊也は、メイコの背中を数回さすった後、急に立ち上がってキッチンに向かった。しばらくして、マグカップに注いだほうじ茶を持ってきた俊也は、それをメイコの前に置く。

「…なにか失敗したの?」

静かに涙を流すメイコに、俊也は恐る恐るといった様子で尋ねてきた。

「ごめんなさい。私、今日は寝る」

そう言ってソファーから立ち上がろうとするメイコに、俊也はこう言った。

「もし困ったことになってるなら、僕の名前を出してもいいんだからね」

その言葉に、メイコは上目遣いのまま俊也を見る。

「…え?」

「きっと、なんか失敗したとか、揉めたとかでしょ?そんなん、僕が守ってあげるよ」

力強い俊也の声が、メイコに降り注いでくる。いつも通りの頼もしく、安心感のある言葉。…しかし、それは今のメイコにとって一番いらない言葉だった。

『あの人じゃなくて、恋人がすごい人なの。結局ね、男という後ろ盾があるかどうかなんだから』

酔った莉子の声が、脳内でリフレインする。

かすれた声で、メイコは俊也に言い放った。

「もう、放っておいてよ」

「…え?」

俊也が怪訝な顔を見せた。

「バカにしないで。私、1人でも出来る」

突然荒くなったメイコの言葉に、俊也は困ったように笑った。

「いやいや。バカにしているんじゃなくて、心配してるんだよ」

それを無視する形で、メイコは立ち上がって叫ぶ。

「ねえ。私がどれだけ努力して成功しても、結局“力のある男がバックにいるから当たり前”ってことになるのね…!」

「…メイコ?」

真意を汲み取れずにいる俊也を置いて、メイコはバスルームへと歩き出した。

そして、振り向いてこう言った。

「トシさん。私、あなたと離れたい…」


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メイコの言葉に、俊也は意外な反応を見せる…