職場は、戦場だ。

出世争い、泥沼不倫、女同士の戦い…。

繰り広げられる日常は、嘘や打算にまみれているかもしれない。

そんな戦場でしたたかに生きる「デキる人」たち。

彼らが強い理由は、十人十色の“勝ち残り戦略”だった。

大手IT会社に勤務する25歳の花山 樹里は、そんな上司・同僚・後輩と関わりながら、それぞれの戦略を学んでいく…。

▶前回:オンライン会議のカメラの前で…。異例の出世を遂げた魔性の女の”武器”とは



「お、花山ちゃん久しぶり、おはよう」

月曜日の朝。

駅からオフィスに向かう途中、ポンっと肩を叩かれ振り返ると、右手を小さく挙げながら木下が爽やかに微笑んでいた。

木下は、営業部のエースと囁かれる男。社内の女性たちの中にも、木下ファンは少なくない。

「…あっ、木下さん、お久しぶりです」

樹里は、紗栄子のアドバイスを気にしてゆるく巻いた髪を、ぎこちなく触る。

ー数ヶ月ぶりだからか、余計ドキドキしちゃう…。

これまではほぼ在宅勤務だったが徐々にオフィスに出社する日も増えてきており、今日は一週間ぶりの出社。

先いくね、と樹里の目の前を小走りで通っていく木下の姿を、上から下までじっと観察する。

ーシワひとつないピシっとしたスーツ。独身だとは聞いてるけど、やっぱ同棲してる彼女とかいるのかな…。

樹里は、嫉妬に似た感情がフツフツと自分の中で湧き出てくるのを感じ、ハッと身震いをした。

「やだ、私、どうしちゃったんだろ」

思いがけない感情に翻弄されそうになった樹里は、オフィス近くのカフェでテイクアウト用のホットコーヒーをオーダーしながら思い出す。

「そういえば木下さんと会うの、“あの時”以来だ…」


社内でもモテる木下という男。木下が樹里に近づいたワケは?

“あの時”。

それは、緊急事態宣言の直前の3月のことだ。

「花山ちゃん、最近元気なくない?」

思いがけず、仕事帰りに木下からそう声をかけられ、急遽二人でディナーに行ったのだ。

樹里が落ち込んでいたのは、付き合っていた5歳年上の彼氏に突然フラれ、一睡もできずに出社したから。

そうとは知らない木下は、「なんでも相談に乗るよ」としきりに仕事上の悩みを心配してくれ、樹里は内心申し訳なさを感じたのだった。

しかしその一方で、木下の笑顔と優しさが、失恋でポッカリとあいた心の穴をしっかりと癒してくれたのは事実。

樹里は、熱いコーヒーに唇を寄せながら思う。

ーあれから会えてなかったけど、もしかして…。

先ほど心の中に湧き上がった、切なく胸を締め付けるような気持ち。

ー私、木下さんのこと…好きになってる?

思い当たった瞬間、樹里は思わずフッと笑った。

「バカみたい、私も単純すぎよね」

木下は、社内でも有数のモテ男だ。平凡な自分になど、チャンスがあるわけがない。

そう思いながら樹里が、買ってきたコーヒーをデスクに置いた、その時だった。

再び樹里の背後から、聞き覚えのある声がかけられる。

「ねえ、花山ちゃん。今日よかったらランチ行かない?午後のミーティング前の擦り合わせも兼ねてさ」

既にオフィスに到着していた、木下からの誘い。あまりに予想外の展開に、樹里はしどろもどろになりながらも答える。

「…え、あ、はい!ぜひいきたいです」

「じゃあ、またタイミング見て声かけるわ」

頷きながら別のミーティングへと去っていく木下の後ろ姿を見ながら、樹里は願ってもない展開に顔が一気に赤くなるのを感じた。

ーえ…何この展開。もしかして、木下さんも私のこと…?



【今回の登場人物】
名前:木下 翔平
年齢:30歳
所属:営業部
家族構成:独身


木下は、嬉しそうに微笑む樹里を見ながら思った。

ー花山さん、俺にちょっと気があるかもな…。

そういえば、3月には2人で仕事帰りに飲みに行った。しかし特別な感情は特になく、「最近元気がなさそうな後輩」として気になっただけ。

社内とは言えど樹里の所属するマーケティング部との関係性は大事だし、なにより、樹里の上司である紗栄子はキーパーソンだ。重要なポイントはがっちりと掴んでおくに越したことはない。

「今日よかったら、ランチ行かない?午後のミーティング前の擦り合わせも兼ねてさ」

この誘いの真意は、こうだ。

“午後のミーティングは大切で上手く進めたいから、ランチがてら花山さんに事前にインプットしておこう。”

樹里は突然の誘いに浮かれ心地になっているかもしれない。木下にとっては、それも仕事のクオリティを担保する材料のひとつだ。

ー申し訳ないけど、女性の好意も利用させてもらう。…『下調べと下準備がすべて』だから。



木下がこの考えに至り術を身につけたきっかけ。

それは今から5年ほど前の食事会でのことだった。

幹事は、部署の遊び慣れた男の先輩。目の前に並ぶのは、会ったこともないような煌びやかなCAたち。

「乾杯!」

先輩たちは慣れた様子で女性陣に気を使いながら場を盛り上げ、二次会後にはちゃっかりお目当ての女性と消えていった。

そんな後ろ姿をひとり見送りながら、木下は思ったのだ。

—器用な先輩たち。俺は、何にもできなかった…。それどころか一人だけ、浮いてたよな…。


木下が感じた劣等感。それを克服するために活用した意外なモノ

食事会に慣れていなかった木下は、目の前に並ぶ美女たちと一体何を話したらいいかも分からず、先輩がふってくれたパスにすら気付けず、ただひたすら冷や汗をかきつづけたのだ。

「仕事に関しても女に関しても、お前は不器用すぎ。ちゃんと事前に準備して、相手が何を望んでいるのか、本番に何が起こりうるのか、全部想像しとけよ」

翌日、先輩から届いたメールには、そう書かれていた。

ー俺だって、器用な男になりたい。悔しすぎる…。

ひたすら男としての悔しさを味わった木下は、先輩からの言葉を受け取り、ある行動に出た。

完璧な段取りができる男になる。

その目標を達成するために…多数の女性と関わることにしたのだ。



様々なタイプの女性と知り合うために数種類のマッチングアプリをダウンロードし、そこから広がる人脈で、1対1のデートだけではなく数多の食事会をセッティングし、こなしてきた。

最新のお店を、いつでもアップデートしておく。

相手の女の子のキャラによって、集める男の層を熟慮し手配する。

話題は豊富に取り揃え、場の空気を先読みして話を上手く回す。

目当ての子がいれば、食事会の後を待たずして、会の最中にいやらしくない程度にアプローチをしておく。

ー『下調べと下準備がすべて』、だから。

こなした食事会の数は、100を超えた。

入念な準備をして女性に挑む場で、様々な人間を観察し続けた結果、手に入れたのはあるスキルだ。

相手が今、何を欲しがっているか?

木下には、それが分かる。

あれから約5年。営業先のお客様にも社内の上司にも、大抵気に入られる。次は、めきめきと頭角を現し始めている、紗栄子の懐に入り込むのだ…。



「木下さんって本当に頼りになります。性別問わず、誰でも口説き落とせちゃうって感じ」

樹里と2人でのランチタイム。

午後のミーティングの段取りを説明し、樹里にやってもらいたいことを柔らかく指示し終えると、樹里は目をキラキラさせながらそう言った。

「いや、そんなこと全くないよ。俺はただ、しっかり段取るだけ」

「ほぉー」と興味深そうに頷く樹里をみて、木下は一瞬、かつての自分を見たような気分になる。

ー花山さんも、紗栄子さんのもとで色々学ぶんだろうな。

ランチを終えデスクに戻ると、ピコン、と木下のスマホに通知が表示された。

ーやば…、通知解除しとかないと…。

ポップアップで表示されたのは、最近使っていたマッチングアプリの通知だった。

樹里の目を避けてこっそりチェックすると、女性の側からの”いいね”が届いている。

あとでゆっくり確認しよう。そう思ってアプリを閉じようとした、その時。

木下の指先が止まった。

”いいね”を送ってくれた女性の写真に、見覚えがある。

ーえ…これって、あの、三宮さん…?

心臓が激しく音をたてるのが、自分でも分かる。

木下は慌ただしく樹里に別れを告げると、“三宮さん”から届いた一通のメッセージを、そっと開いた。


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美人で有名な、麻布在住のDINKS 34歳、三宮。彼女の意外な素顔とは?


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