2020年。今までの「当たり前」が、そうではなくなった。前触れもなく訪れた、これまでとは違う新しい生活様式。

仕事する場所が自宅になったり、パートナーとの関係が変わったり…。変わったものは、人それぞれだろう。

そして世の中が変化した結果―。現在東京には、時間が余って暇になってしまった女…通称“ヒマジョ”たちが溢れているという。

さて、今週登場するのはどんなヒマジョ…?

▶前回:「なんか安っぽいよ」と男から言われた女。複数の男と楽しむ、26歳の美女に訪れた悲劇



『ひかり:久しぶりに友達とランチしたよ!隆史は何してる?』

写真付きで彼氏に送ったLINEを見返し、私はため息をついた。5時間経った今も、既読すらつかないのだ。

ーもう。疑問形でおわってるんだから、返事くらいしてよ...

彼氏の隆史とは付き合って1年半。27歳の私の3個上で、丸の内にある総合商社に勤務している。

隆史の平日は、仕事も忙しく会食も多い。だけど今日は土曜日で休日だ。

私たちの関係はときめき期間を早々と終え、いてもいなくても変わらない空気のような存在になっていた。

自粛期間中にどちらかの家に泊まることはあっても、同棲の話になることはなかった。

『隆史:ごめん!今気づいた。』

ようやく連絡が来たのは、21時を過ぎた頃。

『ひかり:肌寒くなってきたし、温泉でも行こうかな〜』

"俺も行きたい"
"一緒に行こうよ"

そんな言葉を期待して、遠回しの誘いを投下する。でも、希望は呆気なく打ち砕かれた。

『隆史:d(^_^o)』

言葉もなく適当な顔文字の返信に、力が抜けていく。

ー私って、彼女なんだよね?

そう入力して、また1文字ずつ消した。こんなの送れるわけない。


毎月来るはずのアレが来ない!?年上の友達に相談するひかりだが…

ー...あれ?

生理が来ていないことに気づいたのは、翌日、本気で温泉宿を予約しようとカレンダーを見たときだった。



「そのメッセージ、私なら送ってたなぁ。本音ぶつけちゃえばいいのに」

カプチーノの泡を上唇につけながら、年上の友達・絵麻が言った。

夕方のカフェで、女ふたりの恋愛話。だけどいつからこの手の話題に心が踊らなくなってしまったのだろう。

「いやいや、さすがにメンヘラすぎますって」

「え。そのくらい余裕で可愛いと思うけどなぁ」

絵麻は笑顔で、ミニスカートから出る細い脚を組み替えた。そのポジティブさが今は何よりも救いだった。

絵麻がカップを置いたタイミングで、私は声のボリュームを落とし、思い切って打ち明ける。

「絵麻さん、私...妊娠したかもしれないです」

「えー!?おめでとう!隆史くんには言ったの?早く言いなよ。喜ぶよ、絶対!」

ー喜ぶ...?

確かに、他人がそう思うのは自然なことだ。

私たちは結婚適齢期の大人で、恋人同士で、1年以上付き合っている。

でも、なぜだろう。

隆史の喜ぶ姿が全く想像できなかった。

その理由を考えようとすると、胸がズンと重くなる。

その時、ひとりの男性が私たちのテーブルへ笑顔で向かってくるのが見えた。

「すみません、遅れました!はい、これ。秋田土産の新政のラピスとエクリュ。重かった〜」

「ありがとう!やっぱりNo.6は手に入らなかったかぁ...」

私がいきなりの展開に途惑う中、ふたりは会話を弾ませている。

「え?瑛人くん!?」

瑛人は、私が絵麻と出会った日本酒セミナーのイベントで、同じく仲良くなった同い年の男の子だ。

絵麻は私といる時、了承も得ずに勝手に人を呼ぶところがある。今日もそのパターンなのだろうと、しばらくしてから理解した。

「私このあと、ダーリンとお鮨デートだからさ、瑛人、あとよろしく!あ...ひかりんは、お酒飲めないよね?両方もらっていこうっと」

新政のボトルを2本紙袋に入れて、絵麻は颯爽と帰っていった。

「ん?飲めないって、どういうこと?」

瑛人が絵麻を見送ったあと、不思議そうな目で私を見つめる。

「ううん。なんでもないの!ゴハン行くなら、彼氏にLINEしとく。瑛人くんなら良いって言うと思うから」

私はスマホを取り出し、隆史に連絡を入れた。

『隆史:了解』

珍しくすぐに返信が来たものの、絵文字すらなく、その一言だけ。

ーもう、嫉妬もしないのね...

お肉が食べたい私のリクエストで、『青一』へ向かった。彼氏以外の人とふたりで食事するのは、いつぶりだろう。



「ほんとにウーロン茶でいいの?焼肉にはビールでしょ」

瑛人は、どうしてもそこが気になるようだ。

「うん...実はさ」


ついに彼氏に打ち明けるが、待っていたのは衝撃な言葉だった…

男性である瑛人に、妊娠の可能性があるなんて言うつもりはなかった。

なのに、どうして人は弱っている時、あらゆることが制御できず溢れ出してしまうのだろう。

気づいた時には、彼氏との今の微妙な関係も含め、瑛人に全て話していた。

瑛人は、私から目をそらすことなく真剣に聞いている。それだけで不安な気持ちが和らいでいくのを確かに感じた。

「そうか...でも、まだ検査もしてないんだよね?もしあれなら、俺が薬局で買ってこようか」

「いや...」

「そのあと、一人で病院行くのも怖かったら入り口までついて行くよ」

「ありがとう...ごめん」

我慢していた涙が、ポロポロと落ちていく。

彼氏にもっと素直になれたら、どんなに楽なのだろう。

一番好きなはずの人に、言いたいことも言えない自分に苛立っていた。

「とりあえず、彼氏に早く言ったほうがいいんじゃない?ここで待っててあげるから、電話しておいでよ」

店を出た後、瑛人に促され、私は少し離れた場所で隆史に電話をかけた。

ー出ない。

しかし、もうこんなことで怯む私ではなかった。何度も何度も、しつこいくらいに着信を残す。

普段はしない行動が気になったのか、ようやく隆史が折り返してきた。

「どうしたの?なんかあった?」

電話の向こうは雑音がせず、静かだ。家にいるのなら、どうして彼女に会いたいと思わないのだろう。

「あのね、私、妊娠したみたい」

私は不満をぶつける代わりに、オブラートに包まず事実を打ち明けた。

「え...?うそだろ...」

「うん」

本当は、確信などなかった。

まだ検査していないし、生理が遅れているだけかもしれないし、むしろその可能性が高い。

でも今は、隆史の反応だけが知りたかった。

驚いてもいいから、喜んでほしい。結婚しようって言ってほしい。

私は、隆史からの言葉を待つ間、心臓の音が聞こえるほど緊張していた。

しかし、隆史は信じられない言葉を口にしたのだ。

「マジか...てか、本当に俺の子?」



その一言で、私の世界は一瞬で色を無くした。

怒りや悲しみより先に、強い倦怠感が体を支配する。

私は会話を続けることができず、一方的に電話を切ると、灰色の街の中で動けなくなった。

そこからどうやって帰ったのか、よく思い出せない。

覚えているのは、しゃがみこんだ私に瑛人が駆け寄ってきて、背中をさすってくれたことだけ。

気力を振り絞りシャワーを浴びてベッドに横たわるが、目を閉じても頭の中で嫌な感情が暴れ続け、全然寝つけなかった。

暗闇で光る、スマホの画面に1文字ずつ言葉をのせていく。

『ひかり:別れよう』

これは、私の優しさだった。興味が薄れていった彼女に別れを告げることができない、不誠実な男への最大の優しさ。

次に気がついた時は、外が明るくなっていた。

バスルームへ向かうと、やはり妊娠ではなく遅れていただけだと分かり、自分の肩をぎゅっと抱きしめた。

もしも妊娠していたら一人で産み育てようと覚悟もしていたつもりだったが、実際は何も具体的に想像できておらず、死ぬほどホッとした。

隆史からは一度着信があっただけで、特にメッセージもない。

結局彼を面倒なことから逃げてしまう男にしたのは、私だったのかもしれない。

『瑛人:おはよう』

瑛人からのメッセージに胸が熱くなる。

「大丈夫?」でも、「頑張って」でもなく、その一言にとても安心した。

もし今度誰かに恋をするならば、朝起きた時まっさきに私を思い出してくれて、おはようって言ってくれる人がいい。そう強く思った。

もう自分の気持ちに蓋はしない。

窓の外には、台風の後のすっきりと晴れた空が広がっていた。


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メンヘラ女子代表・絵麻が暴走する…


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