「一人のひとと、生涯添い遂げたい」。結婚した男女であれば、皆がそう願うはずだ。

しかし現実とは残酷なもので、離婚する夫婦は世の中にごまんといる。だが人生でどんな経験をしたとしても、それを傷とするのかバネとするのかは、その人次第。

たかが離婚、されど離婚。

結婚という現実を熟知した男女が、傷を抱えながら幸せを探していくラブ・ストーリー。

◆これまでのあらすじ

大友将人は妻と別居中。しかし彼の妻・真由子は監視魔だった。

尾形友梨の仕事中、突然現れた真由子は、将人と友梨が不倫関係にあると誤解していて…。

▶前回:妻の行動を、24時間スマホで監視していたら…。夫が激しく動揺した、彼女の居場所とは



―えっ…。今、私ビンタされたの…?

友梨は、頬にそっと手を当てた。ジンジンと脈を打つ頬の熱は、次第に痛みへと変わり、その痛みに突き動かされるように頭はフル回転する。

将人とは確かに2度食事をしたが、むしろ妻ときちんと向き合うよう勧めたのは友梨なのだ。誓ってやましいことなどしていないし、将人に恋愛感情を持ったこともない。

―どうして叩かれなくちゃいけないの…?

将人の妻・真由子の口ぶりから察するに、将人と友梨が不倫中だと誤解しているらしい。

―奥さんと話し合うって言ってたけど、どんな話し合いをしたらこんな状況になるのよ!

心の中で悪態をついたが、努めて落ち着いて語りかける。

「真由子先輩の勘違いです。私は大友くんと不倫なんてしてません。同窓会で再会して、少し話しただけです」

真由子は鼻で笑い、髪をかきあげた。この雰囲気に似つかわしくない、美しい髪だった。

「私があなたの言うことなんて信じると思う?こっちは、自分の旦那をたぶらかされたのよ?」

「でも…」

「でも、じゃない」

友梨は必死に言い募るが、真由子は聞く耳を持たない。冷たい目で笑いながら、静かに言い放つ。

「私は、あなたたちの秘密を知っているの」

絵画のように美しいが、ぞっとするような笑みだった。


「私は秘密を知っている」と言い張る妻。真由子が掴んだ秘密とは…?

―ほら、やっぱりそうじゃない。

真由子は、確信を持った。

「あなたたちの秘密を知っている」と言った瞬間、友梨の表情は驚愕から混乱へ変わっていった。虫唾が走る。同窓会で再会したというのもどうせ嘘だろう。

―何よ、自分が被害者みたいな顔をして。あなたはいつもそう。高校生の時から変わらないのね。

十代の記憶が蘇る。あれは高校3年生の夏、日差しが強い日だった。

2年生の教室の前を通りかかった真由子は、室内で泣いている友梨と、それを慰めている将人を目撃したのだ。

二人の前にはキャンバスがある。それはほんの数十分前、友梨が真由子に見せにきた絵だ。

「辛口でも良いので、意見が聞きたいんです」

そう言った友梨の言葉を真摯に受け止め、真由子は厳しいアドバイスをした。

一生懸命な友梨の想いに応えようとしてのことだ。しかしまさか泣かれるなんて、そしてそれを将人が慰めることになるなんて、想像もしなかった。

当時、真由子と将人は付き合っていたが、それを周りに隠していた。だから友梨が何も知らないのは仕方がないことだが、気になったのは将人の表情だ。

“心配”や“慰め”。そのような言葉だけでは表現できない顔をしている。ついには友梨の頭をぽんぽんと撫で始めた将人の表情には、“恋”や“愛”といった感情が含まれている気がした。

苛立ちの矛先は、悲劇のヒロインぶっている友梨に向けられた。

―あの女、私から将人を奪おうとしている?

今までは考えもしなかったが、そう確信した。あの女は敵だ。自分たちの幸せを邪魔する悪者だ。

以来、真由子は友梨を避け、必要以上に関わることをしなかった。

もちろんあらゆる手を使って、将人が友梨に近づかないように仕向けていた。

スマホに標準装備されているアプリで位置情報を共有できることを知った5年前から、将人を監視していたのも、その一環だ。

―あくまで監視するだけ。

最初はそう自分に言い聞かせていた。位置情報を知るだけで、尾行なんて絶対にしない。そんなことは自己肯定感の低い女がやることだ。

しかし1年前、一度は結婚して自分のモノになったはずの将人から「別居したい」と言われ、考えが変わった。

―絶対に友梨のせいだ。絶対に。

真由子は時間の許すかぎり、将人を尾行した。幸いにも、ご時世柄マスクで顔を隠すことができる。バレることはなかった。

―将人はいつ友梨と密会するのか?絶対に現場をカメラに収めてやる。

そしてついに、その瞬間の撮影に成功した。

監視を始めて5年、尾行もするようになって1年、ようやく決定的証拠を手に入れた。

―将人と友梨が二人きりで食事をしている。不倫だ。

証拠を得たからと言って、それを武器にすぐに戦場を向かうことはしない。そんなことをするのは愚か者だけだと真由子は知っている。まずは静観を決め込んだ。

すると、ちょうどその頃将人から連絡があり、1年ぶりに食事することになったのだ。

1年ぶりに再会した将人は、懐かしそうに、そして嬉しそうに自分のことを見てくれた。こちらがずっと将人を監視し、尾行し、見つめていたことに気づいていない。そんなところが可愛かった。

さらに彼は、二人の今後について「前向きに考えたい」と言ってくれた。それはつまり「もう一度、やり直したい」という意味だ。

―勝った。あの女に勝った。

夫から別居したいと言われた時は、暴れたくなるような気持ちになったが、真由子は本音をグッと堪えて「将人の思うとおりにしたらいいよ」と優しさで包み込んだ。

あの時の判断が正しかった。神様はちゃんと見てくれているのだ。



「私たちの秘密って、何ですか?」

白々しく友梨が尋ねてくる。

真由子はスマホで、将人を尾行して撮影した画像を、見せる。

「ほら見なさい。あなたたち二人は、レストランでデートしてるでしょ?」

「デートって…」

どういうわけか友梨はそこで一度、笑った。

「これは、ただ二人で話しただけです。なんなら私は、この時、大友君の背中を押したんですよ?真由子先輩とやり直したほうがいいって」

「くだらない言い訳ね。可哀そうな女」

その瞬間、笑っていた友梨の表情が固まった。

真由子は快感さえ覚えた。どうやらこちらの言葉が刺さったらしい。もっと刺してやりたい。

だから、あの高3の夏から15年、ずっと抱いていた想いをぶつけてやった。

「あんたみたいな女は――」


真由子が放った言葉に、友梨は絶望する…。

友梨は頭がクラクラした。殴られた時よりも大きな衝撃が走った。

「あなたみたいな女は…。“1番の女”にはなれない。死ぬまで“誰かの2番”よ」

真由子の言葉には何の根拠もない。少し前の友梨なら笑い飛ばしたことだろう。

しかし、今の友梨には突き刺さった。一分の疑いもなく真由子の言葉を受け入れてしまうほどに、消耗していたからだ。

この人なら、と思って結婚した相手と離婚した。今度こそはと言い聞かせ、もう一度恋をしてみた。再婚の約束だってした。

…なのに、その彼は浮気三昧の最低男だった。

―私を1番に選んでくれる人は、世界中、いや、もう人類の歴史上、どこにもいないのでは…。

意識したくなかった絶望を、真由子の言葉が浮き彫りにさせたのだ。

「私と将人はやり直すことになったの」

真由子は勝ち誇ったように告げる。

「そうですか」

友梨はそう答えたが、かすれた声しか出なかった。真由子はニッコリと笑う。

「だからもう金輪際、将人に関わらないでね」

「ええ…」

喉から絞り出される声はほとんど声にならず、地面に吸い込まれていく。

その返事に満足げな顔をした真由子は、美しい髪をなびかせて去っていった。

友梨はしばらくその場に立ち尽くしていた。涙を落とすのを耐えることで精一杯だ。

満身創痍で職場に戻った友梨は、なんとか顔には出さず、仕事をこなす。

そして重たい身体を引きずるようにして自宅に戻り、ベッドに倒れこんだ。

やっと涙が溢れ出す。

すぐに子供のように声を上げて泣いた。



泣き疲れて眠った友梨が目を覚ますと、正午に近い時間だった。

時計を見て慌てて起き上がったが、今日が休みだったことを思い出し、またベッドに戻る。

うつ伏せで枕を抱えながらスマホをチェックする。すると、上司からのLINEが入っていた。昨日職場に、尋常でない様子の真由子が押し掛けたことを心配していたようだ。

真由子の誤解による不倫の糾弾だったと説明することも面倒で、「知り合いが急病になったことを知らせてくれて」などと、ごまかしの返信で済ませる。

ふと、まだ未読のLINEがあることに気づいた。将人からだった。

『尾形さん、うちの妻が迷惑をかけて申し訳ありません。お詫びになるかわからないけど、食事を奢らせてもらえませんか』

メッセージを読み終えた瞬間、頭が沸騰した。一体どのツラを下げてこんなメッセージを送ってくるのか。

ーまた真由子先輩の神経を逆撫でするだけじゃない…!そもそも誰のせいでこうなったと思ってるの!?

言いたいことはたくさんあったが、「もう関わりたくない」という気持ちが何よりも強かったので、既読だけつけて返信はしなかった。



それから一週間後。

友梨は気晴らしのために森美術館に足を運んでいた。

心がすり減ったときに絵画を見れば、その美しさ、精巧さに集中できて何も考えなくて済む。友梨は美術館が好きだった。

生き返りたい。それだけだった。

しかし、そんな儚い願いすら叶うことはなかった。

信じられないことが起きた。六本木ヒルズのエスカレーターで、真由子の姿を見つけたのだ。

混乱し、次は何を言われるのだろう、と足がすくんだ。しかし真由子は、友梨に気づいていないようで、一緒にいる男性と腕を絡ませている。

だから混乱に拍車がかかった。

真由子が恋人のように身を寄せ合う男性は、夫の将人ではない、見知らぬ男性だったから。


▶前回:妻の行動を、24時間スマホで監視していたら…。夫が激しく動揺した、彼女の居場所とは

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真由子の不倫現場?なぜかそこに将人も現れて…!?


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