―もしあなたが、 ”善人の顔をした悪魔”と仲良くなってしまったら…?

世の中には、こんな人間がいる。

一見いい人だが、じわじわと他人を攻撃し、平気で嘘もつく。そうして気がついた時には、心をパクッと食べられている…

そう、まるで赤ずきんちゃんに出てくるオオカミのように、笑顔の裏には激しい攻撃性を隠しているのだ。

◆これまでのあらすじ

ユリアを昔から知る男から、“彼女と仲良くなった子達は消えていく”と聞いた結衣。徐々にユリアの本性に気がつき始めたが…

▶前回:「彼からの押しが凄くて…」同じ男を狙っていた女友達から聞かされた、衝撃的な話とは



「結衣ちゃん、そのワンピースどこの?すっごく可愛いね。結衣ちゃんってスタイルがいいから、そういう胸が大きく見えてウエストがくびれているワンピースが凄く似合う!私は胸がないから似合わなくて…」

天使のような微笑みを浮かべ、そう語りかけてくるユリアを、私はぼんやりと見つめていた。

幸太の一言が、頭から離れないのだ。

—ユリアと仲良くなった子は、消えていった…

けれども今目の前に座る彼女はどう見てもいい子だし、むしろオーバー過ぎるくらいに私を褒めてくれている。

本当は会うのを止めようかとも思っていたが、今日は前から約束をしていた食事の日だった。

予約困難店の席を私の友人が2席分招待してくれ、1ヶ月ほど前に私がユリアを誘ったのだ。

—ユリアは何かが変なんだけど…なんだろう…。でもこうやって面と向かって話しているといい子だしなぁ…

上手く言葉が見つからない。違和感があるものの、私はその違和感の正体が見つけられずにいた。


ユリアはいい子なのか?それとも仮面を被っているだけなのか…?

毒リンゴ姫


「結衣ちゃん、今日は声をかけてくれてありがとう。すっごく楽しみにしていて。『ヒロミヤ』に一度は行ってみたかったから、本当に嬉しい!」

店前で、テンション高くずっと話し続けているユリア。こんなにも喜んでもらえたら私も嬉しいし、私自身も今日このお店に行けるのをとても楽しみにしていた。

「私というより、予約が取れていた高田さんに感謝だね!高田さんってグルメだから、仲良くなったら色々とお店紹介してくれるかも。ただお酒も好きだから、今日も2軒目に誘われるかもだけど...」
「もちろん付き合うよ!2軒目に行くつもりで来ているし」
「さすがユリア!」

私たちは二人で扉を開け、店内へと入った。

今回声をかけてくれた高田さんはグルメで有名な経営者で、以前別の食事会で知り合って以来、何かと誘ってくれる。

本日は予約が約2年待ちと話題の『ヒロミヤ』の席が確保できたということで、私とユリア、そして高田さんとその友人の4名で焼肉だった。

「こちら、ユリアちゃんです」
「どうも、高田です。こちら、僕の友人の智也くん」

軽く紹介を終え、私たちは次々と運ばれてくるお肉に目を輝かせる。



「あ〜幸せ!なんて美味しいんでしょう!!」

予約困難店というだけあってかなり期待値が上がっていたが、期待を裏切らない絶品のお肉に、さっきから箸が止まらない。そんな私を見て、男性陣二人が笑っている。

「はは。結衣ちゃんって細いのに本当に良い食べっぷりだよね」
「結衣ちゃん、めちゃくちゃスタイル良くない?」
「いえいえ、全くですよ〜」

そう謙遜しても、男性陣二人は構わず続ける。

「結衣ちゃんってさ、こんな綺麗なのに性格も良くて。しかも仕事も頑張っているし、凄いよね」
「そうなんだねぇ。今彼氏とかいるの?絶対モテるでしょ?」
「いや、それが全然…この前彼氏に振られましたし(笑)」

自虐ネタで盛り上がっている間にもお肉はどんどん運ばれてきて、みんなで美味しく食事を楽しんでいた。

…と、思っていた。

「あ〜お腹いっぱい。どうする?もう1軒行こうよ?」

お腹一杯になり満足していると、やはり高田さんは2軒目に誘ってきた。

「もちろんです!ユリアも…」
「ごめんなさい。明日朝が早いので、私は帰りますね」
「え…!?」

—あれ?さっきまで行けるって言っていた気が…??

無理強いはしないし、もちろん帰ってOKなのだが、ユリアがこの食事中に何か気分を害し、態度を変えたのは明白だった。

「そっかそっか。無理はしないでね」

大人な高田さんは笑顔で頷いているが、私は小さな声でユリアに話しかけた。

「ユリア、何かあった?ごめんね、つまらなかったかな?」
「ううん。美味しかったし呼んでくれてありがとう。でも今日はもう帰るね」

明らかに、何かに対して怒っている。

—まさかとは思うけど…。自分が話の中心にいなかったから怒った?

モヤモヤしたまま、結局その場で彼女と別れたのだった。


少しずつ見えてきた、ユリアの本性。そして“あの”嘘も暴かれる…

それから一週間後。ユリアからまた、LINEが送られてきた。

—ユリア:結衣ちゃん、来週金曜空いている?ご飯行かない?

「ん…?前回の怒りは結局何だったの?」

すっかり機嫌が良くなったのか、いつも通りに戻っている。段々と、ユリアの本当の顔がどれなのか分からなくなってきた。

前だったら彼女からの誘いには喜んで行っていたが、正直怖くなってきた自分がいる。しかしまだ完全にクロでもない。なぜなら、普段のユリアはいい子だからだ。

「とりあえず、一回くらいは断ってもいいよね…」

そう思い、私は“金曜は忙しい”という旨のLINEを送った。

—ユリア:残念〜仕方ないね!また誘うね♡婚活仲間同士、頑張ろうね〜!!

ユリアからの返信を、私はしばらく見つめる。やはりこの文面だけ見ると、至って普通である。

けれども実はこの時すでに、ユリアの呪縛は始まっていたのだった。



「あれ?結衣ちゃん?」

それは、ある日の帰り道のこと。一杯飲みたくなった私は、東京ミッドタウンの方へふらふらと向かっていた。

すると、目の前から見慣れた顔が近づいてくる。

「け、健人さん…」

私が以前、心を奪われかけた健人だ。

しかし私にかなりの頻度で連絡をくれていたのに、結局ユリアのことをしつこく誘っていたと彼女から聞かされ、潔く諦めることにしたのだ。

「結衣ちゃん久しぶりだね。連絡が急にこなくなったから気になっていたんだよ」

その言葉にムッとして、本音が漏れた。

「いやいや、友達がデートしている人と裏で連絡を取り合っているのはあまり好きではないので…」
「え?何のこと?」

健人のとぼけた表情に、思わず小さなため息が出てしまった。

「ユリアから聞きましたよ」
「ユリアちゃん…って、誰だっけ?」
「は???」

悪い冗談を言っているのかと思った。だが目の前にいる彼は、私が見る限り嘘はついておらず、本当に覚えていないようだ。

「え?一緒に食事会にいた…」
「あぁ〜あの子ね!黒髪ロングの。名前忘れちゃった(笑)」

悪戯っ子の少年のように健人は頭をかいているが、口説いていた女性の名前を忘れるほど、彼は馬鹿なのだろうか?

いや、そうじゃない。

「健人さん…変なことを聞きますが…本当にユリアの名前覚えていないんですか?だって…」
「うん。ごめん、覚えてなくて。あれから連絡も取ってないし」


—健人さんが“どうしてもユリアちゃんに会いたい”ってプッシュがしつこくてさ…結衣ちゃんが狙っていることも知っていたんだけど。ごめんね。


ユリアが先日、私に言い放った言葉が頭の中でリフレインする。

震える手と脚を抑えながら、笑顔で健人の前を立ち去るのが精一杯だった。


▶前回:「彼からの押しが凄くて…」同じ男を狙っていた女友達から聞かされた、衝撃的な話とは

▶NEXT:11月6日 金曜更新予定
果たしてどちらが言っていることが本当…?