愛しすぎるが故に、相手の全てを独占したい。

最初はほんの少しのつもりだったのに、気付いた頃には過剰になっていく“束縛”。

―行動も、人間関係の自由もすべて奪い、心をも縛りつけてしまいたい。

そんな男に翻弄され、深い闇へと堕ちていった女は…?

◆これまでのあらすじ

仕事を辞め、亮以外の全てに興味を失ってしまった詩乃。そのヤバさは日に日にエスカレートしていく。痺れを切らした亮は、ついに別れを告げるが…。

▶前回:「私のすべてを知ってほしいから…」心が離れつつある彼氏に、女がした大胆な提案



「さっきの子、大丈夫?なんかゾンビみたいにやつれてる感じしたけど」

レストランの席に案内され、ドリンクをオーダーしてすぐに、アリサが興味津々といった顔で尋ねてきた。

「ああ、うん」

明らかに不機嫌な様子で答えるが、アリサは全く気にしていないようだ。自分の素っ気ない態度も、彼女にとっては慣れっこらしい。

アリサは、たくさんいる“女友達”のひとり。詩乃と渋谷でばったり会ったときのエミも、詩乃の代わりに呼びだしたユリも、みんなそうだ。

若くして起業し、成功した自分の周りには常に女がいる。それも、モデルクラスの美女ばかり。だけど周りに集まってくる女たちは、亮の収入に目がくらんでアプローチしてくることも多い。

そんな金目当てで近づいてくる女たちに飽き飽きしていた頃、食事会で詩乃と出会ったのだ。



詩乃と出会った食事会に、参加したあの日。

―なんだこれ、大ハズレじゃん。

会場に現れた女性陣を一目見た時、心の中ではそんなことを思っていた。

―まあでも、この中なら。

亮は食事会が始まってすぐに、詩乃に目をつけたのだ。


亮が詩乃を選んだ、本当の理由とは…?

―詩乃だったら、うまくコントロールできそうかも。

特別可愛いわけでもなく、男慣れしているようには見えない詩乃。そんな詩乃なら、自分の思い通りに付き合うことができそうだと踏んだのだ。

それに、自己紹介のときにさりげなく「会社を経営している」と言っても、他の女たちのように目の色を変えたりしなかった。

亮にとってはそれが、すごく嬉しかったのだ。

だから二次会を抜け出して家に招き入れたタイミングで「会社を経営しているんですよね?」と聞かれたときは「やっぱり詩乃も、他の女と一緒なのか」と思い、冷たい態度をとってしまった。

でも詩乃はそれ以上突っ込んで聞いてこなかったし、同年代よりも遥かに立派なマンションに住んでいることで、自分のことを特別に見ている感じもない。

だから、詩乃を“オトす”と決めたのだ。

ただ、そんな亮にも、ひとつだけ心配なことがあった。





あれは、まだ亮が大学を卒業し、起業したばかりだった頃のこと。

とあるパーティーに招かれた亮が会場に向かうと、そこにはテレビでも見たことのあるようなタレントや女優が大勢いた。

場慣れしていない亮が、オドオドしながら会場の隅っこでシャンパンを飲んでいると、そこにひとりの綺麗な女性が話しかけてきたのだ。

「はじめまして。雑誌『LADY』でモデルをやっている美和です。亮さんよろしくね。よかったら、このあとどう?遠くから見てて、素敵だなって思ってたのよ」

これまで“一般男性”として生きてきた亮。こんな華やかな世界の“大人の関係”なんて常識は知るはずもなく、気が付けば美和を追いかける日々だった。

けれど、美和と音信不通になってしまった頃。ちょうど同じタイミングで、また別の女が現れた。

―ああ、そういうことか。

それ以来、本気の恋愛をするのはやめて、その代わりできるだけ多くの女と常に関係を持つことで、心の平穏を保ってきたのだった。



そんな過去の出来事を思い出しながら、亮は自宅に連れ込んだ詩乃の体を、ギュッと抱きしめていた。

「詩乃ちゃんのこと、俺だけのものにしたいなあ。他の男に渡したくない」

そして、詩乃の反応を確かめるように言ってみた。しかし詩乃は、何も言わずに黙り込んでいる。

―彼女はただ、迷っているだけ。もう少し押せばオチるな。

そんな確信があった亮は、さらに言葉を続ける。

「で、どうなの?俺だけのものになってくれるの?」

強い言葉で詩乃を縛り付けたのは、彼女が自分のことを裏切らないよう、そしてどこかに行ってしまわないようにしておきたかったからだ。

ずっと自分だけを追いかけてくれるように、詩乃を管理していたかった。…だから彼女に指輪を渡したのも、そのため。

しかし、予想以上の出来事が起きた。

詩乃の気持ちが自分へかたむきすぎて、ここまで依存されるとは思ってもみなかったのだ。


詩乃への気持ちが冷めてしまった亮は…

「亮クン、今日会えないの?」
「そろそろ遊ばない?」
「亮、ご飯連れてってよ〜」

詩乃と付き合いだしてしばらくは無視していた、女友達からのLINEにも返信をするようになった。そしてだんだんと、遊びに行き始めるようになる。

最終的には、詩乃とは定期的に会っていながらも「彼女とは別れた」と嘘までついていた。

詩乃と別れることを決めたのは、詩乃が仕事を辞めたと言いだした時だ。

気持ちは冷めているとはいえ、詩乃が自分に惚れ込んでいるという状況は心地よかったので、あいまいなことを言っていたら、詩乃は本当に仕事を辞めてしまった。

―それはさすがにやりすぎだし、ちょっと怖いだろ…。

連絡を返さずに自然消滅という方法も考えてみたが、最近の詩乃の態度を見ていると、そんなことで目の前から消えてくれそうにもない。

だから今日、アリサに頼んで“彼女のフリ”をしてもらうことにしたのだ。



「遊び慣れてない女と遊ぼうとするから、こんなことになるんじゃないの?」

アリサは勝手に注文したシャンパングラスを片手に、鼻で笑っている。多分、その失笑は詩乃にではなく、自分に向けられているのだろう。

「もう懲り懲りだよ」

亮も自嘲気味に笑いながら、アリサが持っているグラスに自分のグラスを合わせると、グイッと一口飲む。

そのとき突然、レストランの入り口の方から、ウエイターが慌てたように叫ぶ声が聞こえてきた。

「お客さま!?お待ちください、お客さま…!!!」

「なんだよ?」
「なになに?」

店内もザワザワとし始めた。亮は何事かと思い、レストランの入り口の方に目を向ける。

…するとそこには、ゼエゼエと息を切らした詩乃が立っていた。

そしてギロリと亮を睨みつけると、テーブルに向かってズンズンと歩いてきたのだった。


▶前回:「私のすべてを知ってほしいから…」心が離れつつある彼氏に、女がした大胆な提案

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まさに修羅場な亮と、詩乃の運命は……?