タイトなスカートに7cmヒール。

どんなに忙しい朝でも、毛先は緩くワンカール。

モテることだけに執着し、典型的な“量産型女子”を演じる円花(まどか)。

しかし年下の起業家男子に恋した彼女は、思わぬ人生の選択をすることに―。

◆これまでのあらすじ

丸の内“量産型OL”である円花は、専業主婦を夢見てお金持ちにターゲットを絞り、婚活中。紹介されたITベンチャー社長の篠崎をオトすと決めたが、彼には全く相手にもされなかった。

そこで円花は、自身を変えようとする。ひとりで迎えた28歳の誕生日にあることを決意して…?

▶前回:「私の人生、これで良かったんだっけ…」28歳の丸の内OLが、絶望の底に突き落とされた理由



「なかなか“未経験者歓迎”ってところは少ないなあ…」

引っ越してきたばかりの新居のリビングにパソコンを広げ、円花は転職サイトを眺めながらつぶやく。

―でも初めて転職にチャレンジするなら、年齢的にも今しかないよね。

先日1人で28歳の誕生日を迎えた時、円花は猛烈に自分の人生を後悔した。

今まで力を入れてきたことと言えば恋愛や美容ばかりで、仕事や勉強はいつも適当。

いつか専業主婦になるから、今は洋服を買ったり、美容院やジムに行けるくらいのお金を稼げていれば良いと思っていた。

そんな“人間としての浅さ”を篠崎に見抜かれたのではないかと、円花は気付いたのだ。

その時ふと、円花はページをスクロールする指を止める。

「ここの会社、良いかも」

円花の目に留まったのは、ニュースアプリを運営するIT企業の求人。職種はデジタル広告の営業だ。

“意欲のある方なら、未経験者も歓迎”と記載がある。しかも職場は六本木。

―広告関係の仕事ってキラキラしてるイメージだし、職場も職種も、篠崎さんの会社と近いな。

応募のキッカケは不純な動機かもしれないが、まずは一歩踏み出せただけでも良い。

そう自身に言い聞かせ、円花は“会社見学予約”のボタンをクリックしたのだった。


見学した会社で、円花が目にした光景

―すごい、眺めがいいなあ。

六本木一丁目駅からほど近い、とある高層ビル。そのビルの30階にある会議室で、円花は会社の説明を受けていた。

窓の向こうには、東京タワーとレインボーブリッジが見える。

事業の内容を大体理解したところで、円花が窓の外の景色に気を取られていると、案内役の社員がふと問いかけてきた。

「雨宮さんは、将来的にはどうなりたいんですか?仕事の業務内容とかではなく、ビジョンっていうか」

「そうですね、将来は…」

そう話し始めようとすると、円花は言葉に詰まった。

―私って将来、どうなりたいんだろう?

少し前までの自分なら「お金持ちと結婚して、専業主婦になりたい」という答えが、考えるまでもなく口から出ていたはずだ。

それなのに今の自分の脳内には、真っ先にその考えが浮かんでこなかった。

「将来は、自分の仕事で誰かの生活に少しでも影響を与えたりできて…そんな自分にも自信を持って生きられるようになりたいです」

とっさに本心から出てきたその言葉に、円花自身も少し驚く。

そのあと会社の説明と簡単な質疑応答を終えると、円花はオフィススペースを案内された。

「ここは、社員が働いているフロアです。どの部署も垣根なくコミュニケーションを取れるよう、壁をなくしています。といっても、最近はほとんどリモートワークなんですけどね」



確かに広大なフロアだが、ほとんど人はいない。だがその中には、円花と同年代だと思われる女性の姿も見えた。

彼女たちは、円花と違ってテキパキ仕事をこなしているように見える。そんな姿がまぶしかった。

―ここで働けば、自分に自信を持って生きられるかもしれない。

そんな思いから、円花は正式にその会社の採用試験を受けようと決めたのだ。

IT業界では中堅で、採用のハードルもそこそこ高い会社。

円花は「まあ落ちても仕方ないかな」と思っていたのだが、対策をしっかりしたおかげで、奇跡的に内定を得ることができたのだった。



『篠崎さん、お久しぶりです!実は私、転職することになりました。篠崎さんと近い業種で、IT企業です』

たったそれだけの文面を打つだけで円花は20分ほど悩み、やっとの思いで送信ボタンをタップした。

―これで返信こなかったら、もう諦めようかなあ。

そう覚悟を決めようとしていたが、その5分後には円花のスマホが震えた。

『それはおめでとうございます。この前は、失礼な感じで帰ってしまいすみませんでした。良かったらお話を聞きたいので、またご飯に行きませんか?』

「えっ、嘘でしょ!?篠崎さんの方から誘われるなんて…」

円花は信じられない思いで、そのメッセージに「ぜひ!」と返信したのだった。


久々に会った篠崎が、円花に向かって放った一言とは

―ちょっと地味だったかな…?

篠崎と待ち合わせた代官山の『IVY PLACE』に到着する直前、円花はショーウインドウに映る自分の姿をチェックしていた。

今日は甘すぎないグレーのニットワンピースを着て来たけれど、そこに映っていたのは、もう昔の自分とは違う気がする。

「よし!」と気合を入れてから店に入ると、すでに篠崎は席に着いていた。

「…あれ雨宮さん、ちょっと雰囲気変わりました?」

久々に会った篠崎にそう言われた瞬間、円花はほんの少し体が熱くなるのを感じる。

そして乾杯のドリンクを一口飲むと、篠崎は円花の転職先について、興味津々といった様子で尋ねてきた。

「雨宮さんは、転職先でどんな仕事を?」

「えっと…。ニュースアプリを作っている会社で、広告の営業をするんです。私、営業って初めてだから、今から緊張していて」

そう言うと、篠崎はおかしそうに笑った。

「雨宮さんって、面白い人ですよね」

―えっ、何で笑うの…?

円花が戸惑っていると、篠崎の口から衝撃の一言が飛び出したのだ。

「行動力がすごくあるのに、ハチャメチャっていうか…。この前六本木でご飯に行った時も、本当は僕の会社のビルの下まで来てましたよね?」

「えっ、見えてたんですか!?」

―待ち伏せみたいなことをしてたの、バレてたんだ…!

円花はまさに、穴があったら入りたいくらい恥ずかしくなった。

「はい。…あと、あの日は僕もすみませんでした。雨宮さんに失礼な態度を取って」

「あっ、いえ…」

あの時、円花は篠崎に「雨宮さんのことをこれ以上知りたいと思えない」と言われ、あっさり振られたのだった。

あれから半年が経った今、篠崎の目に円花はどう見えているのだろうか。

「人の生き方なんてそれぞれなのに、自分の考えを押し付けるようなことを言って、ホント反省してます。今日、それを謝りたくて」

「そんな…。気にしてないですから」

円花がそう言うと、2人の間に沈黙が流れる。

「でも同じ業界だったら、お仕事で関わることがあるかもしれないですね。…そういうことがあったら、よろしくお願いします」

円花がそう付け加えると、篠崎は再び目をキラキラさせて仕事の話をし始めた。

「そうですね。あ、そう言えば今、うちのアプリで新しい事業をローンチしてるんですけど…」

そう言って円花に向ける視線は、半年前のそれとは違っている。

―今の私、篠崎さんと対等に話せてるよね…?

円花はそのイキイキとした篠崎の表情に、再び心が惹かれていくのを感じていた。



食事を終えて店を出ると、2人はなりゆきで目黒川沿いを散歩することになった。

不意に、円花の視界にはイルミネーションの光が入ってくる。

「もう、そんな季節なんですね…」

隣を歩いている篠崎の横顔を見ていると、円花は胸が締め付けられるような気持ちになった。

「篠崎さん、ちょっと良いですか…?」

円花は、川沿いの光をぼうっと眺める篠崎の袖を掴む。

「えっ、どうしました…?」

篠崎は、円花の急な行動に少し驚いている様子だ。

「私、篠崎さんのことが好きです。私が自分を変えようって思ったのも、篠崎さんに出会えたからです。…もし良かったら、私と付き合ってもらえませんか?」

円花がそう気持ちを打ち明けると、篠崎は数秒沈黙したあと、ゆっくり口を開いたのだった。


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「えっ、もしかして私のコト…」円花の恋に、新たな展開が訪れる…!