ー10年前ー


バイト先によく来ていた源太から連絡先を渡され、そこから私たちは外でも会うようになっていた。

「俺さ、結衣ちゃんにほぼ一目惚れで」
「そうなの?絶対嘘だよ…。源太さんの周囲には可愛い子なんていっぱいいるだろうし」
「本当本当。あのカフェは可愛い子が多いとは言うけど、ダントツで結衣ちゃんが一番可愛いよね」
「そんなことないと思うけど…」

20歳くらいの私には、仕事終わりに細身のスーツ姿で登場する源太が眩しく見えた。就職活動を始めるにあたり、ようやく外資系金融というものを理解したほど、私は無知だった。

クリスマスのイルミネーションが始まったばかりの丸の内は美しくて、私は目を輝かせながらずっと上を見ていた気がする。

「あ。でも結衣ちゃんのバイト先にいた黒髪の目力強い子いるじゃん?あの子、怖くない?」
「え…?」
「いや、何かクリスマスに会いたいですって言われたんだけど、正直面倒くさそうだなと思って…そしたら突然昨日、会社の下にいたんだよね。思わず逃げたけど」

反射的に、後ろを振り返った。


10年前から始まっていたユリアとの因縁?だが現在はもっと悪化していて…

ー現在ー


外は寒いはずなのに、寝汗をびっしょりかいて私は飛び起きた。時計を見ると、明け方の4時だ。

「何だ、夢か…」

いや、夢じゃない。

私の中で、何かが少しずつ見え始めていた。ユリアは源太のことが好きだったのだ。だがそれを知ったのは源太から教えてもらったからで、直接聞いたわけではなかった。

「もしかして、私が源太とデートしていたから…?」

そんなことでここまでヒートアップするだろうか。

私たちが当時アルバイト先の休憩時間で話していたことなんて、他愛もない洋服の話や、あとは就活のことだった。ユリアも広告代理店へ行きたいと言っており、意気投合したのだ。

—結衣ちゃんは有利だよね。私よりいい大学だし。慶應でしょ?私は名もなき大学だから。就職も私よりいいところに決まるのかな…。

ふとユリアに言われた言葉を思い出す。あの時の私は、一体どう答えたのだろうか。

「そういえば、ユリアは結局、どこの代理店に就職したのかな…」

人の会社なんて気にもしていなかったが、胸騒ぎがして、もう一度ユリアのFacebookページを覗いてみる。さすがに会社名は書かれていなかったが、ある写真で手が止まった。





「結衣ちゃん、聞いてる?」

目の前に座る健人の一言で、急に現実に引き戻される。今朝4時に目が覚めてしまったせいか、食事中にぼうっとしてしまっていた。

「え?あ、ごめん!何だっけ?」
「も〜結衣ちゃん、せっかくのデートなのに」

健人がまさかこんなことを言うと思っておらず、私はつい笑ってしまった。

ユリアから“結衣ちゃんには不倫中の婚約者がいる”とLINEを受け取った健人だが、こうして私たちは会っている。

—これって、健人は私を信じてくれたってことでいいんだよね…??

恐る恐る健人を見てみるが、いつも穏やかな彼は今日も優しい。けれどもデザートが運ばれてくると、健人の顔から笑みが消えたのだ。

「結衣ちゃんが悪くないのはわかっているし、こんなことは言いたくないんだけど…女同士の争いとかに巻き込まれるの、正直面倒でさ」

カチャン。静かな店内に、健人がフォークを置く音が鳴り響く。

「結衣ちゃんのことは好きだしいいなと思っているけど、こうも毎日変な噂を聞くと少しだけ萎えている自分もいる。ごめん。気にしなければいいんだけど、意外にショックで」

唖然としている私に対し、若干憐れんだ表情を浮かべながら健人は話し続ける。

「ユリアちゃんから誘いのLINEが何通か来ていたんだけど、返信をしていなくて。そしたらこの前、“会社の下にいます”って突然電話が来たんだよ。さすがに怖くなって下へ降りたら、とりあえず30分だけお茶をすることになって」

ここから先は、聞かなくても大体想像ができた。

こうして、私は健人との関係も破壊されたのだ。


結衣がFacebook上で見つけたものとは…?

帰宅した私は、冷静にスマホの画面を見つめていた。

私がFacebook上で見つけたのは、ユリアと共通の知人である美和という子だ。

彼女とはたまたま別の友人を介して知り合ったのだが、20代の半ばまでかなり派手な生活を送っており、この界隈で遊んでいる人達の間では有名人だった。

知り合いも、経営者や外銀男子ばかり。当時の私には彼女の生活や人脈が眩しすぎて、ついていけない気がしてしまい、いつのまにか疎遠になっていた。

だがそういえば最近はパタリと噂も聞かなくなり、美和という子なんて最初からいなかったかのようだ。

結婚したか何かの理由で、顔を出さなくなったのだと思っていた。だが彼女のFacebookに載っていた写真を見て、私は確信した。

彼女が派手な生活を送っていた5年ほど前まで投稿されていた、パーティーや旅行の写真。それらのほぼ全てに、美和の隣で微笑むユリアが写っていたのだ。

—もしかして、幸太さんが言っていた“消された”子の一人…?

真実が知りたくなって、私は美和にメッセージを送った。



「結衣ちゃん、久しぶりだね〜」

お店に先に着いていた美和が、ヒラヒラと笑顔で手を振ってくれる。

久しぶりに会った美和は相変わらず抜群に綺麗で、スカートから覗く美脚に思わず目がくらむ。肌も艶を放っていて本当に美しい。さっきから周囲の人も、美和をチラチラと見ている。



「美和ちゃん、ごめんね突然呼び出して。元気だった?」
「うん、おかげさまで〜」

昼下がりのテラス席には、木漏れ日が差し込んでおり、美和の美しい顔をさらにきらきらと輝かせている。

「突然だけど連絡くれて嬉しかったよ。ってもしかしてだけど…ユリアに何かされた?」
「え?」

どう切り出すべきか迷っていると、頭の良い彼女はすぐに察したようだった。

「この前ね、“ユリアと結衣ちゃんが一緒にいたけど大丈夫かな?”って幸太さんが心配していたよ(笑)」

老舗メーカーの御曹司・幸太。美和も繋がっていたのかと感心すると同時に、今も彼と連絡を取っていたことに少々驚く。

「美和、そこも繋がっていたの?」
「うん。表向きは面倒だから何も繋がっていないフリをしているけどね。裏では未だにみんな仲良しだよ。ただ前のように派手に遊んでいると、また面倒なことになるから…」

さっきまでの明るい表情が消え、美和の顔がみるみる曇っていく。

「結衣ちゃん、大丈夫?あの子さ、最初はすごく優しくていい子でしょ?」
「う、うん…」

そうなのだ。最初はとにかく優しくて、婚活を頑張ろうと背中も押してくれた。

「だけど最初は良くても、自分よりその子が目立ったり、モテたりすると許せなくなるみたい。常に自分が話の中心でいないと気が済まなくて、途端に機嫌が悪くなるしね」

これまでいろんな場所で見てきた彼女の姿が、次々と浮かんでは消えていく。

「自分が一番でいられないとわかると、周囲に平気で嘘をついて陥れにかかる。でもみんな、陥れられるまで気がつかないの。だって、一見いい子だから」

美和の言葉に、何も言えなかった。過去のユリアの行動が全て繋がっていく。

「気が付けば闇に落とされている、っていう感じかな。私もかなりそれで落ち込んだけど、今は一切関わらないって決めているよ。まぁ未だに私の悪口言っているみたいだけど…」

私が何より知りたかったのは、今後ユリアの呪縛からどうやったら逃げられるか。とにかくこれ以上は関わらず、反攻もしないほうが賢明なようだ。

2時間くらい美和と話し、私たちは解散した。だが店の前で一度別れた美和が、突然クルリと振り返り、この言葉だけを残していった。

「結衣ちゃん、帰ったら“カバードアグレッション”って言葉をググってみて。きっと全てが分かるはずだから」

—カバードアグレッション…

自分の周囲には、こんな人は存在しないと思っていた。どこかの他人の話だと思っていた。


だがこの言葉が、全てを物語っていたのだ。


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遂に結衣も反撃に出る!!