コロナ禍で、先行き不安な社会情勢。それは私たちの結婚観にも確かに影響を与えた。
孤独や不安感から「結婚したい!」という気持ちが増す女たちと、「もっと安定してからじゃないと...」と慎重になりがちな男たち。
明らかにこれまでとは様子が変わった、婚活市場。令和の東京におけるリアルな婚活事情を、ご覧あれ。
◆これまでのあらすじ
マッチングアプリで出会った田中との食事で、低評価・低価格の店を指定された挙句、遠回しにNGをもらってしまった日奈子。なかなか上手くいかない婚活に、光は差すのかー。
▶前回:平日夜20時45分に、男から初デートの誘い。呼び出された場所を見て、女が凍り付いた理由
彼氏と別れてから、本格的に始めた婚活。
前回の田中との食事で相手から一方的にNGをもらったことを、私は未だに引きずっていた。
ーどうして...?何がダメだったの?
プロフィール写真は盛り過ぎないように気をつけていたし、実際に会った時、田中は私を綺麗だと褒めてくれた。
初対面の人との会話を弾ませることだって、昔から得意な方だ。
"次も会いたい"と思われないことは、"あなたは魅力がない女性"だと言われている気分になる。
理由のわからないNG案件。これは...“婚活あるある”なのだろうか?
ちょっと前までは、私が男性を選ぶ方だった。
どんな仕事をしていて、何を考えて生きているか。野心はあるのか、女性には優しいか。
家庭環境や育ちに関してはあれこれ言うつもりはないが、やっぱり自分と似たような生活環境で暮らしてきた人とは、話が合う。
そして、この人に抱かれたいと思うか否か。
相手から得た情報をもとに、この人はアリ、ナシ…とジャッジしてきた。それが許される立場に、私はもういないのだろうか...
気分が浮かないままPCの電源を落とし、帰る支度をしていると、スマホが新着メッセージを受信した。
『美緒:今日、暇してない?報告したいことがありまして♡』
親友が日奈子にもたらしてくれた、奇跡のような男との出会いとは…
文末のハートマークで、なんの報告なのかは大方予想できた。
カジュアルに軽く飲もうと美緒から指定されたのは、銀座に最近できたというホテルのルーフトップバーだった。
最上階の17階でエレベーターを降り、ネオンが照らす回廊を抜けると、ポップな雰囲気のルーフトップエリアが現れた。
先にスパークリングを飲んでいた美緒に、声をかける。
「お待たせ」
「日奈子!待ってたよ〜」
美緒がくるっと振り返ると、ロングヘアからグリーンローズのいい香りがした。
「それから、おめでと!彼氏できたんでしょ」
「あ、やっぱりわかる?」
相手は、スマホゲーム会社を経営しているらしい。
「この前久しぶりに会って話したら、プログラミングもできるってのがわかって。今の時代に外注に頼らず、アイディアをそのまま形にできるのは強いなって思ってさ」
美緒が、優しくも強い眼差しで語る。
「そんなこと、今までは深く考えてもいなかったんだけどね...」
この子は、結婚願望などないと思っていた。だけど何を言わなくてもわかる。今は、結婚をしっかりと視野に入れていることが。
「向こうは、最初から美緒のこと気に入ってたんだよね?」
「うん、そうだと思うけど...どうして?」
私は美緒に、先日のことを相談するか悩んだ。低単価・低評価の店を指定された挙句、遠回しに興味がないことを伝えられた悲しい事実を。
彼氏を作ろうと思えば、すぐにできる美緒と自分を、どうしても比べてしまうのだ。
「…ううん。なんでもない。でも、いいなぁ〜!私も早くいい人と出会いたいよ」
しかしここは、友達のことを素直に羨ましがるのが正。そしてその選択は、間違っていなかった。
「前回の外銀君も微妙だったんだ?じゃあさ、今度彼の友達呼んでもらって、食事しようよ。独身のいい男いるって言ってたから」
「それは、ぜひお願いしたい...!」
つい大きい声が出てしまう。私は、バカみたいに自分に正直だ。
「私さ、もし結婚しても、こうやって日奈子と飲んでいたいな〜」
美緒がそう言って微笑んだ。
私たち女は、ライフステージが変わることで簡単に疎遠になる。女の友情が、ハムより薄っぺらいことの証明だ。
でも、美緒とはそうはなりたくない。その気持ちがお互いに同じだったことに、胸の奥が温かくなった。
少なくとも、私の変なプライドでこの友情を失ってしまうことは、一番避けたかった。だからわざと冗談めかして彼女をつつく。
「うん、私も。でもさ、結婚は私の方が先かもよ?」
私たちは寒さも忘れ、ルーフトップバーでケラケラと笑いながら何度も乾杯した。
美緒の彼氏が連れてきた、ハイスペック中国男子に心を奪われる日奈子…
そして、11月前半のある週末。
「どうも、はじめまして。シアです。漢字だと、仔猫の仔に、大空の空。中国人です。よろしくね」
美緒は口だけじゃなく、ちゃんと紹介の場をセッティングしてくれた。
さすがと言わざるを得ないお店のセレクトに、遅すぎることのない開始時間。
女性としてきちんとエスコートしてもらえる心地よさを、私は久しぶりに感じていた。
でも、そんなことよりハートに刺さったのは、美緒の彼氏が連れてきたシアという中国男子だ。
183cmの長身に、スーツの似合う鍛えられた身体。物腰の柔らかい話し方。それでいて、時折ピシャリと鋭く意見する清々しさ。
言いたかったことを代弁してくれるような気持ちの良い物言いに、私は心を奪われた。
しかし、いざそれが自分に向けられると、すぐに気の利いた回答が出来ない。
「二人とも、会社員なの?モデルかと思ったよ。ちょっと頑張れば、インスタグラマーにでもなれそうだよね。やったらいいのに」
ーえっと...
私がすぐに答えずにいると、美緒が口を開いた。
「私は、実家が農業してて、そっちのアカウントは力入れてますよ。まだフォロワーは少ないですが」
「へ〜、そうなんだ!いいね。日奈子さんは?」
「私は...非公開のアカウントで、投稿内容も一貫性はないんですよ。自己満足というか、情報収集的な使い方をしているので」
「うんうん。そういう使い方も全然アリ!でも、これから男女共に副業ガンガンやっていくのが当たり前になっていくと思うんだよね。Instagramは一例だけど、本業のほかに武器があると強いから」
「そうですよね、あはは」
要するに、普通の会社員の女性はつまらないし、対象外だということなのだろうか。
シアは、中国で飲食店を何十店舗も経営する傍ら、日本では、趣味であるアパレルの輸入の仕事をしているらしい。
大学生の頃から東京に住んでいるため、日本語は堪能。英語もペラペラだという。
ー相手にされるわけない...
私の中に芽生えたシアへの微かなトキメキは、泡のように消えていった。
「シアはそういうの詳しいもんな!ちなみにどんな女性がタイプだったりすんの?」
美緒の彼氏が空気を読み、話題を変えてくれた。
「タイプか...そうだな、素直で嘘がつけない子かな」
シアとばっちり目が合う。そして、次の言葉に私は耳を疑った。
「日奈子ちゃんみたいな」
「え!?」
驚いて目を見開く。
シアは、私なんかタイプではないと思っていた。彼の周りには綺麗な子がたくさんいることは、見ればわかる。それこそ、タレントやモデル、インスタグラマーたちが放っておかないだろう。
中身だって、意識が高い人が多そうだ。そう、例えば朝から走ったり、ヨガをしたりするような。
「私、ですか?」
「うん。なんでそんな顔するの。面白いからもっと見ちゃおうっと」
端正な顔に見つめられると、動けなくなる。
私もそれなりに恋愛経験はある。なのに、まるで男性を知らない少女のように頬を赤らめてしまった。
「いい展開じゃん〜。じゃあグループLINEで繋げるから、今度二人で飲み行って来いよ」
美緒の彼氏がアシストするが、シアはあえてかわした。
「いや。今、直接交換するほうが早いっしょ。日奈子ちゃん、いい?」
「はい!もちろんです」
こんなにかっこよくて、仕事のできる人に気に入られるなんて...やっぱり今までの婚活は、ただのハズレくじだったのだろう。
お酒も食事もさらに美味しく感じ、楽しい時間はあっという間に過ぎていった。
「そろそろ、出よっか。タクシー呼ぶわ」
シアがいつの間にか会計を済ませ、皆ほろ酔いで笑顔だ。
だからこそ、私は見逃せなかった。美緒だけが、ひとり浮かない顔をしていることを。
彼女が私の婚活を応援してくれているのは知っている。だって、こうして出会いを提供してくれているのだから。
でも、その表情から想像してしまうのは“つり合っていないよ”という心の声だった。
▶前回:平日夜20時45分に、男から初デートの誘い。呼び出された場所を見て、女が凍り付いた理由
▶Next:12月5日 土曜更新予定
シアとデートすることになった日奈子だが…
「私みたいな女が相手にされるなんて」普通の32歳OLが、超イケメンに一夜で見初められたワケ

関連記事
あわせて読む
-
サイゼ社長の「ふざけんな」は当然 時短要請と協力金が批判されまくるワケ
ITmedia ビジネスオンライン 1月20日(水) 6:30
-
「このルートでいいですか?」タクシーでなぜ聞かれるのか 「聞くのが基本」の会社も
乗りものニュース 1月20日(水) 6:20
-
独走トヨタ「アルファード」追う2台なぜ明暗? 同時期刷新のオデッセイとエルグランドの違いとは
くるまのニュース 1月20日(水) 7:10
-
【本日発売】売り切れる前に手に入れたい…!セブンで買える「桜お守りリップ」って?
anna(アンナ) 1月20日(水) 6:00
-
ジープ「グラディエーター」日本導入決定! 価格と装備を大胆予想
くるまのニュース 1月20日(水) 8:10
-
パワハラは減らないどころか増えている――加害者の典型的な言い訳と、決定的な「2つの見落とし」とは
ITmedia ビジネスオンライン 1月20日(水) 7:50
-
若い女に、10年付き合った男を取られた。ショックを引きずる女を待っていた、新たな展開
東京カレンダー 1月20日(水) 5:05
-
なぜ「かまぼこ」でトミカ再現? 10年以上も継続する異色コラボのワケ
くるまのニュース 1月20日(水) 9:10
-
超絶カッコイイのに日本で売っていない! 最新ピックアップトラック5選
くるまのニュース 1月20日(水) 6:10
-
結婚生活が破綻寸前の夫婦。妻に離婚を突きつけられた夫が、最後に賭けたもの
東京カレンダー 1月20日(水) 5:04
-
IQOSデバイス各種が価格改定 「もっと『身近な』IQOSへ」2021年戦略発表会
おたくま経済新聞 1月20日(水) 9:00
-
シャワーの水にはまったく動ぜずズブ濡れの猫、タオルに包まれ悲鳴を上げる
猫ジャーナル 1月20日(水) 9:00
-
「過去の過ちは、結婚前に精算しなきゃ」婚約中の女を追い詰める、最悪のメールとは
東京カレンダー 1月20日(水) 5:01
トレンド アクセスランキング
-
1
サイゼ社長の「ふざけんな」は当然 時短要請と協力金が批判されまくるワケ
ITmedia ビジネスオンライン2021年01月20日06時30分
-
2
「このルートでいいですか?」タクシーでなぜ聞かれるのか 「聞くのが基本」の会社も
乗りものニュース2021年01月20日06時20分
-
3
独走トヨタ「アルファード」追う2台なぜ明暗? 同時期刷新のオデッセイとエルグランドの違いとは
くるまのニュース2021年01月20日07時10分
-
4
【本日発売】売り切れる前に手に入れたい…!セブンで買える「桜お守りリップ」って?
anna(アンナ)2021年01月20日06時00分
-
5
ジープ「グラディエーター」日本導入決定! 価格と装備を大胆予想
くるまのニュース2021年01月20日08時10分
-
6
パワハラは減らないどころか増えている――加害者の典型的な言い訳と、決定的な「2つの見落とし」とは
ITmedia ビジネスオンライン2021年01月20日07時50分
-
7
若い女に、10年付き合った男を取られた。ショックを引きずる女を待っていた、新たな展開
東京カレンダー2021年01月20日05時05分
-
8
なぜ「かまぼこ」でトミカ再現? 10年以上も継続する異色コラボのワケ
くるまのニュース2021年01月20日09時10分
-
9
超絶カッコイイのに日本で売っていない! 最新ピックアップトラック5選
くるまのニュース2021年01月20日06時10分
-
10
結婚生活が破綻寸前の夫婦。妻に離婚を突きつけられた夫が、最後に賭けたもの
東京カレンダー2021年01月20日05時04分
トレンド 新着ニュース
-
「鬼滅コラボ」カラーワックスの販売数が映画公開後に約3.7倍アップ “年齢性別を問わず”愛される作品の証明
Walkerplus2021年01月20日10時30分
-
【セブン-イレブン新商品ルポ】濃厚チョコ×爽やかオレンジのマリアージュ「ピエール・エルメシグネチャー カップケーキショコラオランジュ」
イエモネ2021年01月20日10時30分
-
バンダイスピリッツ、「鬼滅の刃」煉獄杏寿郎の武器を再現した「日輪刀」を発売 7月発送分まで即完
ITmedia ビジネスオンライン2021年01月20日10時29分
-
ホンダがGM製「クルーズAV」を日本導入! 2021年内に自動運転車両の技術実証を開始
くるまのニュース2021年01月20日10時28分
-
ヤマダデンキ、ベスト電器やTSUKUMO運営会社を吸収合併
PHILE WEB2021年01月20日10時26分
-
ホンダ「アコードSUV」があった! クラウンに先駆けて登場!? セダンベースの「クロスツアー」とは
くるまのニュース2021年01月20日10時10分
-
さまざまな悩みの最適解が見つかるシンプルな思考法
ライフハッカー[日本版]2021年01月20日10時07分
-
コスパ良すぎ! 独自のノイキャン機能を備えたAnkerの完全ワイヤレスイヤホン2種
GetNavi web2021年01月20日10時00分
-
追悼・ジョン・ル・カレの世界 ジャンル越えた文学中の文学 作家・松浦寿輝さん
好書好日2021年01月20日10時00分
-
BL担当書店員のイチオシ!「愛に年齢なんて関係ない!年の差BL」
好書好日2021年01月20日10時00分
総合 アクセスランキング
-
1
嵐 不在の大野智守る新ルール「メンバーの共演は2人まで!」
女性自身 2021年01月20日 06時00分
-
2
逮捕の男、事件後マスクで外出か 健康理由に機内で着用拒否
共同通信 2021年01月20日 09時46分
-
3
オリラジ藤森がフリー後初仕事でぶっちゃけ 事前に吉本退社知らせたのは「2人だけ」
東スポWeb 2021年01月19日 23時40分
-
4
板野友美、河北麻友子、夏菜…「1月婚」が急増している理由
女性自身 2021年01月20日 06時00分
-
5
斎藤佑樹もいよいよ選手生命の危機。崖っぷちの"ハンカチ世代"たち
週プレNEWS 2021年01月20日 06時10分
-
6
トランプ氏、次期政権下で「安全と繁栄祈る」 退任メッセージ
ロイター 2021年01月20日 07時01分
-
7
鼻出しマスク受験「眼鏡が曇るから」 釈放男性、トイレにこもった訳は
毎日新聞 2021年01月20日 01時04分
-
8
金子恵美氏 こたつで朝を迎えた夫・宮崎氏と何が!?「自宅で寝てる分には大丈夫です」
スポニチアネックス 2021年01月19日 23時46分
-
9
「ボス恋」玉森裕太の“子犬顔”に「かわい過ぎ」 「俺のこと好き?」がトレンド入り
エンタメOVO 2021年01月20日 07時21分
-
10
わざと落馬した? 仏競馬の疑惑シーンに海外から厳しい声「同情できない」「怪しい」
THE ANSWER 2021年01月20日 07時13分
東京 新着ニュース
東京 コラム・街ネタ
-
歌舞伎町のホストが詠む「ホスト万葉集 其の二」 俵万智さんら3歌人が選歌
みんなの経済新聞ネットワーク 2021年01月20日 08時48分
-
【立川市】国産野菜100% 長崎ちゃんぽん リンガーハット立川南口店が2021年1月28日(木)に閉店されます。
号外NET 2021年01月20日 08時07分
-
秋葉原の「焼肉ライク」で「朝焼肉」始まる 緊急事態宣言受けて
みんなの経済新聞ネットワーク 2021年01月20日 07時00分
-
アイドルグループ「TeamAKASAKA」がメジャーデビュー 1stシングルを発売
みんなの経済新聞ネットワーク 2021年01月20日 07時00分
-
わいせつ行為は認定も…時間の壁で控訴棄却、弁護士が指摘する問題点
TOKYO MX+(プラス) 2021年01月20日 06時50分
特集
特集一覧を見る 動画一覧を見る記事検索
掲載情報の著作権は提供元企業等に帰属します。
Copyright © 2021 TOKYO CALENDAR INC. All rights reserved.