彼のことが、好きで好きでたまらない。…だから私は、どこまでも追いかけるの。

好きすぎるせいで、何度も連絡してしまう。愛しいから、絶対に別れたくない。彼を離したくない。

こんな愛し方は異常だろうか…?だけど恋する女なら、誰だってそうなる可能性がある。

「私の方を振り向いて。ちゃんとあなたの、そばにいるから」

これは、愛しすぎたゆえに一歩を踏み間違えた女の物語。

◆これまでのあらすじ

東京本社からやって来た佐伯に、一目惚れした仁美。「仕事の相談をしたい」と言い、うまく飲み会をセッティングした仁美は、その夜、自身の部屋で佐伯と一夜を共にしたのだった。

しかし浮かれる仁美とは対照的に、佐伯の態度は冷たくて…?

▶前回:「私のことアリじゃなかったの?」オトせたと思っていた男の態度が、翌朝になって急変したワケ



―佐伯さん、どうしてメール返してくれないんだろう。

オフィスのデスクにノートPCを広げた仁美は、頭を抱えていた。

やはり佐伯は自分のことを「軽い女だ」と思い、興味をなくしてしまったのだろうか。仁美はいきなり自分の家に誘ったことを後悔し始めていた。

それでもやっぱり佐伯のことを諦めきれない。いてもたってもいられなくなった仁美は、まだ彼からの返事も来ていないのに、さらに私用のスマホからもメールを送ってしまった。

返ってこない時間が長くなればなるほど、焦りと共に、あの幸せだった夜のことを思い出してしまう。

―1回だけでいいから、もう一度佐伯さんと…。

そんな思いでいっぱいになる。

すると、モヤモヤを抱えていた仁美のもとに、ようやく佐伯からの返信が届いたのだ。

やっと来た佐伯からのメールをすがるような気持ちで開封するが、そこには『研修お疲れさまでした』というあっさりとした内容しか書かれていない。

仁美は悲しみのあまり、呆然としてしまった。

―あっ…!

しかし佐伯のメールを最後まで読んだ仁美は、スマホを握りしめながら、パッと明るい表情になったのだ。


仁美が思わず、笑顔になったワケとは…?

メールを最後までスクロールすると署名欄があり、そこにきっちりと電話番号が書かれていたのだ。

―これって、佐伯さんの電話番号だよね…?

メールの内容こそ冷たかったが、これで直接彼と話せる。そう思うと仁美は「迷惑かもしれない」と頭の片隅で思いつつも、すぐに社用スマホから電話をかけてしまった。

「はい、佐伯です」

コール音が何度か鳴ったあと、あの夜と同じ優しい声で、佐伯が電話に出た。

「あっ、あの佐伯さん…?夏川ですけど」

「え、ナツカワさん?」

佐伯は突然かかってきた電話の相手が、誰だか分かっていない様子で尋ねてきた。

「仁美です。あの、大阪の…!」

もはや自分のことなんて覚えていないのかもしれない、という不安に胸が苦しくなりながらも、仁美は恐る恐る自分の名を告げる。

「あぁ、仁美ちゃん」

佐伯のちょっと面倒くさそうな「あぁ」という返事はショックだったが「仁美ちゃん」と名前を呼んでくれたことに胸が高鳴った。

「あの、迷惑かなって思ったんですけど…。メール、全然返してくれなかったから。次は、いつ大阪に来るんですか?」

「来月の研修かな。ああ仁美ちゃん、ごめんね。今仕事が立て込んでるから」

そう言って佐伯から、プツっと電話を切られてしまった。

―やっぱり、冷たいな。

予想はしていたが、彼の冷たい態度に肩を落とす。

だがほんの少しの期待を込めて、来月のスケジュール帳の研修日のところに、小さなハートマークを書き込んだ。

しかしそれからというもの、佐伯は何度電話をかけても出てくれなくなってしまった。

―やっぱりダメだ。いつかけても繋がらないよ。

あんなに幸せな夜だったのに、やっぱりもうダメかもしれない。あとはプライベート用のスマホで電話をかけるくらいしか、佐伯と連絡を取る手段はなかった。

「これでダメだったら諦めよう…」

仁美はそう心に決めると、彼に電話をかけ始めたのだった。



「はい、佐伯です」

やはり佐伯は、ワンコールで出た。「やっぱり避けられてたんだ…」と仁美は心の中で思いながらも、それを隠すために必死で明るい声を出そうとする。

「もしもし、仁美です!」

「あ、仁美ちゃんか。いつも電話かかってくるのが会議中で、なかなか出られなくてごめんね」

久しぶりに聞いた佐伯の優しい声に、仁美は感動すら覚える。

「あっ、あの…」

あんなに話したかったはずの佐伯とせっかく電話をしているのに、いざとなると言葉が出てこない。

「どうしたの?」

今日の佐伯は、どこまでも優しい。それが余計に、仁美を不安な気持ちにさせた。

「つ、次に佐伯さんが大阪に来るとき、またご飯に行けたらなって、思ってて…」

自分はこんなに話すのが苦手だっただろうか。そう錯覚するほどに、仁美はモゴモゴと話してしまう。

「うん、いいよ。またみんなで行こう」

―みんなで、か。やっぱりもう、私には興味がないんだ。でも佐伯さんと会えるだけ、我慢しよう。

佐伯の言葉に、一瞬だけ絶望した仁美だったが「また彼と会えるんだから」と、無理やりポジティブな考えに思考を切り替える。

そして、待ちに待った研修当日。仁美の身に、予想もしていなかった出来事が起きたのだ。


仁美の身に、何が起きたのか…?

―やっぱり今日も素敵だなあ。

仁美は、真剣な表情で仕事をしている佐伯を、ジッと見つめる。

彼に会えることが楽しみで待ちきれなかった仁美は、今朝2時間も早く起床して、丁寧に髪を巻き、メイクを施した。

マスク生活で口元は見えないから、せめてアイメイクは華やかにしようとしたせいで、若干オフィスでは浮いてしまうほど濃くなってしまった。だけど、佐伯の目に留まるならなんでもいい。

仁美は自信たっぷりといった様子で、いつ佐伯と目が合うのかとワクワクしていた。

それなのに研修中、佐伯とは一度も目が合わなかったのだ。…自分の勘違いかもしれないが、彼はわざと、目線を合わさないようにしている気がする。

それに気付いた瞬間、仁美はどんどん不安になってきた。

―でも、夜はご飯に行けるはずだから。

もはやそれだけが、仁美の心の支えだった。

研修が終わると、佐伯はいつものように女子社員に話しかけられていた。仁美はなんだか気まずくて、会話に入っていくことができず、自分の席からこっそりと様子を伺う。

「佐伯さん!先月みたいにまたご飯に行きませんか?」

そう言って、佐伯を誘う声が聞こえてくる。

「ああ、ごめんね。今日は先約があるんだ」

「え〜、そうなんですか…」

それをスマートにかわす佐伯を見て、仁美の期待は高まった。

―もしかして、私と2人きりでご飯に行くため?

まさかの展開に、仁美の心臓はバクバクと音を立て始める。それなら急いでメイクを直さないと、と思い、仁美は化粧室へ駆け込む。

最後に軽く香水まで振ると、仁美は佐伯が待っているであろう会議室へと向かった。



「あれ、真っ暗だ…」

会議室はすでに電気が消されていて、誰もいなかった。オフィスにも、佐伯の姿はない。

もしかしたら1階のロビーで待っているのかもしれないと思い、急いでエレベーターを降りるが、やっぱり佐伯はいなかった。

―私との約束なんて、忘れちゃってたんだ。

仁美はショックのあまり、その場に立ちつくしてしまう。

すると、そのタイミングでビルの自動ドアが開いた。ドアの方を振り返ると、ちょうどビルを出ていく佐伯の姿が見えたのだ。

「え、佐伯さん…!」

思わず小さな声で叫んだ仁美だったが、その声に気付くはずもない佐伯は、どんどん駅の方へと向かっていく。

こんなことするなんて、悪い女だとは分かっている。でも、どうしても気になる。

仁美は、こっそりと佐伯のあとをつけることにした。

佐伯は会社の最寄駅である西梅田から四つ橋線に乗り、肥後橋駅で電車を降りた。そして通い慣れた様子で、コンラッド大阪のエントランスへと吸い込まれていく。

そしてそこで立ち止まった佐伯は、キョロキョロと辺りを見回していた。

―誰かと待ち合わせしてるのかな。

すると佐伯は誰かを見つけた様子で、途端に笑顔になった。そこに黒のタイトなワンピースをサラリと着こなした女が駆け寄ってきて、彼の腕にしがみついたのだ。

「ウソ、なんで…!?」

ショックな光景を目の当たりにした仁美は、佐伯の隣で微笑む女を睨み付ける。

そのとき女の左手薬指に、キラリと光る指輪がはめられているのを、仁美は見つけてしまったのだった。


▶前回:「私のことアリじゃなかったの?」オトせたと思っていた男の態度が、翌朝になって急変したワケ

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ショックな光景を目の当たりにした仁美が、その後取った行動とは…?