あなたはもう、気づいている?

あの笑顔の裏に潜む、般若の顔。

『なんで、あんな女が彼と…』
『こんなにも彼に尽くしたのに…』

復讐なんて何の生産性もないってこと、頭ではわかっている。だけど…。

激しい怒りに突き動かされたとき、人はどこへ向かうのか。

これは、復讐することを決意した人間たちの物語。

◆前回のあらすじ

2年付き合った恋人・豪太に、実は婚約者がいたことが発覚。自分が浮気相手だったと知った愛菜は、怒りが収まらず…。

▶前回:「どうして私が隠れなきゃいけないの?」33歳女が婚約者からうけた残酷すぎる仕打ち



愛菜:「何度もフラッシュバックする」


自分の恋人…だと思っていた豪太が、女性と仲睦まじく歩いている姿が。そして、Tiffanyに入店し、結婚指輪を選んでいる2人の笑顔が…。

本当に何度も、何度も…。

恋人の浮気現場というだけで十分衝撃的だったのに、茫然としている間に、浮気相手は自分だったと思い知らされた。

終わった恋を引きずっても無駄だって、頭ではわかっているし、過去の経験からも知っている。

だけど、2人の幸せそうな笑顔がどうしても脳裏にこびりついて離れない。

思い出したくないのに、その映像が何度も脳内で再生され、その度に私を苦しめる。

仕事から一人、誰もいない寒い部屋に帰ってくると、惨めさに拍車がかかる。悲しくて、苦しくて、涙がとまらなくなる。

そして、あるとき、ふと思ったのだ。

どうして、私だけがこんな思いをしなくちゃならないんだろう…。私が幸せになれないなら、あの女にも幸せにならないで欲しい、って。


愛菜が失恋に苦しんだ末たどり着いた、恐ろしい結論…

本当に便利な世の中だと、心から思う。

Facebook、Instagram、Twitter、Google。

これらの検索ウィンドウに、素性を知りたい人間のフルネームを打ち込めば、何かしらの手がかりが入手できる。

「本名 会社名」でググれば所属している部署までわかる場合もある。SNSでの投稿や友人とのやり取り、イイねの頻度から、恋人らしき人間や交友関係まで。

手間はかかるけど、素性を調べる手段ならいくらでもある。

豪太の婚約者の顔は知っていたから、まず豪太のFacebookの友達をくまなく探した。そして、自分の知りうる手段をすべて使って、その女の素性を徹底的に調べ上げた。



―東海林 紗由里(しょうじ さゆり)。29歳。大手メーカー、本社勤務。頻出スポットは代官山。青山学院大学出身で、大学時代の友人と今でも親交が深い。

会社のホームページの若手社員紹介には、彼女の顔写真とともに、1日のスケジュールが事細かに記されていた。

美人でスラっとしたバリキャリ風情の出で立ち。真っ白な歯を見せてTheoryのジャケットを着こなす彼女の笑顔が、心にグサリと突き刺さった。

仕事も充実していて、29歳でちゃっかり素敵な恋人と婚約した美女。

―私とは、まるで真逆だ…。

あの日の映像が脳内で再生される度に何度も傷ついてきたけれど、こうして写真で彼女の顔を見ると、あの時に流れていた空気までもがリアルに再現されるようだ。過呼吸になるのではないかと思うほどの息苦しさが、一気に押し寄せてくる。

―私が幸せになれないのに…、この女が幸せになるなんて許せない…。

この人が悪いわけじゃないと分かってはいたけれど、彼女だけ上手くいくことが許せなかった。その整った顔を見ていると、激しい嫉妬に心が蝕まれていく。

―お願いだから、幸せにならないで。

失恋の痛手と、豪太への恨みがねじ曲がった結果、そんな思いが私の中で生まれ、そして…。

気づいたときには、Facebookのメッセンジャーで彼女に連絡をし始めていた。

2年間も豪太と付き合っていたこと。どんなデートをしたか。どれだけ愛されていたか。私とも婚約をしていた、親にも挨拶をした、式場も下見しているところだ、と、嘘も織り交ぜた。

即座にブロックされたけど、別のアカウントを作ってメッセージを送り続けた。

豪太にも同じことをした。あの女から執拗に連絡が来て困っている。こんな罵詈雑言を浴びせられて精神的に病んでしまっている。あの女は他にも男がいる、と、ひたすらに嘘を並べた。

別に、なにか戦略があったわけではない。

激しい怒りに突き動かされるがままに、2人が別れるようにひたすら攻撃しつづけた。

そして、この攻撃が思わぬ結果を生むこととなる。


愛菜は、豪太とその婚約者に執拗なメッセージを送りつけた結果…

『ご報告です。ついに、豪太さんと入籍しました!!色々あったんですが(笑)…、これから幸せになります!』

私が執拗にメッセージを送り続けて1か月もたたないうちに、あの女のFacebookにこんな投稿がポストされたのだ。

「嘘でしょ…」

電車の中でこの投稿を目にしたとき、またもやこの言葉が漏れ出ていた。もう決定的にどうにもならないところまで事が運ばれてしまったことが、しばらくしてようやく理解できた。



紗由里:「愛菜さん、ありがとう」


豪太が遊んでいることは知っていた。だからというわけじゃないけど、早く彼と結婚して、オフィシャルに彼を私のものにしたかった。

可愛く、けれどしつこく催促し続けることによって、去年ようやくプロポーズしてくれたのだけれど、具体的な話は一向に進まなかった。

というより、豪太は独身の自由を少しでも長く謳歌したい(要は女遊びをやめたくない)がために、仕事の忙しさを理由にいろんなことを後ろ倒しにしてきた。

いつになったら入籍できるのかとやきもきしていた。そんなとき、愛菜という女が登場したのだ。

私が強引にTiffanyに連れて行ったその日に、彼女は現れた。あの剣幕に、すぐに察しがついた。

その後、執拗なメッセージが彼女から届いたし、かなり迷惑だったことは事実。けれど、初めての経験ではないし、実害はなにもなかったので話のネタ位にしか思っていなかったのだけど…。

あまりのしつこさに豪太を問い詰めたら、思いのほか申し訳なさそうな表情を見せた。そして私は…思ったのだ。

これは使える、と。

「…こんな思いするなら、豪太と別れたほうが楽になるかも…」

思いつめた表情で彼にそう訴えると、効果テキメンだった。それから、すぐに顔合わせの日取り、式場見学に新居探しと、すべて彼がリードして動いてくれたのだ。

まさに、雨降って地固まる。

自ら、雨の役を買って出てくれて、私たちの結婚の後押しをしてくれた愛菜さんには頭が上がらない。

それに、私が同情するのもおかしな話だけれど、彼女の気持ちは痛いほど分かる。

結婚を仄めかされた挙句に、捨てられる身の惨めさが、どんなものなのか。そして、どうしても収まらない激しい怒りも…復讐心も。

ー2年前、私も同じ苦しみを味わったから。

だから、愛菜さんのことはかわいそうだと思うけど、豪太は絶対に渡さない。ようやく手にした幸せだから。

どうか、愛菜さんも幸せになれますように。

豪太じゃない人とね。


▶前回:「どうして私が隠れなきゃいけないの?」33歳女が婚約者からうけた残酷すぎる仕打ち

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紗由里が2年前に味わったという、強い復讐心を抱くまでの物語。