女は、いくつになっても若く見られたい。

特に自身の年齢にコンプレックスを持つ女たちは、エステやメイク、ファッションやヘアスタイル…。

誰よりも美容に気を使い、若く美しく見せることに必死になる。

おかげで、実年齢をうまくごまかすことはできるけど…。

―もう本当の年齢は、誰にも告げない。

そう決心したある女がいた。彼女は今日も鏡の前で、こうつぶやく。

「ねぇ。私、いくつに見えますか?」

◆これまでのあらすじ

サロンを経営している38歳の蘭子は、BARで出会った33歳の純太と意気投合。しかし32歳だと年齢を偽っている蘭子は、彼からの告白にためらってしまい…?

▶前回:年下男のお姫様扱いに溺れるアラフォー女。浮かれ気分でいた女を襲った、あるピンチとは



「えー、絶対に付き合うべきですって!」

仕事の合間に訪れた、サロンの近くのカフェ。

蘭子と一緒にランチをとっていた彩名は、純太とのあれこれをひと通り聞くと、目を輝かせた。

「でも彼、私の本当の年齢を知らないのよ。32歳ってサバ読んじゃって…」

「いいじゃないですか。蘭子さんだったら私と同じ28歳でもイケますって」

「そういう問題じゃないんだけど」

彩名は蘭子がかつて勤務していたエステサロンの後輩で、今でも親しくしている存在だ。一緒に働いた期間は短いが、何かにつけて慕ってくるので、付き合いはかれこれ10年近い。

月に何回かはランチやお茶をしに出掛けたり、閉店後のサロンで勉強会を行ったりしている。

「私とだってこうやって気兼ねなくおしゃべりできるんですもん。5歳くらいの年齢差なんてどうってことないんじゃないですか」

「でも、嘘ついているのが申し訳ないのよ」

「サラッと言えば気にしませんって。で結局、告白されてどう答えたんですか?」

どうやら彼女は、蘭子との久々の恋バナが相当楽しいらしい。前のめりでグイグイ質問攻めにしてくる。

蘭子もむしろ聞いて欲しかったので、それは嬉しかった。

「答え、か。そうねえ…」


純太からの告白に、蘭子が出した答えとは…?

蘭子は、あの夜を静かに思い出していた。

「僕の恋人になってくれないかな」

そう言った純太の、真剣な表情。それが今でも、蘭子の目に焼き付いている。

そんな彼の手を振りほどいて、とっさに「考えさせて」と言ってしまったのだ。酷な回答だったとは思うが、すぐに答えが出せるような問題じゃなかった。

「なんだ、保留にしたんですね。でも蘭子さんの気持ちとしては彼の事を好きなんですよね?」

「まあね…」

「とにかく、付き合っちゃいましょう!それが一番いいです」

あっけらかんとした彩名の提案。短絡的で未熟なその考えに、蘭子は心の中でため息をついた。

「でも、彼がなぜ自分に惹かれているかもわからないのよ」

「美人で、気が合うからでしょう?」

「そんな軽い気持ちで付き合おうと思う?」

「思いますよ!結婚するわけじゃないし、いいじゃないですか」

そうはっきり言い切れる彼女のことが羨ましかった。38歳になると、どうしても結婚という考えは外せない。結婚願望があるなら、なおさらだ。

そしてそれ以外にも、交際をためらう理由が実はもうひとつあった。

「私はもう、傷つきたくないの。付き合ってフラれたら若い頃のようにすぐ立ち直れる気力はないし」

蘭子は3年前、10年交際していた恋人に突然別れを告げられた過去がある。その時のショックは、何か月も…いや今でも立ち直れていない状態なのだ。



彩名もそのことを知っているからこそ、恋に臆病な蘭子の背中を押そうとしているのだろう。

しかし、どんな提案でも何かにつけて否定してしまう。その様子に、彼女はいい加減ウンザリしているようだ。

「若いとか若くないとか、関係ないです!失恋は誰でもメチャ辛いんです。というか、蘭子さんの元カレが超ヒドかっただけですって。10年付き合って若い女とデキ婚なんて、最悪ですよ」

鼻息荒くまくしたてる彩名を宥めながらも、蘭子はふと気付く。年齢の呪縛に最も囚われているのは、自分なのかもしれない、と。

―罪悪感もあるし、こんな無理して辛い思いをするくらいなら、付き合うのはやめた方がいいのかも。

口に出すと怒られそうなので、この決心は心の奥にしまっておいた。

そして彼女と別れた後、さっそく純太に「時間を作って欲しい」と連絡したのだ。


告白の答えを告げるため、純太を呼び出すも…。

数日後。2人は六本木にある鮨屋で会うことになった。

この場所にしたのは、彼たっての希望だ。「蘭子ちゃんがよく行くお鮨屋さんに行きたい」と言われたのである。

交際を断るつもりなのに、あたかもデートのようなシチュエーションになりそうで最初はためらったが、幸いその店には個室もある。

落ち着いた雰囲気で話をするにはぴったりの場所だと考えたのだ。



「さすが蘭子ちゃんの選ぶ店だね。どれも美味しいよ」

行きつけのお鮨屋さんの個室で、純太はそう言って喜んだ。

白ワインとともに三陸産の生ガキや、子持ちヤリイカの煮物などをつまみながら、2人はすでに恋人同士であるかのように微笑みあう。

彼はその雰囲気に、告白の手ごたえを感じているようだった。蘭子が「今日で会うのはおしまい」と心に決めていることも知らずに。

「同学年なのに、1人でこんなお鮨屋さんに行ってる蘭子ちゃんを見てると、僕も頑張らなきゃと思うよね」

この店の売りである絶品のウニを口にしながら、純太はふとつぶやく。

「そんなに敷居が高い店でもないよ。意外とリーズナブルだし。このあたりなら、純太さんもよく行くことあるでしょう」

謙遜しながら言うと、彼は首を横に振った。

「まぁそうだけど、こういう店を普段使いしてるのがカッコイイよ。蘭子ちゃんは手に職もつけていて、自分の店もある。BARやお鮨屋さんにも1人で行くし、自分の足でしっかり歩いているところ、尊敬してるんだ」

「…純太さんは違うの?」

「僕は組織に属していなければ何もできないから。それに今は、実家暮らしで…。他人の力を借りなければ何もできない人間なんだ」

そう言って苦笑をこぼす彼をフォローしながらも、蘭子はどこか嬉しく感じる。

―そんな風に私を見てくれていたんだ。

てっきり外見だけに惹かれて口説いてきたんだろうと思っていたから、内面や生き方を褒められるとは思ってもみなかった。

ただ生きるために必死でやってきたことだけど、それが間違いではなかったと彼の言葉で気付かされたのだ。

その充足感で、なぜか期待が湧き出てしまう。

―彼なら、本当の年齢を言っても引かれないかも。

断るつもりで呼び出したはずなのに、都合のいい希望だ。

「す…好きで1人なわけでもないんだけどね」

そんな期待を必死でかき消して、甘い雰囲気になるのを避けるかの如く、ボソッと自虐を口にした。

「じゃあこれからは僕が、隣にいてもいい?また、2人でここに来よう」

―まずい。照れ隠しだったのに、結果的に誘導しちゃった。

本当は、告白の答えは食事の最後に言いたかった。まだどこか迷いがあるからだ。

自分から呼び出した以上、再び保留にすることは許されない。しかし事前に用意した答えを告げる気持ちは、もうほとんどなくなっていた。

「…うん」

「それは、この前の答えもイエスってことでいいんだよね」

その言葉に、蘭子は無言でうなずいた。「なるようになれ」と腹をくくったのだ。

それはやけくそではなく、ここで彼の気持ちを受け入れなかったら絶対に後悔すると思ったから。

―今は自分に正直になろう。ほんの少しの夢でいいから。

「よかった…!」

安堵する純太の、少年のような笑顔。それを見て、胸が熱くなるような幸せをひさびさに覚えたのだった。


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純太と付き合うことを決めた蘭子。そんな彼女の元に、ある人物が現れて…?