凛子は真剣な面持ちで、パソコンと対峙していた。

歴代の元彼、好きだった人、男友達…、今まで出会った合計500人の特性をデータ化し、関係の継続年数と相性の良さを入力して、分析ソフト“R”でモデルを組んだ。

そこに、今までに収集した将司のデータを細かく入力していく。

32歳、長男、私立男子校出身、慶應義塾大学卒、外資系証券会社勤務、身長178cm…

規律性、公平性、慎重さ、責任感、達成欲、目的思考、活発性、競争性、コミュニケーション能力、最上志向、自我、社交性、運命思考、共感性、親密性、調和性、ポジティブ、学習欲、原点思考、戦略性、着想、内省、未来思考…

—私の読みは、外れてないはず…

パソコンの前で大きく深呼吸をし、人差し指に念を込めてエンターキーを押すと…

凛子は安堵の表情を浮かべた。

「良かった、将司さんと私、やっぱり最高に相性が良いわ」

前回の家デートで告白の言葉を引き出した凛子だったが、結婚を前提とした告白をさせる為には、もう一押し必要だと考えていた。


将司に結婚を意識させた“まさかの方法”とは…

一方、将司は…


凛子と出会ってから、毎週コンスタントにデートを重ねていたが、年越し家デートを機に、将司が彼女を追う形になっていた。

あんなに余裕で良い感じだったのに、何故かLINEは素っ気なく、必要最低限の内容しか返ってこない。

自分だけが「好き」という言葉を発してしまい、凛子の気持ちはわからぬまま。

プライドの高い将司は、一度手に入りかけた彼女を何とか取り戻そう、という狩猟本能を掻き立てられていた。

『凛子ちゃん、1月のご予定は?』
『土曜日空いてます』

既読無視されていた彼女に追いLINEをすると、日時と場所を指定され、土曜日の真昼間にオープンテラスのカフェで会うことになった。

「将司さん、お久しぶりです♪」

冬晴れの澄んだ青空のもと、太陽の光に照らされた凛子の肌は、艶々と発光していて眩しいほどだった。

—真昼間に見てもかわいいなぁ。

太陽光に照らされた女性の姿を見て、何度も幻滅したことがあったが、彼女の場合は肌の美しさが際立ち、より一層可愛くみえた。

家で感じた妖艶な雰囲気は一切なく、あれは幻だったのかと思うほどの爽やかなオーラに包まれている。



—真昼間、それもお酒を飲まないデートなんて何年ぶりだろう。

将司は勝手に照れ臭さを感じて、なんだかぎこちなくなってしまう。しかし、凛子はテンポ良く会話を弾ませ、良い雰囲気を作ってくれる。

顔だけ美人やバリキャリ女性とデートしているときには、感じることのない心地よさを感じるのだ。彼女は、将司の告白の言葉を忘れているかのように見える。

—この子は俺のこと、どう思ってるんだろうか?

「将司さんの会社って才色兼備な方が多そうですけど、社内恋愛とかしたことないんですか?」

悪戯に微笑んでいる凛子から、急に恋愛話を振られた。

「同僚と付き合ったことあるけど、同業だとぶつかっちゃって。それ以来、社内も同業もコリゴリだよ。凛子ちゃんは?」

「うちの会社、社内恋愛とか社内不倫が多くて。ゴタゴタには巻き込まれたくないので、私は一切ないです」

「あー外コンって多いよね」

芸能系の美女から同僚まで幅広く付き合ってきたが、顔に比重をかけると話が合わなくなるし、学歴や職業に比重をかけるとぶつかり合ってしまう。

そんなことを思い返していると、目の前で微笑んでいる凛子に後光が差す。

上智大学卒で外資系コンサルティングファームで秘書をしている彼女は、結婚するにはちょうど良いように感じるのだ。

「凛子ちゃんって、バリキャリでもいけそうな感じだけど、なんで秘書なの?」

「最初は総合職が第一志望だったんですが、色んな人から話を聞いてたら、仕事が忙しくて結婚や妊娠のタイミングを逃すっていう人もいて…。私は30歳までに第一子を産みたいと思っているので、仕事もプライベートもバランス良くできる今の仕事にしました」

「妊娠ねぇ…。うちの会社は、妊活はデフォな感じだよ。不妊治療してる上司なんかは、何百万もかかるって嘆いてたわ」

将司は、他人事のように答える。

「5組に1組は不妊らしいですよ。“男女共”に30歳すぎると、妊娠率が徐々に下がってきて、35歳を過ぎるとさらに下がるとか…」

“妊娠”は女性の問題で、アラサーで健康体の自分には関係のないことだ、と感じていたが、凛子の“男女共”にという発言にドキっとする。

「凛子ちゃん、詳しいね!」

「父が医者なので、脅されてこの間色々検査してみたんですよ。将司さんは、検査とかしたことあります?」

「ないけど…。その話聞いてたら、ちょっと気になってきたわ…。ていうかお父様がお医者さんなら、結婚相手も医者が良いんじゃないの?」

不妊に関する検査など未経験だった将司は、急に不安に駆られ、話題を変えた。

「兄が医者になったので、そこら辺は大丈夫です。それに、医者とは性格的に合わないことが多くて…。肩書きに囚われず、本当に相性が良い人と結婚したいんですよね」


25歳女にとって32歳はオジさん…?!疑心暗鬼になった将司がとった行動とは

妊娠話で盛り上がっていたが、凛子は、この後母親と新春歌舞伎を観にいくとかで、サクッとランチをして解散となった。

—な〜んだ、もっとゆっくりしたかったのに。

突如暇になった将司は、頭の中で凛子の言葉を反芻していた。

『夫婦の5組に1組くらいは、不妊治療を受けたことがあるらしいですよ。“男女共”に30歳すぎると、妊娠率が徐々に下がってきて、35歳を過ぎるとさらに下がるとか…』

追い討ちをかけるように元カノ・里香に放たれた言葉が、将司を苦しめる。

『25歳の女にとって、32歳の男なんてオジさんなのよ…』

—俺、もうオジさんなのか…色々大丈夫かな。

いつまでも若いつもりでいたが、そういえば最近酒が抜けるのがだいぶ遅くなったし、健康診断で数値が悪いところもあった。授かり婚をしていく知人も多い中、一切そのような危機に直面したこともない。

—ちょっと1回調べてみよっかな…。

いてもたってもいられなくなり、スマホで近くの泌尿器科を検索し、一番上に出てきた病院に予約を入れた。





「数も濃度も運動率も問題ないです」

厳格なオーラを放つグレイへアの男性医師から、検査結果を差し出され、ホッと胸をなでおろした将司だったが…

「でも、油断は禁物ですよ」

「え、何か問題があるんですか?」

「現時点では、子供ができる可能性は十分あります。でも、貴方はもう32歳ですから、お酒は控えて規則正しい生活を心がけてください」

35歳あたりで結婚すれば良いかとふわっと考えていた将司だったが、医者の言葉を聞いて身が引き締まる。

「ご結婚されてるんですか?」

「いや、まだ…」

「でもまぁ、子供を作るなら出来るだけ急いだ方が良いですよ。育てるのにも体力が必要ですから」

将司の心はズドンと重くなり、苦笑いのまま病院を後にした。

結婚に焦りなど感じたことは一度もなかったのに、今日この瞬間に初めて焦燥感に襲われてしまったのだ。


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最終回:凛子の戦略通りコトは運ぶのか?