宮崎詩乃「もう二度と会えないかもって思ってた…」


自宅のソファーに腰掛けた詩乃は、亮からもらった指輪を“左手の薬指”にそっとはめた。

久しぶりに指輪をつけられたのが嬉しくて、顔の前で左手を動かしてみる。角度によってキラキラ光るのを楽しんでいると、嬉しさのあまり涙が溢れてきた。

「亮…。また会えたね」

9か月ほど前、突然彼氏に振られ、連絡が取れなくなった。最初のうちは家に行ってみたり、職場に行ったりと、あの手この手を使ってヨリを戻そうとしていたのに…。

それなのに亮は、気づかないうちに引っ越してしまい、いつの間にかオフィスの方にも別の会社が入っていた。

―逃げられたんだわ。

もう会えないと思うと、食事が喉を通らなくなって、また急激に痩せてしまったのだ。

ここ数か月、痩せて、太って、また痩せて…と体重の増減が激しい。もらった指輪を着けられなくなったときもあった。

そのせいで太っていたときの皮膚がたるんでしまい、今でも醜くなっている。

―でも、もう大丈夫。また亮に会えたんだから。

そして指輪をはめた手を、大事そうに胸の前でギュッと握る。…そう。詩乃は昨日、9か月ぶりに彼と再会したのだ。

「また、前みたいにずっと一緒にいようね。そして、ずっと私のことを縛り付けていて…?」


詩乃は、どうやって亮と再会したのだろうか…?

それは2日前。

急激に痩せてしまった詩乃は、今までの服のサイズが合わなくなってしまった。なので新しいコートを買おうと、恵比寿まで買い物に出た日のこと。

「…あれ、あの車って?」

反射的に、隣を通った車を目で追いかける。恵比寿ガーデンプレイスの駐車場へ、1台の見慣れたレクサスが入っていくのが見えたのだ。

…こんなことは、これまでに何度もあった。亮が乗っていた黒のレクサスのSUV。珍しい車種ではないので、都内でもよく見かける。

そのたびに振り返り、ナンバーを確認するのが詩乃のクセになっていた。

「えっ、ウソでしょ…?」

今回もダメもとでナンバーをチェックする。すると、それは間違いなく彼の車だったのだ。

自分の心臓が跳ねるのがわかる。今にも走り出しそうになるのをグッと堪えて、その場で小さくガッツポーズをした。

「やぁっと見つけたよ」

寒いはずなのに、足先からポカポカと暖かくなるような感覚。興奮しているのだ。

詩乃は、先ほどまで買い物をしていた恵比寿ガーデンプレイスへと踵を返した。

―亮。今すぐ、会いにいくからね。



そして、地下駐車場へとつながるエレベーターの前に身を潜めた。自動販売機の陰になっている場所で、扉が開くのを待つ。

詩乃は緊張で手が震えるのを抑えるため、両手をギュッと握った。…その瞬間、あの指輪を着け忘れてきたということに気付いてしまったのだ。

普段なら、いつ亮に会っても大丈夫なように指輪を着けているのだが、今日に限って忘れてきてしまった。

悔しさのあまり、血が出るのではと思うくらいに強く唇を嚙みしめる。

「亮、ごめんね。せっかくもらった大切な指輪、今日は家に置いてきちゃったの…」

そう1人つぶやいて、泣き出しそうになりながら彼が来るのを待った。

亮がどこに車を停めたのかも知らないし、どのエレベーターを使うのかもわからない。けれどなんとなく、彼はここに来てくれるような気がしている。

―早く、早く亮に会いたいよ。声が聞きたいよ。

すると、エレベーターが到着した。ドキドキと心臓の高鳴りは最高潮に達する。

「どうぞ」

エレベーターが開くのと同時に、男性の声が聞こえた。

―わ、亮の声だ!

9か月ぶりに聞くその声に、感激のあまり涙がこぼれるのを抑えられない。

早く彼に抱きしめてほしくて、自動販売機の陰から飛び出そうと一歩を踏み出す。その瞬間、もう1人の声が聞こえてきたのだ。

「ありがとう」

その声に慌てて再び身を潜める。覗いてみると、なんと亮の隣には女がいるではないか。しかも、これまた驚くほど可愛らしい女。

綺麗ではなく、可愛い系。今までの彼の好みとは真逆で、どちらかと言うと詩乃に似ている系統の顔立ちだった。

亮はその女の腰にそっと手を回すと、丁寧にエスコートして店の中へと消えていく。そんな一部始終を見ていた詩乃は、その場から一歩も動くことができなかった。

…まさか女といるなんて、予想もしていなかったのだ。

でも、こうなったら取り返すしかない。せっかく会えたんだから諦めるべきではないと、自らを奮い立たせる。

詩乃は溢れ出る涙を手で拭うと、キッと顔をあげて2人の後をつけた。


ついに詩乃が、動き出す…。

詩乃が思いついた作戦


「美優ちゃん、だよね?」

「うん、詩乃ちゃん…?」

表参道駅の改札前でお互いを確認し合うと、2人の表情はパッと明るくなった。

「わあ、会いたかったよ〜!なんか初めて会った感じがしないね」

そう言って笑う彼女を見ながら、詩乃は「本当は初めてじゃないんだよ」と心の中でつぶやく。

恵比寿ガーデンプレイスで亮を見つけたあの日。

こっそり2人の後をつけて、新しい彼女が“小早川美優”という名前であること、そして亮が恵比寿のタワーマンションに住んでいることを突き止めた。

そして彼のマンション前を毎日のようにうろつきながら、詩乃は美優に近づいていったのだ。

まずはインスタのアカウントを探そうと、名前を打ち込んだところですぐに見つかった。彼女の投稿はほとんどが自撮りで、モデルでもインスタグラマーでもないのに“そんな雰囲気”を漂わせている。

美優のアカウントを見つけたときは「なんでこんな女と付き合ってるの…?」と怒りがこみあげてきて、スマホを床に投げつけてしまった。

その拍子で画面がバキバキに割れてしまったが、インスタを開くたびに彼女の顔が歪んでいるように見えて、気分がいい。



そして、そんな自尊心の塊のような美優を“その気”にさせるのは簡単だった。

『毎日アカウント見てます♡お顔も可愛いし、メイクもすごく素敵で参考にさせてもらってます…!』

ファンを装って近づき、最初はDMでメッセージのやりとりをしていた。それがLINEになり、電話をするようになり、オンラインでメイクレッスンまでしてもらう仲になったのだ。

彼女のメイクレッスンなど全く興味はなかったが「これも亮とまた一緒になるためなんだから」と我慢した。

そしてついに、実際に会って話すまでに至ったのだ。

「美優ちゃん、やっぱり実際に見ても可愛いなあ」

「そうかなあ?ありがとう。詩乃ちゃんは…スタイルがいいね!」

確かに美優が可愛いことは認めるが、言葉の端々から、明らかに詩乃を見下しているという気持ちが伝わってくる。

亮の彼女であるということだけでムカついているのに、性格さえも合わないとなると、ますますイヤになる。心の中で舌打ちをしたが、それを隠すようにニッコリ微笑んだ。

「今日は、彼氏のクリスマスプレゼントを買いに行くんだよね」

白々しく言ってみるが、美優はまったく意に介する様子はない。

「うん、付き合わせちゃってごめんね?」

「ごめんね」なんて言っておきながら、なんだか彼女は嬉しそうだ。

―さあて、これからどうしようかな?

詩乃はバレないように小さく、ニヤリと奇妙な笑みを浮かべた。


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ついに詩乃が、反撃を開始する…。