「今度こそ、幸せになりたい」

“離婚”という苦い経験を経て、また恋をして結婚がしたいと願う人たちがいる。

そんな彼らの再婚の条件は、実に明確だ。

「一度目よりも、幸せな結婚!」

それ以上でも、それ以下でもない。

幸せになることを諦めないバツイチたちの物語。



Case1:家事が苦手すぎて離婚した女


名前:亜弥(36歳)
職業:広告代理店勤務
離婚した時期:2年前


「へぇ〜。亜弥さんって、いろんなことに興味があるんだね」

土曜日の昼下がり。

亜弥は、友人から紹介された松下と表参道のカフェで初デートを楽しんでいる。彼は、大手商社に勤務する40歳で自分と同じバツイチだ。

「スポーツ全般が好きなんですよ。最近は、ゴルフにハマってるんですけど。松下さんは、ゴルフしますか?」

亜弥は、ゴルフのほかに、ピラティスやジョギングを日課としている。地道なトレーニングで作りあげた贅肉がついていないスタイルは、ちょっとした自慢だ。

だから男性を見るときも、ついつい筋肉に目がいってしまう。

「僕はゴルフはやらないんだ。それに最近忙しくて運動もできてないよ」

運動していないと言う割に、40歳にしては胸板も厚いしウエストもほどほどに締まっていて、肌にハリもある。

― 時計はパネライのサブマーシブルね。ということは、ヨットでもするのかしら。

彼のパーツの一つひとつを、相手に悟られないようにチェックしていく。

亜弥が離婚したのは2年ほど前だが、なんだかんだ言っても趣味のスポーツを通じて出会いはそれなりにあった。だが、コロナの影響でみんなで集まってスポーツをする機会が激減し、出会いの数も減った。

そんなとき、『年齢も近いしバツイチ同士だから』と友人が紹介してくれたのが松下だった。前情報によると、彼がジャカルタに赴任している間に、元妻が浮気していたことが離婚原因らしい。

もちろんバツイチの亜弥は、相手の離婚歴は気にならない。むしろバツがついている方が安心する。それに松下は、さっきから亜弥の話にしきりにうなずいたり笑ったりと実に好感触だ。

『松下さん、いい感じだわ』と亜弥のテンションが上がってきたとき…。

彼がグラスにシャンパンを注ぎながら尋ねてきた質問に、亜弥の思考が停止することになる。


バツイチの亜弥が、初対面で聞かれたくない質問とは?

「ところで亜弥ちゃんもバツイチだよね?なんで離婚したの?」

目の前の男を品定めしていたとき、不意に矛先が自分に向かってきたので、パンをちぎっていた手がピタリと止まる。

一番聞かれたくない質問だった。

「私も、浮気されたんです」と離婚理由のひとつを伝えて、その場をしのぐことだってできる。

ただ亜弥の場合、すべての非が浮気した元夫にあるわけではない。自分にも悪かったところが少なからずあった。

目の前にいる松下は、とても素敵な人だし次もデートしたいと思う。でも、だからこそお互いのためにもマイナスの情報は、ちゃんと先に伝えておきたい。

「彼が浮気した、っていうのもあるんですけど…」

亜弥は、嘘をつかない程度に、大人の回答でその場を切り抜けることにした。

「私、あまり家事をしなかったんです。仕事が忙しくて夜遅く帰ってきた後に食事を作ったり、家を整えたりできなくて。それでかなぁ…」

だが、松下はこの回答では許してくれず、さらに突っ込んできた。

「そっかぁ。亜弥ちゃんみたいにバリキャリだったら負担だよね。でも、家事が嫌いってわけじゃないんでしょ?」

根ほり葉ほり聞いてくるのは、自分に興味があるからなのかもしれない。

ただ、“離婚理由”という核心を掘り下げてくるのは、相手の本性を見極めたいという気持ちもあるのだろう。

同じバツイチとしてよくわかる。

バツイチたるもの『次こそは、離婚したくない』『次こそは、幸せになりたい』と願っている。

だからこそ、無理してつくろわず本音を言った方がお互いのためだ。亜弥は満面の笑みをたたえ、意を決して松下に向かって言葉を発した。

「ぶっちゃけ家事は、……嫌いっていうか、苦手です」

離婚を“人生経験”とか“人生のリセット”などとポジティブに捉える人もいるが、亜弥にとっては負の歴史だ。結婚生活によって、自分の『とてつもなく家事が苦手』という弱点が顕在化してしまったから。

そんな訳で次こそは、そういった自分の弱点も含めて受け入れてくれる人と再婚したいと思っている。

「離婚理由って、色々あるよね。お互い色々あったよね」と松下は笑顔でうなずき、それ以上は聞いてこなかった。

同じバツイチ同士、心が通じ合えた瞬間だと亜弥は感じた。

― 素直に話してみてよかった…。

最後は、「次は夜飲みに行こう」なんていい感じで別れたのだ。





ー17時ー

松下との初デートを終え自宅に戻った亜弥は、シャワーを浴びた後、部屋着にしているレニーのヨガウェアに着替えた。

冷蔵庫から、冷えたビールを取り出し一口飲む。

― ふぅ、再婚活って疲れるなぁ。

一人では十分な広さの1LDKは、2年前に離婚した時に買った。三宿にも下北沢にも、代々木上原にもほど近い代田というエリアだ。

ソファとダイニングセットだけ置いてあるシンプルな部屋。家事が苦手と言い切る割に、散らかってはいない。

亜弥はダイニングテーブルに駅前のコンビニで買った唐揚げを広げ、ひとつ、またひとつと口に入れる。

最後のひとつを口に入れたとき、LINEの通知音が鳴り響いた。

松下を紹介してくれた友人からだった。

『亜弥ちゃん、松下さんに家事が苦手って自分から喋ったの?正直に言わなくてもいいのに…』

彼女からのLINEを見て、さっき別れ際に「今度、飲みに行こうね」と言われたのは、単なる社交辞令だったのかと肩を落とす。

― 家事が苦手ってだけなのに…。そこまでナシかなぁ。

自分で言うのもなんだが、性格は底抜けに明るいし、スタイルも顔もまぁまぁだ。

『松下さん素敵だったけど…。離婚理由を隠して失敗するのは、嫌なの。せっかく紹介してくれたのに、ごめん!』

返信した後、2年前の元夫との別離のときのことを思い出していた。

亜弥と元夫が知り合ったのは、食事会。

お互いにランニングが趣味だと知り、すぐに意気投合した。彼は2つ年上で大手メーカー勤務だった。

プライベートを犠牲にして出世を狙うようなタイプではないが、その代わり一緒にいる時間をとても大切にしてくれる人。

お互いスポーツが大好きで、スポーツ観戦や登山など二人でいろいろなところに出かけた。

結婚しようと言われたのは、付き合って2年経った頃で亜弥が31歳の時。

ちょうどいい年頃だったし、一緒にいると楽しいから、きっと結婚生活もうまくいくはず。そう思って二つ返事でOKした。

しかし、一緒に住むまで亜弥は、元夫に隠していたことがあったのだ。


自分を偽って結婚をした女を待っていた、すれちがいの結婚生活

社会人になってからひとり暮らしを始めたが、料理だけでなく掃除や洗濯など暮らしを整えることが、亜弥は得意ではない。

食事は、基本外食かテイクアウト。

独身時代に持っていた調理器具は、カップ麺専用の電気ケトルひとつだけ。コンロは使ったことがなかった。

料理と並んで特に嫌いだったのが洗濯。干して畳む工程が面倒で、シーツ類は3ヶ月に一度ニトリで真新しいものに買い替え、古いものは捨てる。

服も、ワンシーズンで使い捨て。ファストファッションでそろえ頻繁に買い替えていた。値段は安くても、新品だとそれなりにきちんと見えるらしく、周りにはいつも小綺麗にしている人だと思われていた。

日常の掃除は、ルンバに任せきり。

そもそも掃除の回数を減らしたいから、家具や物は最低限しか置かない。

こうして独身の頃から、家事が苦手な割には部屋も身なりも綺麗に保たれていた。

だが、この生活を人に知られると結婚できないかもという恐怖があったので、ひた隠しにしていたのだ。

彼と交際中だって、海や山に一緒に出かける時は、前日に買ってきたお惣菜を詰めてお弁当にしたり、ペットボトルのお茶を水筒に詰め替え持参し家庭的な女をアピールしていた。

彼の家に泊まった翌朝は、パンを焼いたりコーヒーを淹れるくらいのことはした。

当時の亜弥は、結婚さえしてしまえば、好きな人のためならやる気になるかもしれないし、二人で分担してやればなんとかなると思っていた。

ところが、当たり前なのだが、一緒に暮らし始めると徐々に亜弥の本性がさらけ出されていったのだ。

最初はなるべく家事をするよう努力はした。

しかし、仕事も忙しい。気づけば、家事全般を夫が担当するようになっていた。それに甘えて、亜弥は次第に何もしなくなった。

亜弥からすれば、独身の時となんら変わらない生活を送っているだけなので、不満はなかった。いや、夫が家事をしてくれる分、むしろ生活は快適になっていた。

元夫は、もともと我慢強い性格なのだと思う。

仕事の愚痴を口にすることもほとんどなかったし、買ってきた惣菜に文句を言うこともなかった。でも顔や言葉に出さなかっただけで、心の中では亜弥に対する不満を蓄積していたのだろう。

結婚して1年ほど経ったとき、沈黙を破り彼がブチ切れたのだ。

「おまえ、はっきり言って結婚詐欺だわ。訴えたい」と家の中のあらゆるところから亜弥の欠点を拾い上げ、罵倒してきた。



「おまえが使う調理器具って電気ケトルだけじゃん。ないわ」

「一日中ルンバが動いててうるせーんだよっ」

「服は基本使い捨てなんてありえない。ものを大切に使う精神とかないの?」

そして、ひとしきり怒鳴り散らした後、彼は言った。

「僕のために何かしたいっていう気持ちはないの?」

それに対して、亜弥は精一杯の反論をしてみた。

「一緒にいて楽しいだけじゃダメなの?好きってだけじゃダメなの?」

元夫からその答えは、得られなかった。その数ヶ月後、彼は離婚届を突きつけ、家から出て行った。

詳細はわからないが、彼にはその頃すでに新しい彼女がいたと思う。

亜弥が離婚届に判を押したのは、それから2年経ってからだった。彼から離婚を求められてもすぐに承諾できなかったのは、自分の非を認めたくなかったからなのかもしれない。

「離婚したくないなら、少しは家事をする努力をしてみたら?」

友人にそう言われ、別居期間中に料理教室に通ったり、週に一度洗濯曜日を設けて家中のものを洗濯してみたり、必死で努力をした。しかし、家事に慣れるどころか、ますます嫌いになってしまったのだ。

その時、ようやく離婚を決断することができた。

離婚が成立した後、しばらくして元夫をSNSで見かけた。

素敵なリビングで、小柄な奥さんらしき人と前菜をつつきながらワインを愉しんでいた。亜弥と暮らしていた頃よりも幸せそうに見えた。自然と亜弥の目に涙が溜まっていた。

悲しいわけでも悔しいわけでもない。ただ気がついたのだ、彼が求めていたことに。

彼は、単に亜弥に家事ができることを求めていたのではない。

きっと、二人でこういう家族団らんの時間を共有したかったのだろう。それに比べて自分は、気持ちはずっと独身のままだったのかもしれない。

― 家族になりきれなかったのかな…。一体どこで、すれ違っちゃったんだろう…。



コロナ渦で出会いが減り、友達と気軽に遊べなくなった近頃。亜弥は、再婚して愛する人と一緒に暮らしたいと強く思うようになった。

前の結婚では、見た目や収入ばかり気にしてたし、今日だって無意識に松下を品定めしてしまったけれど、いざ再婚となったら決め手はそこじゃない。

人並みのお金なら自分で稼げばいい。容姿なんていずれ劣化する。

だから……。

今度は、家事ができない自分を受け入れてくれる人がいい。

欲を言えば、家に帰ってきたときに温かいご飯が出てきたら最高なので、料理が得意な人と結婚できればいいな、と思っている。


亜弥の再婚の条件:料理が得意で、家事能力を自分に求めてこない人



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