いくら時間と金をかけても、モノにならない。

平気で人を振り回し、嫉妬させ、挙句の果てに裏切る―。

東京には、嵌ったら抜け出せない、まるで底知れぬ沼のような女がいるという。

なぜ男たちは、そんな悪い女にハマってしまうのだろうか…?

▶前回:「0.2ctのダイヤじゃ、私の気持ちは動かない。」年下男のプロポーズを突き返した、美女の思惑とは



【今週の悪い女】
名前:綾乃
年齢:29歳
職業:大手メーカー人事部
学歴:都内女子大卒
外見:暗めの茶髪で、清楚なモテ系女子


同性からはあまり好かれないが、居心地がいい彼女


「“かずキュン”、お風呂沸かしてあるよ〜」

同棲中の綾乃は、自分の方が早く帰ると必ず食事とお風呂の用意をしてくれる、気が利く女だ。

家の外だとハリのある声で「かずくん」と呼ぶが、家の中だと甘えん坊な声で「かずキュン」と言う。

それには少し気が引けるが…。

付き合い始めてもうすぐ3年、年上の彼女は今年で30歳になる。

直接は言ってこないが、そろそろ結婚を意識しているだろう。

友人の結婚式の話を頻繁にしてくるし、Instagramも花嫁のアカウントやタグをかなりフォローしている様子だ。

―本当に彼女でいいのか……?

女性経験の少ない僕は、悩んでいる。

結婚を考え始めてから、案外男の方が優柔不断かもしれないと思うようになった。

考えても考えても、なかなか答えが出ないから。


2人だけの秘密ね…その秘密とは

「御社が第一志望です」

― いったいこれを、何回繰り返せばいいんだ。

既成のスーツに革靴、真っ白のワイシャツで就活に励んでいたあの頃。僕は多くの学生たちと同じようにそう思いながら、面接に臨んでいた。

中学受験で九段下にある名門校に入り、その後は一流工業大学の院まで進学。

―この学歴があれば、難なく就活もクリアできると思ったのに…。

プライドが微塵に打ち砕かれ、僕はすっかり卑屈になっていた。

そんな時、綾乃と出会ったのだ。

「はじめまして。新卒採用を担当しております、松永と申します」

面接官として出てきた綾乃は背筋がシャンと伸びていて、きちんとしたオトナの女性という印象だった。

丸顔で幼く見える綾乃は、今考えると飛び抜けて美人ではなかったように思う。

しかし就活でダメージを受けていたからか、当時の綾乃はとても綺麗に見えた。それに他の面接官と違い、丁寧に学生と向き合ってくれるのも嬉しい。

面接の最中から彼女のことを考えられるくらい肩の力が抜けていた僕は、その会社から内定をもらい、入社を決めた。

内定は嬉しかったが、それ以上に綾乃と出会えたのが嬉しかったのだ。

これまで女性とあまり交流がなかったせいか、出会ってから綾乃のことを考えない日は1日もなかったほど。

そんな想いが実ったのは、内定者懇親会の帰り道。

「前田くん、うちに寄っていかない?」

かなりの予想外だったが、ストレートにそう誘われたのだ。

想い続けた人に、誘われる幸福…。



結局、家に入って抑えきれず、すぐにキスをした。

拒まれたらどうしよう…と一瞬怯えたのも束の間、彼女はそのキスを受け入れてくれた。

ふっくらしていた唇のあの感触は、生涯ずっと忘れないだろう。

「ふたりだけの秘密ね」

翌朝ベッドの中でまだ眠い目を擦っていると、悪戯っぽい笑顔で綾乃に囁かれた。

「会社にバレたらお互い終わりだから…」

薄氷を踏むように、コソコソと愛を育む生活が始まった。



綾乃とのデートは、バリエーション豊かだ。

実家から車を借りてドライブしたり、近所のカフェへ行ったり…その日のテーマを決めてデートをする。

しかし最近はパターン化していた。買い物もしくはジムで一緒に汗を流したあと、予約困難店に食事に行くという流れだ。

綾乃が高級レストランに行きたいと言ったときは、正直ビクビクしていた。

何万もかかる食事なんて慣れていなかったし、その前の買い物で綾乃は必ず物をねだってくる。

しかし、慣れとは恐ろしいものだ。

いい店に行けば行くほど、僕はそういう食事にハマった。

今まで全くと言っていいくらい、遊んでこなかったからだ。

また「う〜ん、美味しい♡」といつも頬に手を添えながら微笑んでくる綾乃を見るのは、幸せだった。

ただ、物をねだってくることだけは、かなり気がかりである。

でも恋愛経験豊富な友人に相談したところ「高くても2〜3万円の物をねだるなんて可愛い」と言う。

友人の彼女は、なんでもない日にハイブランドの20万程度の新作バッグやジュエリーをねだってくるらしいのだ。

それと比較したら、たしかに綾乃は可愛い。

しかしそれが恒例となっているので、これまで結構な額を綾乃に使っている。もちろん給料だけでは足りず、学生時代起業して貯めていたお金や、仮想通貨に助けられていた。

だから正直これを直してくれないと、結婚は難しい。はっきりそう言うべきだろうか。

でも、もしそれで彼女に引かれてしまったら…。

彼女がいない生活に耐えられない僕にとっては、それが一番怖いのだった。


高価な物はねだらない。綾乃は一体、どんな女なのか?

綾乃:私のすべてを肯定してくれて、願いを叶えてくれる男がいい


「綾乃ってほんと可愛いよね〜」

県内一の進学校でチヤホヤされていた高校時代。

何もない田んぼ道を自転車で通学する毎日だったけれど、楽しかった。

皆が私を、お姫様のように扱ってくれていたから。

天狗になった私は、自分には“お嬢様学校”が合っていると思い、大学は幼稚園からある女子大を選択した。

でも、東京生活は甘くなかった。

同級生たちは、23区に実家があり一流企業勤めの父親がいたり、生粋の内部生が大半。

地方出身の子ですら上京する際にマンションを親に買ってもらっていたり、予想を上回る裕福な子だらけだったのだ。



それでもめげずに、中央線の西の端にあるワンルームから1時間弱かけて通学し、仲の良い友人もできた。

「また、彼氏に買ってもらっちゃった♡」

いつも皆の中心で可愛く話す、必修のクラスが一緒だった地方出身の真里奈。

彼女が初めてできた友人で1番仲良くなり、憧れだった。


「またアパートに…」劣等感のあまりに口走った言葉が火種となる


そんなある日、真里奈の家に誘われて遊びに行った。

そこで私は、彼女との格差を見せつけられた。

「同じ地方出身だね」と言っていたが、大学から程近いタワーマンションの最上階の角部屋。間取りは2LDKで、優雅に一人暮らしをしていたのだ。

たしかに今思えば、彼女は当時流行っていたプラダのカナパトートもいくつも持っていたし、エルメスのバーキンも持っていた。

聞くところによると、彼女は大きな会社の代表の娘であり、この部屋は父親に買ってもらったという。

―私とは、全然ちがう……。

私は精一杯の意地っ張りで、帰り際にこう言った。

「実は私も上京する時に、家を買おうか迷ったんだ。また遊びにくるね、この“アパート”に」

すると翌日、やけによそよそしかった真里奈のiPhoneからこんなメッセージが見えた。

『マンションとアパートの区別もつかないらしい(笑)』

その噂は一気に学部内に広まった。

劣等感と嫉妬から放ったひと言で、“見栄っ張りの田舎者”というレッテルを貼られ、思い出すのも嫌な大学生活になった。



社会人になっても冴えない日々だったが、新卒採用の部署に配属されてからは人生が変わった。

「綾乃さんが決め手で御社に決めました」なんてことを言われたり、恋愛経験のなさそうな男子学生にまでモテたのだ。

だから、これが理想の女として生きる、最後のチャンスだと思った。

真里奈のように、彼に何かを買ってもらったり、皆の中心にいたり、あとは…お金持ちになれるチャンスだ、って。

和也は顔も経歴も良かったから、危険は承知で関係を始めた。

この人の妻になれれば、いつかは真里奈のような部屋に住めるって。

和也は硬派で経験も少なかったし、2万円くらいの物でも彼に買ってもらえると、愛されている…と感じるのだ。

品性のない女とは違うから、高いものなんて彼氏に求めていない。

けれど、心の中では切実にこう思っている。

私を捨てないで、早く結婚して…って。


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全てにおいて主張する…我が強い女の魅力とは