オンラインで、キラキラした私生活を垣間見せる女たち。

豪華なインテリアや、恋人との親密な関係性、メイクや服装。

だけど画面越しに見せている姿は、本当の自分とかけ離れているのだ。

先週は、涙の末に離婚を決意したバリキャリのワーママが登場した。さて、今回は…?

▶前回:家庭もキャリアも手に入れたはずの美人ワーママ。彼女がどうしても我慢できなかった、ある夜の出来事



Vol.8 “家政婦彼女”は見た


名前:生田秋絵
年齢:24歳
世帯:実家暮らし(週の半分は彼氏宅で半同棲)


「オンラインでの歓迎会で、ちょっと味気ないけど…。笹沼さん、これからよろしくね。じゃあ乾杯!」

その言葉を聞いた梨沙は、慌ててグラスを持ち上げる。そしてリビングテーブルに広げていたノートPCに向かって、乾杯のポーズをして見せた。

梨沙が新しい部署に異動して1か月。まだ飲み会は会社的にNGということで、こうして歓迎会はオンラインでの開催になったのだ。

―今、飲みに着ていけるような服がないからよかった。

新たな部署のメンバーは、全員で10人。その中で女性は、梨沙を含めて3人しかいない。マネージャーの今川遥香と、新卒2年目の生田秋絵だ。

秋絵は2つ年下なのだが「24歳ってこんなに若かったっけ?」と思うほど、純粋な子に見える。…少し自分の話が多いのが、玉にキズだが。

この歓迎会でも、なぜか途中から“自身の彼氏の話”をし始めた。

「私の彼氏、家事が全然できないんですよ〜。最近は私が家に行ってご飯作ったり、掃除してあげてるんです」

「え〜!『ちょっとは自分でやってよ』って言わないの?」

梨沙がそう言うとニコッと笑い、恥じらうこともなくこう答えた。

「まあ私は料理が好きだし、美味しいって言ってくれるからいいんです」

―結局、ノロケかい!

そこまで恋人に夢中になれるなんて、正直羨ましい。なぜなら梨沙は、気づけば1年ほど恋愛から遠ざかっているのだ。


そんな梨沙の悩みに気づかない秋絵は、無邪気にこんな発言を…

「今の彼氏だったら収入も安定してるし、将来も考えてるんですけど…。どうしたら結婚できますか?遥香さんはご結婚されてますよね」

「えっ、私!?ど、どうだったかなあ。忘れちゃった」

唐突に話を振られた遥香は、異常にたじろいでいる。結婚して長いと聞いているが、何か隠したいことでもあるのだろうか。

―この部署、なんだか不思議な人が多いのかも。

それが、この歓迎会に参加した梨沙の感想だった。



生田秋絵のオフライン「彼のことは好きだけど、怖い…」


朝9時に枕元で鳴ったアラームを止めると、秋絵はベッドから起き上がった。

―よかった。礼くん、まだ目が覚めてないみたい。

ここは恋人である及川礼が住む、代々木上原の1Kのマンション。

そっとキッチンに移動すると、サラダとトースト、スクランブルエッグを2人分用意する。バターの香りが辺りにふんわりと漂い始めた頃、彼が起きてきた。

「おはよう。朝ごはん、もうちょっとでできるから待ってて…」

「ああ。コーヒーも淹れてくれる?」

そう言うと礼はダイニングテーブルまで移動してきて、スマホゲームを始めた。急いで2人分の朝食を並べていると、今日の予定について問いかけてくる。

「今日、どうする?秋絵は何か予定があるんだっけ」

「夕方には実家に帰らないといけなくて…。だから、お昼までには表参道に行って買い物したいな」

「いいよ。その前に仕事が残ってるから、クリーニングを取りに行ってきてもらえるかな?」

そう言いながら、秋絵の頭をポンポンと撫でてくる。彼の指が自分の髪に優しく触れると、少しホッとするような気持ちになった。

礼は、21歳の時にできた“初めての彼氏”だ。

就職活動をしていた頃、国内トップの電機メーカーに勤めている4歳年上の礼を友人に紹介され、OB訪問したのが出会いだった。

そして何かと秋絵のことを気にかけてくれるうちに、いつしか好きになっていたのだ。

小学校から高校までずっと女子校育ちだったから、父親以外の男性は未知の存在に近い。他の男を知らないからこそ、彼と付き合うなかで「私にはこの人しかいない」と思うようになった。

―彼とずっと一緒にいれば、私は幸せになれるんだよね…?

秋絵は最近、自身にそう言い聞かせながら、彼との時間を過ごしている。

礼はさっさと朝食を食べ終えると、食器を下げることもなく洗面所に直行してしまった。

「仕事はできるのに、こういうところは子どもみたいなんだから…」

ボヤキつつも食卓を片付けると、頼まれていたクリーニングの受け取りに出かける。彼は服へのこだわりが強い。今回のスーツも「オーダーメイドのものだから、大事に扱うように」と注意を受けた。

―もしこのスーツを汚してしまったら、何を言われるんだろう。

そんなことを考えると、秋絵はなんだか怖くなるのだった。


彼に対する不安を押し殺していた秋絵に、最悪の事件が…

「それ、ちょっと色合いが暗いんじゃない?」

試着室のカーテンを開けると、礼が口を出してくる。

秋絵は24歳になっても自分に似合うテイストが分からず、これまでもショッピングに出かけては、彼好みの服を買っていた。

「そうかな?こういうちょっと大人っぽい雰囲気の服も着たいんだけど…」

「俺が秋絵に似合うものを一番知ってると思うよ。ほら、これとかいいじゃん」

彼の言葉通りに、指定されたシフォン生地のワンピースを買うと、その足で近くのカフェに立ち寄る。

時刻はすでに16時近く。あと1時間ほどで帰らなければいけない。そのことを伝えると、彼はこう言ってきたのだ。

「晩ご飯は用意してくれたのかな?秋絵の手料理が食べたかったから」

当たり前のように出てきたその言葉に、なんだかモヤモヤする。

いつもならここで謝って済ませるのだが、以前のオンライン歓迎会で梨沙に言われたフレーズを、ふと思い出してしまった。

「そのくらい、自分でやってよ…」

そう言った瞬間、礼の目つきが急に鋭くなった。

「尽くしてくれる秋絵が好きって言ったの、忘れちゃった?」

刺すような視線を向ける彼から、目を逸らすことができない。さらにこのやりとりの間、テーブルの下では、礼に足を踏みつけられていたのだ。

好きだけど、怖い。

それが、彼に対する本当の気持ちだった。





その翌日。秋絵が結局LINEで謝り倒すと、夜になって彼から一言だけ返信のメッセージが届いた。

「家がちょっと散らかっているから、掃除をしてくれる?今日は帰りが遅くなるから」

そう言われるとすぐに彼の家へと向かい、合鍵を使って中に入る。

いつものように部屋の隅から掃除機をかけていくと、PCデスクの下で何かに引っ掛かったことに気づく。何の気なしに拾ってみると、それは給与明細だった。

「えっ…。嘘でしょ?」

明細を見た瞬間、秋絵は開いた口が塞がらなかった。そこに書いてある会社名は、彼から聞かされていた勤務先とは全く別のものだったからだ。

見てはいけないとは思いつつも、いくらもらっているのか、つい確認したくなってしまう。

そして記載された金額を見た時、やっと目が覚めた。…ずっと、心のどこかではおかしいと思っていたのだ。

礼は「自分と一緒にいれば安泰だ」と言うわりに、クリーニング代を立て替えておいても支払いを渋ったり、食事代もきっちり折半にしようとする。

それにもし彼が、告げていた会社に本当に勤めていたとするならば。代々木上原であれば1LDKに住めるはずだから。

秋絵は、彼と最初に出会った日のことを思い返す。

「ごめん。今、名刺を切らしていて」

最初の挨拶がそれだけで、それから結局、彼の名刺や社員証は見ていない。

―私、ずっと洗脳されてたんだな。

“この人と一緒にいれば幸せになれる”というのは、彼にコントロールされて作られた勝手な思い込みだったのだ。

しかしそれは“高収入の男との結婚=幸せ”という、秋絵の他力本願な思い込みでもあった。

たとえ彼が本当に一流企業に勤めていたって、こんな関係では幸せになれない。そのことにも薄々気がついていたのに、ずっと何もできなかった自分自身を悔やんだ。

―だけど、もう我慢できない。

『私はあなたの家政婦じゃないから。さよなら』

そうメッセージを送ると礼をブロックし、掃除機を置いて部屋を出たのだった。


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