過去3回の連載で、「投資する資産とは何か」、「長期投資とは何か」、「分散投資とは何か」をみてきました。最後は「時間分散とは何か」をまとめることにします。

第1回:金融資産だけでなく自分への投資も大切です
第2回:20代で「金融資産1000万円以上」はこんな人
第3回:「分散投資」のポイントは卵の格言から学ぼう

東洋経済オンライン


「安く買って高く売る」がなぜ難しいか

まずは「時間分散」の意味を説明しましょう。投資は実は簡単なことだと言われます。単純に言えば「安く買って高く売れば儲かる」という理屈ですから、「安く買う」ことが肝心。「安くなったら買う」けれど「高くなったら買わない」ようにすればいいのですが、安い時がいつなのか、このタイミングがわからないのが投資の厄介で難しいところです。しかも人は欲張りなので、「もっと」安く、「もっと」高くと欲が出てしまい、さらに難しくしてしまいます。

そこで取り入れたいのが時間分散です。手法は簡単で、「決まったスケジュールで決まった金額を投資に振り向ける」。大きな金額を一度に投資するのではなく、投資をする金額を小口に分けて投資をする「タイミング(時間)」を分散するということです。こう考えると、たとえば給料日に1万円ずつ投資をすればできますよね。


投資を一定額にすることは、相対的に安く買う方法?

時間分散ができると何が変わるのでしょうか。毎月、1万円ずつ投資をすることを考えてみましょう。ある月の投資商品の単価が1000円だったとします。その月は10口その投資商品を買うことができます。2000円に上がれば5口、5000円に上がれば2口、逆に500円に値下がりすれば20口、買うことができます。


「もっと」という欲深さを抑制できる

投資を一定額にすると、安くなったらたくさん買う、高くなったら少ししか買わないということが自動的にできます。そうです、「安くなったら(たくさん)買う」、「高くなったら(少ししか)買わない」。“たくさん”と“少ししか”という言葉を除いてみると、「安くなったら買う」、「高くなったら買わない」となります。すなわち、投資を一定額にすることは、相対的に安く買う方法と言えます。

安く買うことができれば、その買った値段よりも高く売れるタイミングまで待てば、儲かりやすくなります。まあ、それほど簡単ではありませんが、相対的に安い値段で買うことができれば、儲けを得られる可能性は格段に大きくなります。


時間分散のもうひとつの特徴とは?

もうひとつの特徴は、投資を一定時期に行うと決めておくことで、人の心にある「もっと」という欲深い部分を抑制することができます。もっと安くなるかもしれないからと思って買うのを躊躇していると、値段が反転することはよくあります。自動的に毎月決まった日(たとえば給料日)に投資をするようにしておけば、投資をすること自体を忘れることができ、自分の感情が入り込むすきはありません。


しかもこれから30年間投資を続けることを考えてみてください。毎月投資すると、合計で360回の投資をすることになります。1回の比重はわずか0.28%にしかすぎません。だとすると、投資をスタートさせる第1回目の価格が高いのか、安いのかといったことは全体からみると、たいしたことではなくなります。いつでも始められるという点も、コントロールする上で好都合です。


多くの人にまだ知られていない理論

時間分散は効果があるにもかかわらず、あまり知られていないのも事実です。最近のアンケート調査結果からわかった2つのことをお話ししておきたいと思います。投資の考え方、特にリスクをいかに小さくするかという考え方には「長期投資」「分散投資」「時間分散」の3つがあります。これはすでにコラムでまとめてきたことです。

これは有効だと思うかを聞いたアンケート結果があります。このアンケートは2016年2月の後半に行ったもので、株価が大きく下落した後に行われたことでちょっと注目できます。その結果を、調査回答者1万2389人と投資をしている3911人に分けて集計してみました。


このアンケートからわかったことのひとつは、投資をしている人ほど3つの理論に対して有効だと理解している人の比率が高いということです。いずれの理論でも、アンケート回答者全体のほぼ2倍の比率で投資をしている人では有効だと考えているのです。

ただ、3つの理論について比較すると、「時間分散」に関する理解度はほかの2つに比べて大きく見劣りしていることがわかります。もちろん、時間分散の必要度が低いということではありません。金融機関では、「価格が下落しても持ち続けてもらう」ために長期投資に言及し、また「新しい商品を購入する」理由として分散投資を説明することは一般的になってきました。しかし、「投資金額を小さくしかねない」時間分散はなかなか説明するチャンスが少ないということが原因なのではないかと思います。


まとまった資金がなくても投資はできる!

だとすれば、「時間分散」を理解することこそ、ほかの投資家の一歩先を進む秘訣であるはずです。しかも必然的に長い投資期間を持っている若い人たちは、その時間さえ自分の「資産」と呼ぶことができます。若い人たちだからこそ「時間分散」の効用は一層大きくなります。ぜひ、「時間分散」について理解を深めてください。

その意味で、ここ数年で起きている傾向は好ましいものです。下にあるグラフを見てください。これは、過去5回実施してきたサラリーマンアンケートで、投資をしていない人にその理由を聞いた結果の推移です。

2010年には最も大きな理由が「投資するだけのまとまった資金がないから」というものでした。その次が「資金が減るのが嫌だから」です。しかし、2010〜2016年にかけて毎年、「投資するだけのまとまった資金がないから」という理由が減ってきています。2016年の結果は2010年に比べて20ポイント近くも低下しているのです。


貢献大きいNISAの普及とDC制度

これは「まとまった資金がなくても投資はできる」という理解が進んでいることの裏返しではないかと思っています。少ない資金でも積立投資=時間分散を利用した投資ができるとわかってきたということではないでしょうか。その背景には、NISAの普及があるかもしれません。

NISAは少額投資非課税制度のことで、投資が「少額」でもできるということを広く認知させました。また、会社が毎月給料日に個人の年金口座に拠出をするという確定拠出年金(DC)制度は「時間分散」そのものを具現化したものです。この制度への加入者が、着々と増えていることも後押しているように思えます。

4回のコラムでお伝えしたかったことは、社会人生活のスタートラインに立って、自分の持っている、また将来持つことができる「資産」とは何かを広い視野で考えてみて欲しいということです。すべてそこから始まります。金融資産だけが資産運用の対象ではありません。「長期」の視点に立ってすべての「資産」を想定し、それを分散することでリスクを避け、収益を最大化する方策を身に付けてください。


著者
野尻 哲史 :フィデリティ退職・投資教育研究所所長

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