二子玉川の妻たちは 最終回:「私がトップよ!」勝利した妻の隙をつく、刺客は誰?

二子玉川の妻たちは 最終回:「私がトップよ!」勝利した妻の隙をつく、刺客は誰?

結婚は、女の幸せ。

しかし結婚しただけでは満たされない。女たちの欲望は、もっと根深いものだ。

二子玉川のタワーマンションでポーセラーツおうちサロンBrilliantをオープンし、浮かれる由美。しかしカリスマサロネーゼ・マリが最上階に越してきて、出鼻を挫かれる。

マリに対抗すべく画策する由美は、雑誌掲載のチャンスを掴むなどして徐々に力を付ける。

時は経ち、マリは子育てを優先するためサロンでのレッスン数を減らす。しかしポーセラーツサロン界トップの座を守るべく策を講じ、由美にも宣戦線布告するのだった。

しかし白金の妻との再会で上には上がいることを知って意気消沈したマリは、由美に引退を表明。

ついにトップの座を勝ち取った由美の、その後やいかに?



サロンを辞める妻、続ける妻。


アンダーズ東京のラウンジ『アンダーズ タヴァン』で偶然マリを見かけた由美は、その佇まいがいつもと異なることに、すぐに気が付いた。

纏っている空気が、別人のように違うのだ。

鎧を脱ぎ捨てたような、肩の荷をすべて放り投げたような。そしてそういった類のものの代わりにマリを包んでいるのは、柔らかく穏やかな光。

自身に内容証明を送りつけてきた女とは思えず、二度見してしまったほどだ。

罵倒されるのを覚悟して声をかけたのに、マリはやはり別人のように穏やかな笑みを浮かべるので、由美は面食らってしまった。

聖母マリアの如き包容力を見せるマリに、自分まで戦意喪失させられた気がしたが、しかしマリの口から発せられた「サロンを閉めることにした」という言葉を聞いて、由美の脳裏にまっさきに浮かんだのは「これで私が頂点に立てる」という立身欲だった。

―やっと、やっと私がトップの座に…!

そう、由美はまだ、女どうしの格付け争いを自ら降りるほど、悟りの境地に達してはいなかった。


ついにトップの座を獲得した由美。そして開催される、2周年パーティー!

女たちからの羨望が、私に自信をくれた。


二子玉川にそびえる高級タワーマンション。

42階建8階の1室で、由美はせっせとインビテーションの封詰め作業をこなしている。

由美のおうちサロンBrilliantは、間もなく開業2周年を迎える。

1年前もこうして、多摩川の夜景を見下ろしながら招待状の準備をした。その時の光景も気持ちも、まるで昨日のことのように思い出せる。

しかし、この1年で大きく変わったことがある。

同じマンションの最上階に君臨していたカリスマサロネーゼ・マリが引退し、名実ともに由美が、ポーセラーツサロン界でトップの座を獲得したことだ。

マリのサロンに通っていた生徒を由美が受け入れたこともあり、生徒数は200人にまで増えた。(サロンに通う頻度は様々で、休眠会員も多いが。)

最大4名しか対応できない自宅リビングは連日満員。Brilliantは今や、最も予約のとれない人気サロンとして名を馳せているのだった。



Brilliantの2周年パーティーは、玉川高島屋にある『代官山ASO チェレステ』を貸切で開催された。

そう、ここは以前、カリスマサロネーゼ・マリがサロン移転パーティーを開催した場所である。

あの頃由美はまだBrilliantをオープンしたばかりで、マリのパーティーの規模の大きさにただあんぐりと口を開けるしかなかった。「何このバブル感(笑)」などと馬鹿にするしかなかった。

自身の力の無さを認められぬがゆえの嫉妬。今になって思い返すと、器の小さな自分がただただ恥ずかしい。

あれから、2年が経った。

資金力の違いで、マリのように参加者を無料招待にすることはできなかったが、それでも80名規模の会場いっぱいに生徒たちが集まってくれている。

賑わうパーティー会場を見渡し、由美は震えるほどの感動に包まれた。

自身に向けてカメラを構える生徒たち。そのひとり一人に満面の笑みを返しながら、由美は頭上に降り注ぐ羨望に酔いしれるのだった。

開業当初、連日閑古鳥が鳴き、空席を誤魔化すために生徒の手元アップばかりを撮影しアメブロに投稿していた、あの頃。

はじめて参加した雑誌撮影で、無名の脇役Aとして雑に扱われたこともあった。

しかし今や、そんな由美の姿は見る影もない。

開会を宣言するべく正面に用意されたステージに上がる由美は、カリスマサロネーゼと呼ぶにふさわしい、堂々とした佇まいであった。

由美はこの2年、貪欲なまでに女たちからの羨望を集め続けることで、大いなる自信を手に入れてきたのだ。


羨望に酔いしれる由美。しかし盛者必衰が世の常…

盛者必衰。消えてはすぐに現れる、目障りな妻。


「由美、2周年、本当におめでとう。」

由美がおうちサロンBrilliantの知名度向上のために入会し、会員No.1として活動してきた、アロマライフスタイル協会代表のミカが、代表して祝辞を述べる。

彼女とは文字通り二人三脚で協会を育ててきた。当初はお互いに利益を享受し合うだけの関係だったが、共に歩んだ年月は、思いがけず深い絆となっていた。

ステージを降りた由美が、ミカから淡いピンク色の薔薇の花束を受け取り、抱擁を交わしていると、ふいに横から聞き覚えのある声がした。

「由美さん、おめでとうございます❤」

「薫ちゃん…!来てくれたのね。お忙しいのに、どうもありがとう。」

薫は、由美が損保OLをしていた頃の後輩で超がつくお嬢様だ。

彼女もまた結婚を機に会社を退職し、現在は自宅とは別の用賀の一軒家で、英国式ティーサロンQueen’s Teaを主宰している。

以前は前髪を眉下で揃え、ビジュー付のトップスにふんわりスカートを合わせるような、ザ・お嬢様という出で立ちだった彼女だが、サロネーゼとして人前に立つようになってから、前髪も横に流し、服装もぐっと大人っぽく変わった。

風の噂で聞くところによると、彼女のサロンは、一切の妥協のない贅を尽くしたおもてなしが話題を呼び、ハイエンド向けの雑誌などで取り上げられたりもしているそうだ。

そんな薫もまた、由美のおうちサロンBrilliantの生徒である。

最初はアロマライフスタイル協会のレッスンを受講しに由美のサロンを訪れた薫だったが、ポーセラーツもやってみたいと言い出し、「どうせ習うのなら」とインストラクターコースを受講。半年前に資格取得を完了している。

ポーセラーツはあくまで趣味で、レッスンをする予定はない、と言っていたが…?

「そうそう由美さん、ちょっとご報告があって…」

にじり寄るように一歩身体を近づける薫に、由美は本能的に身構える。

なぜだか説明できないのだが、次に薫から発せられる言葉は、由美の望まぬセリフのような気がしてならないのだ。

「な、何かしら?」

聞かざるを得ない状況なので仕方なく問う。

「…由美さんがお住まいのマンション、33階の1室が空いたの、ご存知ですか?」

「え?…そうなの?知らなかったわ。」

―何を言い出すのだ、この女は…。

不穏な空気に、由美は急速に胸が苦しくなる。

「実はもうすぐ、おばあちゃまがイギリスから一時帰国することになって…。用賀のお家が使えなくなるんです。」

薫の話し口調はゆっくりで、それが由美の呼吸をさらに乱す。

「…それでね、由美さんのマンションの33階のお部屋を、借りることにしました❤」

―何ですって?!

言葉に窮する由美に、薫はさらに追い打ちをかける。

「せっかく資格もとったから、ポーセラーツレッスンもしようかしら♪」

お嬢様・薫はいつも、無邪気に人のプライドをへし折ってくる。破壊力抜群の言葉を口にしているのに、しかしその声色には徹底して品が漂い、由美を見つめる瞳には一点の曇りも見当たらないのだ。

―薫には、悪意などないのだから。

そう自分に言い聞かせる由美。だが、由美の、薫に対する理解は少々浅かったようだ。

目の前で微笑を湛える薫が俯いた瞬間…口元に一瞬だけ、しかしくっきりと、優越の色が浮かぶのを、由美は目撃してしまったのだ。

―なるほど。

すべてを察知した由美は、二子玉川の妻たちの戦い・第二章の開幕を、静かに覚悟するのだった…。


Fin.


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