先月発売した小説「春、死なん」(講談社)の重版が早々に決まるなど、今もっとも注目を集めている女性作家・紗倉まな(27)が、本紙の単独取材に応じた。自らを“えろ屋”と呼んで謙遜する紗倉だが、あふれ出す才能はもう誰にも止められない!

「春、死なん」は、妻に先立たれた70歳男性・富雄が主人公。老人の恋と性をテーマにしたのは、AVリリースイベントに来てくれたお客さんとの会話がきっかけだった。紗倉によると、高齢男性には“温かさ”があるという。

「自分と世代が近い方の中には、照れ隠しなのか『おっぱい、ちっちゃくなった?』とか私がしょぼんとすることを言う方がいるんです。一方で年配の方は『カワイイね、孫と同じくらいだよ』って父性あふれる言葉遣いで接してくださる。でも、実際にはAVを購入してくれているから参加できているわけで、私を性的な対象としても見てくれてて、父性と性が並んでいることをすごく不思議に感じたんです」

 コンビニでアダルト雑誌を買う富雄。孤独な老人であるが男でもあり、孫娘の前では、おじいちゃんでもある。紗倉は“家族”としての役割と、性の裂け目を丹念に描いていく。

「大人になるにつれて、無条件に家族にさせられている部分も強い気がしたんです。父親は外で働いて、母親は家事をして…という一般家庭の固定概念で、息苦しさを感じてしまう人も多いのかなって」

 家族の役割のみならず、社会が暗に押し付ける「○○らしさ」は人を簡単に萎縮させてしまう。

「たとえば『AV女優らしさ』でいうと、普段から谷間が見える服装をしてる人が多いと思ってて、私がアースカラーの割と地味な服を着てると『らしくない』と。でも、根底にあるのはきっと『AV女優なんだから谷間ぐらい見せろ』みたいなものですよね? 私がツイッターで自分の意見を書くと、今度は『意識高すぎて抜けない』とか返ってくる。正直『○○らしさ』を強要する人は面倒くさいなって思います(笑い)」

 物語終盤に富雄が「役割」から解放される場面がある。

「なにが七十歳だ。たかが七十歳だ。When I’m Seventyだ」。ビートルズの曲「When I’m Sixty−Four」が直前にさらりと登場してからの展開だけに、余計にドキッとさせられる。

「実は私の父が毎週、長文で湿っぽいメールを送ってくるんです。父と母は離婚しているので全然会っていないんですけど、あるとき、『遂に俺もビートルズの歌(の年齢)になっちゃった』と送ってきたことがあったんです。そのときはうざったいなと思ってたけど『春、死なん』を書いている途中に思い出したんです。その世代の方はビートルズを聴いていたんだろうと思って曲を聴いてみたら、年齢を重ねてしまったむなしさをしみじみと感じて。ここだけは父に感謝しましたね!」

 AV女優であり作家でもある紗倉は、もはやそのどちらにも縛られることがないだろう。“えろ屋”として己の道を歩いているのだから――。

【担当編集者の目】もともと前任の担当者が、書き下ろしで紗倉さんに小説をお願いしたのですが、「春、死なん」はぜひ「群像」に載せたい作品だと、文芸誌での掲載が決まりました。

 私は「ははばなれ」から担当をつとめていますが、彼女の観察眼がすごい。なんでここまで書けるんだろうと描写力に驚きました。彼女がもともと持っていたもの、読んできた中で培われたものなのかなと。どんどん伸ばしていい作品を書いていただきたいと思います。(講談社文芸第一出版部・加藤玲衣亜)