代償は計り知れない――。新型コロナウイルス感染拡大の影響で混迷を極めていた東京五輪・パラリンピックの開催は「1年程度の延期」で電撃決着した。安倍晋三首相(65)と国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長(66)の間で「遅くても2021年夏までに開催」で一致し、その後のIOC臨時理事会で承認された。史上初の事態だけに課題を挙げればキリがない。特に限界ギリギリで今五輪に懸ける“ビッグネーム”たちは大ピンチ。土俵際に立たされた面々とは?

 バッハ会長のお株を奪う“強権発動”だ。22日に確認された「4週間以内の調整」の腹づもりだった東京五輪組織委員会の森喜朗会長(82)に対し、安倍首相は「1年程度の延期」を提示。新型コロナウイルス感染拡大の現状に鑑み、年内開催も不可能と判断すると、バッハ会長は「100%同意する」と返答したという。

 もちろん問題は山積だ。注目の観戦チケットに関して武藤敏郎事務総長(76)は「すでに入手している方に対して配慮したやり方を考えたい」と話したが、規約に「延期」は不記載とあって先行きは不透明。そもそも開幕日はいつになるか、さらに試合会場の確保や費用、選手村の跡地に建設するマンションの購入者への補償など、無数の難題が待ち受けている。

「1年延期」で最も深刻なのは、五輪の主役となるアスリートを巡る問題だ。本紙が昨報したように「今秋開催」を主張していた国際体操連盟会長の渡辺守成氏(61)の論拠も「(1年延期は)代表選考をやり直す必要が出てくる。なぜかというと、すでに代表に選ばれている57%の選手の大部分は1年以上前の成績で選考されているから」だった。

 すでに五輪代表に内定した選手の権利を持ち越すのか? 新たに選考し直すのか? 日本陸連の河野匡マラソンディレクター(59)は「代表を保持するかは話し合わないといけない」と困惑。競技団体によって方向性もマチマチだけに、大混乱は必至だ。

 何より戸惑いを隠せないのはベテランたちだろう。サッカー男子で、24歳以上のオーバーエージ(OA)枠で代表入りを狙うMF本田圭佑(33=ボタフォゴ)は東京五輪を「集大成」と位置付けるが、ある代理人は「また年齢を重ねてパフォーマンスは落ちるだろうし、次の移籍先を決めるのは相当厳しいのではないか」と指摘。1年延期でさらに窮地に追い込まれるのは間違いない。

 体操男子のエースで個人総合五輪2連覇の内村航平(31=リンガーハット)は、昨年4月の全日本選手権で2005年以来となる予選落ち。現在は復活ロードを歩んでいるが、体はボロボロで限界を迎えている。過去に「東京で五輪をやるのは一生に1回。自分を突き動かしてくれる原動力」と語った上で、東京五輪がなければ「たぶん現役を続けていない」と発言。1年の重みは自身が最も分かっている。

 重量挙げ女子で3大会連続メダルを目指す三宅宏美(34)も「1年はちょっと長い。体力的、年齢的に事の重みを感じる。2年延期なら諦めていた」と複雑な胸中をのぞかせる。

 五輪史上に残る大記録にも黄信号がともる。1964年の東京大会にも出場した馬術の“生きる伝説”法華津寛(78)は史上最高齢79歳での出場を狙っているが「1年延期」となると80歳。かつて本紙に「朝起きてやる気が湧かない日がたまにある。半年前から左足も衰えている」と語っており、気力と体力を維持できるか。

 実績十分のアスリートたちにとって「1年延期」は、周囲が思う以上に心身ともに大きな負担となるのは間違いない。果たしてビッグネームには受難となった“延長戦”を戦い抜くことができるのか。