東奥信金(青森県弘前市)は個人客の取り込みを強化しているが、そのセールスの土台は職域にある。企業が成長すれば、結果的にそこに勤める個人客の囲い込みにもつながる。このため、東奥信金が力を入れているのは、商談会を活用した販路拡大で企業の成長を手助けすることだ。

 「今の経営の基盤を固めるのに商談会は役立った」。こう語るのはリンゴの生産、加工品製造を手掛けるタムラファーム(同)の田村昌司社長(61)だ。同社の2018年販売額は5年前の2.3倍に成長した。シードル、アップルパイなどの加工品が好調だ。

 タムラファームは1989年創業。天候の影響などでリンゴの生産量が減少した場合の対策という意味合いから、加工品製造へと事業の幅を広げてきた。田村社長は「商談会というのは、取引先となる多くのバイヤーが来る。首都圏、関西圏に販路を拡大する一つのきっかけになった。2014年にシードルなどを自社で作るリンゴ加工醸造所を建てた際にも、東奥信金の融資を受けた」と語る。

 生果の生産から加工品の自社製造へと、着実に事業を拡大する後押しをしたのは、東奥信金が支援した商談会でもあった。さらに、シードル工場という新規の設備投資に東奥信金が融資するという好事例とも言える。

 信金や信用組合は、銀行よりも貸出利回りが高いのが一般的。中小零細企業や個人事業主を多く相手にしているからだ。銀行の貸出利回りが低いのは、信用力の高い企業や自治体との取引が信金・信組より多いためだ。東奥信金の19年3月期の貸出利回りは2.75%で、青い森信金の2.26%より高い。ほかよりも低い貸出金利を提示するなど、金融の現場では事業者への融資を巡る金融機関同士の金利競争が常に発生している。

 顧客は、東奥信金の支援をどうみているのか−。

 「融資の金利が多少高くても、人対人のつながりがあるから、利用されているのではないか。信金は転勤で職員が変わっても地域の中にはその人がいる。足で稼ぐ営業に徹することが生きる道なのでは」と田村社長。商談会の活用については「まだ発展途上にある事業者を育てたい、成長させたいという気持ちがあるのではないか」と話す。

 東奥信金は年間で六つの商談会に取引先の事業者を出展させている。常勤理事の中畑雅人地域支援部長は「成約を勝ち取るために、経営強化研修会にバイヤーを呼んで商談会のロールプレーイングをやってもらっている。商談会の前にはバイヤーに商品の特徴を説明しておき、現場では具体的な話をする。これが成約率の高さにつながっている」という。

 19年10月に都内で行われた「よい仕事おこしフェア」には東奥信金の取引先2社が出展。10件商談して9件が成約した。仙台市で19年11月に行われた「ビジネスマッチ東北」には取引先20社が出展し、113件商談したうち58件が成約につながった。

 東奥信金と競合する金融機関の幹部は、津軽地域での融資の現場をこう語る。

 「津軽の事業者に融資しようとなると、かなりの確率で東奥信金が既に入り込んでいる。合併せずに県内唯一の『狭域経営』となったことを生かし、地域に密着しているということなのだろう」