かつて盛んに炭焼きが行われていた世界自然遺産・白神山地の玄関口・青森県西目屋村に、久しく途絶えていた炭焼きの煙が立ち上っている。リンゴの木の剪定(せんてい)枝や、担い手がいないリンゴ畑で伐採した幹などを原料に、弘前コーヒースクール(成田専蔵社長)の炭焼き小屋「白神炭工房 炭蔵(すみぞう)」が同村居森平地区で稼働中だ。成田社長は昨年4月、弘前市から同村の「道の駅 津軽白神」内にコーヒー焙煎(ばいせん)所を移転、焙煎に最適な炭づくりにも力を注ぐ。リンゴの木という地域資源を生かし、炭焼き文化の歴史をつなぎ、さらに「西目屋村をコーヒーの聖地に」と夢を思い描く。

 村産業課などによると、同村での炭生産は昭和20〜30年代がピーク。炭は暖房の燃料などとして販売していたが、石油が主流になって需要が減り、衰退した。昭和初期、地域の女性は炭を背負って里まで歩いて運んでおり、その姿を基につくられた工芸品「目屋人形」は今も製作され、水陸両用バスのガイドが同じ衣装を着用するなど村のトレードマークとなっているが現在、炭焼きで生計を立てている村民はいない。

 炭蔵で炭焼きを主に担当するのは「チャコールマイスター」の肩書を持つ長尾克彦さん(63)。元サラリーマンの長尾さんは一から炭焼きを学び、試行錯誤を繰り返しながら良質の炭づくりに汗を流す。最初の炭は、窯の密閉が不十分ですべて灰にしてしまったというが、繰り返すうち温度を急激に上げ下げしないことなどコツをつかんだ。リンゴの木の炭は、一般に売られている炭に比べて火の付きが良く、爆跳しづらいのが特徴。副産物で木酢液ができるほか、形の面白い炭を長尾さんの目利きで取り置きし「炭盆栽」として道の駅内にある「白神焙煎舎」などで販売。弘前市樋の口の旧焙煎所では毎週日曜日、好きな形のものを選んで炭盆栽にするサービスもあり好評だ。

 「おいしいコーヒーづくりのため、炭は重要」と話す成田社長は、炭焙煎の利点は、ガスに比べて水分が出ないためカラッと仕上がり、遠赤外線の影響で豆の中まで均一に火が入ると説明。炭焼きコーヒーは、自らが思い描く理想郷・西目屋村でしか出さない予定といい「大量生産ではできない津軽らしいコーヒーは、他でまねできない唯一無二のもの。ここをコーヒーの聖地にしたい」と言う。道の駅内で焙煎体験ができるコーヒースタジオは、新型コロナウイルス感染拡大の影響で休止しているが、状況を見ながら7月再開を検討する予定だ。

 「郷土の炭で、自分だけのコーヒーを焙煎するというのは最高にぜいたく」と成田社長。炭焼き小屋も観光見学を受け付けており「地域の観光振興の一助になれば」と話す。関和典村長は「昔、目屋地域の主要産業だった炭焼きにもう一度光を当てていきたいと思っている。ここから新たに村で炭焼きを仕事にする人が出てくれば」と期待する。

 炭焼き小屋見学の問い合わせは北のコーヒー工房(電話0172-40-3821)へ。