「通るたび作品を観るのが楽しみで。ぜひ一度取材してほしい」。

片瀬在住の女性読者から寄せられた情報を頼りに記者が足を運ぶと、思わず笑みがこぼれた。

江ノ電に古民家、郵便ポスト、市公式マスコットキャラクターのふじキュン。個人宅のガレージに所狭しと木製の作品がずらりと並ぶ。片瀬海岸在住の飯森弘さん(77)宅だ。そのどれもが、素朴で味わい深い。

全て建築用の端材から切り出したり削ったりして飯森さんが作った。数は大小さまざまで数百点にのぼる。

コロナ禍の最中に出かける機会が減り、時間を持て余したのがきっかけ。子どもの頃から工作が好きだったこともあり、建物などを題材に作品を作り始めた。

のこぎりとやすり、ハンマーにカッター。専門的な工具は使わず、「最低限の道具で作る」のがモットーだ。「工具を使えば誰だってできる。時間はかかるけど、完成の達成感が醍醐味だよ」。そういって笑う。

元々駐車場だった場所の隅に小さなアトリエを構え、ひとたび作業に入れば時間を忘れて制作に没頭する。玄関前に飾る七重棟は1mを超える大作で1週間以上かけた。

通りに面した塀には展示スペースを設置。夏場はキャンプ、冬場はラーメンや焼き芋など季節に合わせて内容を変える。

道行く人が足を止め、作品について尋ねられることもしばしば。先頃は江ノ電を食い入るように見ていた男の子に作品をプレゼントすると、後日お礼の手紙が届いた。「自分が作ったもので喜んでくれる人がいるのはやりがいになる」と目尻を下げる。

通行人のリクエストにも応じるうち、交流も広がった。「これを取り上げられたらおしまいだな。やめられないよ」。創作は今や生きがいだ。