「日本からはイノベーションが生まれない」

そんな言葉をよく耳にします。なぜでしょうか?

もしかするとその前に考えたほうがいいのは、「そもそもイノベーションとは何か?」ということかもしれません。

日本では「技術革新」と訳されることも多い「イノベーション」ですが、もともとは技術のことだけを指す言葉ではありません。innovationの語源は「innovare」というラテン語。これは「中へ」を意味する接頭辞「in-」に「新しい」という意味の「novus」がくっついたもので、「新しさの中へ入っていく」すなわち「新たにする」という意味です。

ではいったい、何を「新たにする」のでしょうか。

僕は、「イノベーション」とは価値観そのものを新しくすることだと定義しています。ある商品やサービス、表現の登場によって世界の価値観が変わってしまい、新たな価値の軸が生まれること。

例えばTwitterにしろInstagramにしろ、その技術がどこにもないほど革新的だったわけではありません。Twitterは「140文字のつぶやき」と「リツイート」で、Facebookは「いいね!」で、Instagramはスナップ写真の投稿によって「映え」という文化をつくり、「新たなコミュニケーションの価値」をつくったことがイノベーションなのです。

逆に言えば、ブロックチェーンやVR(仮想現実)や5Gなど、次々に新しい技術が登場しても、新しい体験や価値が生まれなければイノベーションにならない、ということもできます。

マティスと「野獣」たちの挑戦

記事冒頭の絵をご覧になったことはあるでしょうか。

まずはじっと絵を見てみましょう。何か気づいたことや感じたことはありますか?

――みんな裸? そうですね。子どもみたいな絵? たしかに。ユーモラス? 色がきれい?

この絵はアンリ・マティスという近代の巨匠が描いた、近代美術の名品とされている絵画です。タイトルは「ダンス」。そう言われるとくるくると踊っているようにも見えますね。リズムや動きを感じる構図やコントラストの強い色使いが特徴的な絵です。

しかし一方で、この絵が「上手」な絵かというと……『モナリザ』と比べるとまるで子どもの絵みたいですよね。

そんな絵がなぜそれほどの「名画」とされるのでしょう?

それはマティスが「野獣」だったからです。

マティスが生まれた19世紀、フランスでは政府に認められた「サロン・ド・パリ」という展覧会があり、正統な絵画が高く評価されていました。歴史画や宗教画など高尚なテーマ、狂いのないデッサン、そして写実的な筆致と色使い。サロンの代表的な画家にドミニク・アングルがいますが、彼の絵をみると当時の価値観がよくわかります。