育児には、人の数だけ苦悩がある。私自身、かつて慣れぬ育児で自己嫌悪の沼に落ちそうになっていた頃、心の支えにしていたエピソードがあった。作家の岡本かの子が、息子の岡本太郎を柱に縛って仕事に励んでいたという育児伝説である。

現代であれば通報待ったなし。いや当時であっても、相当の激ヤバ母さんだろう。だが、そんな雑な育児でも大芸術家が育つのだ。それなら縛り付けたことのない私の育児は全然大丈夫であるはず、と奇妙な安心感に包まれたものだ。

岡本かの子は理想的な聖母や賢母とは言えないが、子どもの人生を乗っ取ろうとする〝毒母〟とも違う。ただただ自分自身であり続けたために、我知らず型破りな育児をしてしまっただけだ。

正しい母になろうとするのではなく、自分を貫いて独特な育児をするスゴい母、それを本書『スゴ母列伝〜いい母は天国に行けるワルい母はどこへでも行ける』では「スゴ母」と呼びたい。今回はこの中から、ミステリー界の女王と言われた作家・山村美紗の子育て術を紹介する。

娘が語る「スゴ母」は鉄板ネタ

おそらくテレビで一番ネタにされている〝スゴ母〟は、ミステリー作家の故・山村美紗ではないだろうか。

長者番付の常連だったベストセラー作家にして、日本舞踊は花柳の名取、華道は池坊准華監、加えて茶道の師範免状と車のA級ライセンスを持つ華やかな「トリックの女王」。

くるんくるんのパーマにピンクのドレスというアー写からも、そのベタな女王らしさが伝わってくる。自作の映像化の条件として長女の山村紅葉の出演を要求したという親バカエピソードも、つとに知られるところだ。どう話しても面白く転がる要素しかない。そういうわけで、母の思い出を語る山村紅葉は、トークバラエティーで引っ張りだこだ。