新型コロナウイルスの問題をはじめ、変化の全く読めない時代を私たちは生きています。このような有事にこそ、社会を生き抜く力を子どもたちに与える必要があり、それが教育の目的の一つでもあります。

『「教える」ということ』の著者で立命館アジア太平洋大学(APU)学長・出口治明氏が「子どもに与えるべき力」について解説します。

前回の記事で、「教育の2つの目的」について、①自分の頭で考える力を養う、②社会の中で生きていくための最低限の知識(武器)を与える、と説明しました。

今回はこの2つ目、「②社会の中で生きていくための最低限の知識(武器)を与える」についてお話します。

実社会に出たときに困らないように、「生きるための武器」、つまり、社会を生き抜くために必要な基礎的な知識を与えることが大切です。大人になってから、自分ひとりで社会と(あるいは人生と)戦うとき、手ぶらのままでは、勝敗は明らかだからです。

最低限、現在の民主主義社会の根幹をなす次の7つの知識を教えるのが教育だと僕は思います。

【社会を生き抜くための7つの武器】
①「国家」の基礎を知る
②「政府」の基礎を知る
③「選挙」の基礎を知る
④「税金」の基礎を知る
⑤「社会保障」の基礎を知る
⑥「お金」の基礎を知る
⑦「情報の真偽」を確かめる基礎を知る

民主主義社会とは、成熟した市民の存在を前提としているので、成熟した市民(=最低限7つの武器を身につけた市民)がいなければ、民主政治はすぐに衆愚政治に陥ってしまいます。

わかりにくい政治や経済についても、ひとつずつ知識を積み重ねて思考を深めていくことで、主体的に理解、選択ができるようになります。

ここで上記の7つのうち、例として「国家」と「選挙」の基礎的な知識を解説しておきましょう。

国家の本質とは何か

「国家」といえば、エンゲルスの名作『家族・私有財産・国家の起源』を思い出す人がいるかもしれません。よく国家の3要素として、領土、(そこに住む)人民、(領土と人民に対する)統治権・主権が挙げられますが、国家の本質は、警察や軍などの暴力手段を合法的に独占していることに尽きると思います。

誰かがケンカをして殺されたとします。するとその一族は仇討ちを考えます。赤穂浪士の世界です。放置しておくと仇討ちの連鎖が止まらなくなります。そこで個人の自力救済を禁じて国家が暴力を独占して裁くというわけです。