2019年8月に病のため夭折した京都大学客員准教授の瀧本哲史さん。彼が10代、20代の若者たちに語った「人間と奴隷を分かつもの」とは? 2012年6月30日、東京大学・伊藤謝恩ホールで行われた“伝説の東大講義”を完全収録した新書『2020年6月30日にまたここで会おう』より一部抜粋・再構成してお届けする。

「ヘッジファンドの帝王」と呼ばれる、ジョージ・ソロスという人がいます。投資の世界では超ビッグネームですが、みなさん、ご存じですかね?

(会場、数名が挙手)

あ、ちらほらいますね。

彼は「イングランド銀行を潰した男」とも言われてまして、サッチャー政権のときのイギリスの財政政策があまりにもひどいので、「これから通貨のポンドが暴落する」と予言して、巨額のポンドを空売りしたんですね。国に戦いを仕掛けたわけです。

それで困ったイギリス政府は一生懸命ポンドを買い支えたんですが、結局、国の資金が尽きてポンドは崩壊、ジョージ・ソロスは15億ドル儲けたという、とんでもない男です。

「共産主義国家」を倒そうとしたソロス

この人は1930年にハンガリーで生まれたユダヤ人でして、ナチス・ドイツにユダヤ人が迫害されまくっていた時代に少年期を過ごしました。

戦争が終わったあともソ連が侵攻して国が混乱していたのでイギリスに移住し、今はアメリカに住んでいます。

それでソロスは、イギリスにいたときにロンドン・スクール・オブ・エコノミクスに入学して、著名な科学哲学者として知られるカール・ポパーという人に弟子入りしたんですね。

本人は今も「本当は哲学者になりたかった」というぐらい哲学が好きなんですが、「君はあんまり学者に向いてないね」とポパーに言われて、やむを得ず金融業界に就職したという異色の経歴の持ち主です。

そういう、根っこに哲学があって、戦争で苦労した経験から人間の自由意志を何より大切に考えるようになった人なので、ファンドマネージャーとして巨額の資産を持つようになってから、自分の思想の正しさを証明するために、「意見の多様性がない東欧の共産主義国を倒そう」という無謀な計画を立てるんです。