最近、「資産寿命」という言葉が話題になっています。2019年6月の「老後2000万円問題」の発端となった金融庁の報告書にも出てくる言葉で、「老後の生活を営むに当たって、それまでに形成した資産が尽きるまでの期間」を意味するものです。簡単にいえば、「お金の余命」ということですね。

このような言葉が出てきたのは、今や単に長生きして「生命寿命」を延ばすだけでは意味がないと考えられるようになったからでしょう。元気に長生きができるように「健康寿命」を延ばし、そのためには好きなことができるようにお金も必要だといわれるようになってきました。「生命寿命」に加えて「健康寿命」と「資産寿命」も大切だと考えられるようになったのです。

かくいう私も最近、『資産寿命』をタイトルにした本を出しました。ただ、この言葉は「資産寿命を延ばすために積極的に投資しましょう」といった文脈で使われることが多いようです。「老後2000万円問題」も、ある意味で「資産寿命を延ばしましょう、そのために自助努力で投資しましょう」ということが含意としてあります。私は、こうした考え方に少し異論があります。

金融庁の思惑にはまった「投資意識高い系」の人たち

私の周りの評論家やファイナンシャルプランナー、投資ブロガー、金融機関の人たちは「金融庁の報告書はどこも間違っていない。当たり前の内容だ」と口をそろえます。確かに間違ったことは書いてありません。ただ、その表し方があまりにも軽挙妄動だと私は思うのです。

「貯蓄から投資へ」を推進したいという金融庁の意図はよくわかりますし、報告書を丁寧に読めば、かなり気を遣って書いてあるということもわかります。しかし、実際に報告書をじっくり読む人は少ないでしょう。金融庁は、報告書に「2000万円」という金額を具体的に示せば、それが誤解を招いたり独り歩きしたりする可能性を十分予見できたはずです。

昨年の騒動をきっかけに投資を始めた人も多いようですから、そういう意味では金融庁の思惑どおりになったのかもしれません。でも、そうやって投資を始めた人の多くは「意識高い系」でしょう。「投資意欲はあるもののきっかけがなかった」という人たちや、何よりも投資を始めるだけの経済的なゆとりがある人たちなのです。