新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、先進諸国が人為的に経済活動を止めている。こうした状況は長く続きそうだ。欧州などと比べると、日本はまだ経済活動を続けているほうではあるが、ロックダウン(都市封鎖)などの措置が今後とられる可能性はあり、予断を許さない。

経済活動の停止から供給制約を懸念し、日本もインフレになると主張する向きが見られる。だが、現状は戦争や大規模自然災害とは異なり、工場などの生産設備が毀損したわけではまったくない。過去のこうした災難を引き合いに出して、インフレを主張するのは的外れだ。

マスクの逼迫や不安心理から来るトイレットペーパー不足といった現象は一時的で一部に限られる。これは増産やパニック的な買い占めの沈静化によって解消していくものだ。逆にいえば、日用品にしか需要はないのが現状ともいえる。

消費者物価の公表数値は全国が2月まで、東京都区部は3月中旬速報値までなので、新型コロナウイルスによる活動停止の影響はまだほとんど出ていない。それでも物価の基調は弱かった。2月の消費者物価総合指数は前年同月比プラス0.4%、生鮮食品を除く総合指数は同プラス0.6%だった。3月の東京都区部は総合指数、生鮮食品を除く総合指数とも前年同月比プラス0.4%である。消費増税による押し上げ1.0%と幼児教育無償化による押し下げ0.6%を除くと、物価はゼロ近傍だ。これは、エネルギー価格の下落に加え、消費増税の影響で耐久消費財の販売などが弱かったためだ。

足元では、需要の落ち込みが大きいためにトヨタ自動車やマツダは国内工場も操業を停止・縮小する動きになった。世界中で需要がどんどん崩れているため、懸念されるのはインフレではなく、需要不足によるデフレの復活だ。今後は物価上昇率がマイナスになっていくと予想しているエコノミストが多い。

需要の減少に賃上げの弱さが重なる

これから先は物価を押し下げる要因が圧倒的に多い。

まず、先行き不安から住宅や車などや関連する耐久消費財の購入は手控えられることが予想されるうえ、外食、宿泊、観光業などのインバウンド関連はすでに壊滅的な影響を受けている。イベントの自粛等でサービス業全般に国内需要の落ち込みも大きい。

物価に大きく影響するのが、足元の原油価格の下落である。原油価格の下落は原油の消費国日本にとっては生産コストの低下につながり、本来悪いことではない。需要が旺盛であれば、多くの企業の利益が上がるのでむしろプラスに働く。しかし、現状では消費活動が活発でないので、原油価格の下落による恩恵は限定的となる一方、物価には下押し圧力として働く。

さらに、長期的に影響の懸念されるのが今年の春闘の賃上げが弱かったことだ。昨年の半導体市況の悪化や自動車需要の落ち込みでもともと企業は賃上げに消極的だったところへ、新型コロナウイルスの問題が直撃した。