急ピッチで進む新型コロナウイルス感染症の治療薬開発の現場で、意外な薬に注目が集まっている。中外製薬が開発した関節リウマチ薬の「アクテムラ」だ。

『週刊東洋経済』4月27日発売号(5月2日−9日合併号)は、全48ページの「コロナ医療崩壊」特集を掲載。新型コロナ治療薬開発の最前線を追っている。

アメリカでは、同国の製薬企業ギリアド・サイエンシズが開発した「レムデシビル」が米当局から緊急使用許可を受け、国内でも5月内の超スピード承認が見込まれている。富士フイルム富山化学の「アビガン」も臨床試験(治験)が進む。

こうした新型コロナ治療薬の候補は、もともと抗エボラウイルス薬や抗インフルエンザウイルス薬として開発された。体内でのウイルスの増殖を抑える作用が新型コロナにも有効だと見られており、適応の拡大を目指して臨床試験(治験)が進められている。

一方で、関節リウマチ薬であるアクテムラは「畑違い」とも言える領域からの転用だ。中外製薬の親会社であるスイス・ロシュ社は3月末から、アクテムラの国際的な治験を開始している。人工呼吸器などが必要な重度の肺炎患者330人が対象だ。中外製薬も5月15日から、国内で同じく重症肺炎患者を対象に治験を始める予定だ。

免疫が暴走すると自分の細胞まで攻撃してしまう

アクテムラにはウイルスの増殖を抑える効果はないが、重度の肺炎を改善し、患者の命を救う“最後の砦”の薬となる効果が期待されている。

新型コロナに感染すると80%の患者は軽症か無症状である一方、残りの20%は重症化してしまうことがわかっている。数%の患者は肺炎の状態がさらに悪化し、死亡に至る。この肺炎の重症化は体内の免疫システムの暴走によって起こると考えられている。アクテムラはその免疫の暴走を抑える仕組みを持つ薬なのだ。

ウイルスに感染し体内での増殖が始まると、ウイルスを攻撃するように免疫システムが反応し、抗体を作り出す。細胞が抗体を生み出すためには、「インターロイキン(IL)6」という物質が必要になる。

免疫システムが正しく作用するために重要な役割を持つIL6だが、この物質がウイルスに対して過剰に反応してしまうことがある。するとウイルスだけでなく本来攻撃してはいけない自分の細胞まで攻撃してしまう。重症の肺炎患者は、この過剰反応に歯止めが効かなくなっている状態だと考えられている。