2016年9月、澤田貴司がファミリーマートの社長に就任したのは、サークルK・サンクスとの統合のタイミングだった。ここで5003店のブランド転換が行われたのだが、実は並行して3300もの店舗をクローズしている。ただ、ブランドを変えただけではない。この先のポテンシャルを感じられない店舗を、大胆に閉めていったのだ。それまで拡大志向が当たり前だったコンビニ業界では、ありえないことだった。

「やっぱりつらいですよ。希望退職は」

澤田貴司がファミリーマートの社長に就任すると、売り場を変え、商品を変え、広告コミュニケーションを変え、商品開発やマーケティングを変え、店舗のオペレーションも変えた。本部社員の意識も変え、人事評価の仕組みも変え、組織も変えた。

時短営業を「本部の同意なしにできる」という方針を打ち出し、何があっても加盟店の判断に合わせる、という姿勢は業界に大きな衝撃を与えた。24時間営業分担金を増額させるなど、加盟店支援制度を拡充。本部の組織のスリム化・業務効率化にも踏みだし、希望退職者も募集。2020年3月末で、1025人が退職した。澤田はこう語っていた。

「やっぱりつらいですよ。希望退職は、できればやりたくなかった。でも、誰かがやらないといけなかったんです。社員にメリットがあるものを提示できるうちに」

苦しく厳しい意思決定も含め、大胆な変革が行われてきたファミリーマート。変われない、と言われた日本の大企業が驚くほどのスピードで変わっているのである。

拙著『職業、挑戦者』の取材で最も驚いたのは、社長のオファーを受けた澤田が最初に始めたことだった。社長就任前の夏、澤田はファミリーマート一番町店で3週間にわたって研修を受け、売り場に直接、立ったのである。澤田はこう断言した。

「店舗のことを深く理解していない人間が、社長になるわけにはいきません。現場がわからなくて、どうやって仕事をするんですか」

これには社員も驚くことになった。社長になる人物が、真っ先に売り場で研修を受けたのだ。しかも数時間、体験するのではない。3週間、ほかのスタッフと一緒に本格的な研修を受けていたのである。