週刊誌などメディアで数多く取り上げられ、人々の大きな関心ごとになっている「相続」。「相続とはお金や土地だけではない。むしろ目には見えない”こころの相続”こそが大切なことではないか」。国民的作家の五木寛之氏はそう言います。

コロナ禍で人と人の関係性が変わり、社会的距離が大問題となる時代、本当に考えていかなければならない「つながり」とは何か? 最新刊『こころの相続』を上梓した五木氏による、老親と離れて暮らす若い読者に向けた渾身のメッセージです。

「食事の作法」も相続である

以前、テレビを見ていたら若いカップルが語り合っている番組がありました。

神田伯山を相続した、いまもっとも注目されている若い講釈師と、滝沢カレンという女性が、ジョークをまじえて語り合っていたのですが、なにかの話題でラーメンがスタジオに運ばれてきたのです。それを二人が味見するという趣向でした。

箸をとる際に、二人がごく自然にちょっと手を合わせるしぐさをしました。それがほとんど無意識の動作と見える自然な反応だったので、なるほど、と感心したのです。

食事の前に手を合わせるのは、昔からの私たちの習慣です。特に宗教的な形式というより、家庭での当たり前の行儀でした。しかし、いまはそんな行儀もすたれて、ほとんど見かけなくなってしまったのですが、若い二人の出演者が、ひょいとごく自然に手を合わせて箸をとったのを見て、感慨を覚えました。フィジカルなアクションが相続されていると感じたのです。

おそらく子どものころから家庭でそんなしぐさが行われていたのでしょう。さりげないしぐさだけに、感じるところが多かったのです。

そのときふと思ったのは、親や家から相続するのは、財産ばかりではないのだな、ということでした。土地や、株や、貯金などを、身内で相続するのは当然のことです。